消される調査報道=記者の逮捕に波紋―「暗部」取材を警戒・中国 | ニコニコニュース

 【北京時事】中国甘粛省で1月7〜8日、地元紙の調査報道記者3人が相次ぎ失踪、うち1人が月末に「恐喝」容疑で逮捕されたことが分かり、大きな波紋を呼んでいる。記者は拘束前に「社会の暗部」の取材・報道を続けており、当局から圧力や脅迫を受けていた。言論統制を強める習近平体制は、社会に不公正や矛盾がまん延する中国で真実を伝える調査報道への警戒を強めており、全国の新聞社から徐々に調査報道部門が消えつつある。

 ◇捜査に疑問点

 「蘭州晨報」「蘭州晩報」「西部商報」の記者が拘束されたのは甘粛省武威市。25日、2人は保釈処分となったが、蘭州晨報の男性記者・張永生氏(41)は逮捕された。28日には同紙が地元共産党委員会に宛てた公開書簡が明らかになり、拘束・逮捕の過程に「多くの疑問点」(同紙)が浮上した。

 警察当局は張氏をサウナでの買春行為で拘束したが、警察の「おとり捜査」の可能性が指摘される。さらに警察は「記者の身分を利用し、何度も他人から金品をゆすり取った」として逮捕したが、同紙側は「(取材対象の)当事者が報道をやめてもらおうと記者に金品を無理やり贈った」と反論した。

 張氏は同紙で15年間勤めるベテラン記者。近年も小中学生の売血問題や幹部の自殺の背景などを報道し、当局は「社会にマイナス影響を与える」と捉えた。地元幹部の昇進にも響くことから、張氏に「報道するな」と脅し続けた。張氏は同僚に「(当局の)宣伝部門は私を武威から追い出したくてたまらない」と漏らしたという。

 ◇「社会の脈拍」測る

 中国メディア関係者によると、北京青年報、京華時報(共に北京)、華商報(陝西省)などが最近、調査報道部門を閉鎖した。元調査報道記者は「当局による圧力や、金と時間がかかることが原因。また(中国版LINE)『微信』の普及で調査報道が読まれなくなった」と解説する。

 元記者は「中国ではうわさの情報ばかりが飛び交い、報道がなくなっている」と嘆く。「金がかかる」「読まれない」という理由で、記者が裏付けした真実の記事や鋭い解説が少なくなり、社会の劣化を招く悪循環を生んでいるが、「政府批判を減らす『愚民政策』を進めたい当局にとっては好都合だ」と元記者はみている。

 高官の腐敗を暴いてきた北京の調査報道記者も「圧力は強くなっているが、調査報道記者は時代の最前線に立ち、社会の『脈拍』を測る存在。一般のネット利用者による感情的意見ではなく、長年の職業訓練を積んだ記者の報道は大きな意義がある」との見方を示した。