“退化”した開発体制によって燃え上がるクリエイター精神がある! 『NightCry』ディレクター・河野一二三氏インタビュー【闘会議2016】 | ニコニコニュース

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文・取材・撮影:ライター 戸塚伎一

●“闘会議2016”会場で河野氏を直撃!

 2016年1月30日~1月31日、千葉・幕張メッセにて開催された、ゲーム実況とゲーム大会の祭典“闘会議2016”。ヌードメーカーの新作ホラーアドベンチャーゲーム『NightCry』が、“デジゲー博SPECIAL in 闘会議2016”のブースにて、初めてプレイアブル出展されていた。これを記念して、同メーカー代表で本作のディレクションを務める河野一二三氏(文中は河野)に、開発エピソードを語ってもらった。

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●インディーゲーム開発ならではの課題を乗り越えて……

──今回のプレイアブル出展は、開発の途中経過がなかなかアナウンスされず、待ち望んでいたファンやバッカーが心配していた中での、サプライズ的な意味合いがあったと思います。


河野 開発自体はスタッフ一同黙々と進めていたのですが、大人の社会の問題がありまして、なかなか情報をうまく発信できずにいました。

──開発期間は?


河野 1年半くらいです。もっと短く上げるつもりでしたが、フォトリアル系の作品の開発自体が初めてだったこともあって、当初の予定よりも延びましたね。あとは、一度カットした要素を、何とか復活させようと僕が粘った面もあります。カットしたシーンは、それでもまだ全体の20パーセントくらいありますが。

──そんなにあるんですか? もったいないですね。


河野 インディーゲームでいちばん大きいのは、予算の問題です。本業をしながら趣味で作っている、本当の意味での同人ゲームはまた事情が違うかもしれませんが、このプロジェクトは、スタッフをきっちり拘束して作らないと完成する代物ではないので、それをどう捻出するかというプロデュース的な部分に大変苦しめられました。

アクティブゲーミングメディア(※)水谷氏 本作はKickstarterやCAMPFIREを通して、バッカーの皆さんから資金をいただいて制作しているのですが、クリエイターが考える最高のものを作り上げようとしていくと、やはりより多くの資金を必要としてしまいます。通常のコンシューマゲーム用ソフトの開発に比べて、資金的に苦しい部分がある中、全力を発揮していただいているのは、非常にありがたいですね。

(※)PCゲームダウンロード販売サイト「PLAYISM」の運営会社。『NightCry』のPR、パブリッシングを担当

●クリエイターとしての“原点回帰”となる制作体制

──2014年9月のIndieStream(東京ゲームショウ2014開催期間中に同会場で開催された、インディーゲームディベロッパーの祭典)での制作発表時から、変わった点などはあるのでしょうか?


河野 コンセプト自体はまったく変わっていないです。『クロックタワー』(※1995年にヒューマンから発売されたスーパーファミコン用ホラーアドベンチャーゲーム。河野氏は同作のディレクションを担当)のシステムに、現在の技術を採り入れたホラーゲームを作りたい、という軸はぶれていません。大きく変わったのは、グラフィックの水準です。発表時は、スマホベースでプロトタイプを開発していたのですが、あの時点からデータは全とっかえしています。ヒロインの髪の毛のモデルデータは、ボーン数だけならAAAタイトルクラスですね。髪の毛も発表時はワンセットのカチカチしたモデリングでしたが、物理演算でサラサラ動くようになっています。なびき方を手つけで調整するまでの余力は、さすがにありませんが。

──そのあたりは、開発環境にUnityを採用されていることの恩恵が、やはり大きいのでしょうか?


河野 僕もUnityをいじっていますが、使いやすいですね。カメラとかライティングは、僕が全部やってます。

──そうなんですか!?


河野 3Dモデルなり大型イベントなり背景なりは、ある程度パート単位で外部発注していますが、内部の主要スタッフは6人ですから。各スタッフが複数職種にまたがって、いろいろとやっています。

──まさに“インディーゲーム“の現場ですね。そうした開発体制を振り返っての感想は。


河野 一周して、スーパーファミコンの時代に戻った気分はしました。当時は「手伝えるならほかの人を手伝って、みんなで仕上げる」という根性論でしたが、(『クロックタワー2』の対応機種である)プレイステーション時代以降、開発体制がシステマチックになっていきました。そういう流れの中で言えば、今回の開発体制はある意味、退化しています。ただ、それは決して悪いことではなく、もう1回モノづくりの基本を思い出させてくれる経験になりました。全員、ボロボロになっちゃいましたけどね(笑)。

──犠牲を払ったぶん、得るものはあったと。


河野 今回おもしろかったのが、若手が一気に成長したことですね。たとえば、去年4月に入ったばかりのプランナーを途中から投入したのですが、2、3ヵ月で、フラグまわりの管理や、Unityのデータ組み込みなどを全部やれるようになりました。人にもよりますが、「やっぱ追いつめられるのって必要やなぁ」と思いましたね。

──(笑)。マネジメントがきっちりした開発体制と、今回のようなやりかたでは、どちらがよりゲームのおもしろさを追求できると思われますか?


河野 そこは優劣をつけることではない気がします。たとえば、ひとつの会社の中で両輪があるといいですね。個々人の適正にもよりますが、若手はこういうプロジェクトを経験することで、ある種の自信がつくと思います。本当のクリエイターであれば、ふつうに働けば問題なく仕上がるプロジェクトでも、よりよくするために、時間を作って勝手に働いちゃうものなんです。そういう力を出せるようになるためにも、一度は修羅場をくぐっておいた方がいいんじゃないかなと。そう思うくらい、彼らの成長ぶりは予想外でした。このプロジェクトは若手が支えたようなものです。

●ファン、バッカーが期待する内容に仕上がっています!

──『NightCry』のリリース時期はいつごろを予定されていますか?


河野 もう近いですね。ほぼほぼでき上がっているので、今回の(プレイアブル出展の)フィードバックをもとにブラッシュアップして、あとはバグ対応を行う感じですかね。

──ゲーム内容に関して、アクティブゲーミングメディアさんから要望を出したりといったことはあったのでしょうか?


水谷氏 これといってありませんが、気にしていたのは、遊びやすさやユーザビリティの面ですね。『クロックタワー』は20年前のゲームなので、いまのプレイヤーにとっては不親切だったりわかりにくい部分があります。そこをどうするかについては、河野さんにご相談させていただきました。

──プレイヤーキャラがゆっくり移動することによって恐怖感が高まる、シリーズならではのゲームテンポをどうするか……などとところでしょうか?


河野 ちゃんと狙ったうえで受け入れられないならば仕方がないですが、単に調整不足でしたら、それは調整すべきと思っています。実際、フィールド内のクリックポイントの反応自体も、PLAYISMさんとやり取りする中で、いまの形になりました。おかげで、当初よりもだいぶ遊びやすくなっています。

──そこは決して、恐怖演出を阻害する要素ではないと。


河野 意図がなく、ただクリックしづらいものは、単に出来が悪いだけです(笑)。

──『Nightcry』に期待している読者の皆さんにむけて、河野さんから見どころを。


河野 グラフィックの印象こそ違いますが、『クロックタワー』らしさは、本当に残っています。シリーズ作をプレイした人なら「あー、これだよ」と思っていただける、心理的な恐怖演出とともに、ビジュアル的にかなりグロテスクでショッキングシーンも採り入れています。このあたりは、きちんと『クロックタワー』のファンとバッカーさんが期待するものに仕上がっている自信があります。ヒロイン像も、いままでのシリーズ作とは異なるドラマチックなものになっています。ふたりのヒロインとも好きになってもらえると思いますので、楽しみにしていてください!
水谷氏 弊社としては、『NightCry』をまずは日本の『クロックタワー』ファンの皆さんへ確実に届けていく。そして海外においては、日本が世界に誇るホラーゲームとして、『クロックタワー』を知らない方に向けてPR活動をしていきたいですね。