ロボットに投資を任せてみますか? | ニコニコニュース

プレジデントオンライン

■運用預り資産成長は150%強!

「何歳ですか? 現在の年収は? ところで貯金はいくらありますか?」

さて、誰が聞いているのでしょう。

聞いているのはロボット(コンピューター)、正確にはWebページにある質問事項だ。

他にも、毎月の支出、引退する年齢、家族構成、金融商品の知識レベル、リスク・リターン趣向(どれくらいの損失を覚悟し、それに応ずるどれくらいの運用収益を期待するか)等。真剣に悩んだとしても、僅か10~15分程度の質問事項に答えると、世界中の選択肢から貴方に最適な株や債券による運用をしてくれる、それがロボ・アドバイザーだ。

ここ5~10年欧米で広まった金融サービスに、「ロボ・アドバイザー」がある。日本での認知度は恐ろしく低いが、米国でFinTechベンチャーとして始まり、金融サービスの1つとして広く認められるようになった。総運用資産は世界中で200億ドル(約2.2兆円)を超えているが、前年度比が150%強の水準で盛り上がっている。このペースだと2020年には約2~3兆ドル(約242~330兆円)規模、日本の家計金融資産における株・債券・投資信託の残高である約2.5兆ドルとほぼ同額だ。

世界家計金融資産の2020年予想(注1)は345兆ドルであり、仮に株・債券・投資信託等での運用比率が3割である約100兆ドルとすると、ロボ・アドバイザーという業種が資産運用業界で数%のシェアを取る想定となる。”我々はいつも2年以内の変化を過大に、10年以内の変化を過小に想定してしまう”(注2)という言葉を信じると、数十%水準にもなる可能性は否定できない。

■そもそもロボ・アドバイザーとは?

金融工学理論が予めプログラミングされており、定量的な統計計算に基づいた投資推奨である為、「自分(金融機関)が販売したいものを都合よく奨めているだけではないのか?」との疑いも被害妄想も無い。ETF(上場投資信託)を利用したポートフォリオ運用が多く、人件費もかからないため、伝統的金融機関の投資アドバイザー(ヒト)を通すより圧倒的に低コストとなる。

多くのロボ・アドバイザーは、ウォールストリートの金融機関で数年過ごしたトレーディング・電子取引・IT出身者と、世界最高峰の大学・大学院から卒業したての数理系天才達が融合して始まったFinTechベンチャーだ。ただ、数十名程度の従業員規模とはいえ、上位5社の運用預かり資産はそれぞれ10億米ドル(約1100億円)を上回っており、既に大手金融機関とロボ・アドバイザーの提携、または吸収・合併のニュースが巷を賑わせている。

それでは大手ロボ・アドバイザーを参考に挙げよう。

2008年に創業、大手のBetterment (米国、NY) はわずか6年弱で、12.5万件を超す顧客から合計30億ドル(約3300億円)を預かり、運用している。社名に現れているが、 “Investing Made Better”(投資をよりいっそう良く)をスローガンに、Webページは非常に美しくデザインされており、初心者が心地よく投資について学びながら運用する気持ちが理解できる。

業界の雄としてよく比較対象に挙がるのはWealthfront 。2011年にシリコンバレーで創業し、僅か2年半で運用預かり資産を10億ドルまで拡大した事で注目を浴び、こちらも現在30億ドル(約3300億円)との事。両社ともスタンダードなポートフォリオ理論に基づいた似通った運用になりがちだが、大きな違いは、Bettermentに不動産とコモディティ(商品市況)という2つのセクターに対してのETF設定が無く、Wealthfrontに米国債ベースのETFファンド設定が無いということだろうか(TIPS、つまり米国物価連動国債はある)。個人的にはBettermentの方がより初心者フレンドリーに感じる。

■伝統的金融機関でも導入が始まった

世界最大のディスカウント証券会社であるCharles Schwabは昨年3月、3100ものRIA(登録投資顧問業者)を集めたウェブキャストを前に、そのロボ・アドバイザー・サービス Charles Schwab Intelligent Portfolios を発表した。また、6月にはそのホワイト・レーベル商品として、機関投資家向けにInstitutional Intelligent Portfoliosも。ロボ系の総運用資産額は53億ドル(約5800億円)水準へ成長。

投資信託やETFで世界最大手のVanguard Groupは、170億ドルも2年かけて試験運用したのち、昨年5月にVanguard Personal Advisor Services というロボ・アドバイザー種のサービスを発表した。ロボ・アドバイザーと投資アドバイザー(ヒト)の組み合わせによるサービスで、運用預かり資産は現在310億ドル(約3.4兆円)まで拡大している。コストは安い反面、最低運用金額を5万ドル(約550万円)と思い切った。

投資業界の大手老舗であるFidelity の場合は非常にドラマチックだ。2014年冬から同社はBettermentと提携し、顧客とも言える RIA (Registered Investment Advisor: 登録投資顧問業者) にBettermentの利用を仲介していた。しかし、その僅か1年後、昨年11月、決別して独自開発のロボ・アドバイザー・プラットフォーム(2016-2017年予定)にすると発表。提携が顧客に対して思った程の良い結果を出していない、との説明だったが、有価証券の決済や保護預かりの面で既存システムにもっと接続性が良く、事後的な変更・調整を加え易いものを欲しているようだ。

■日本にもロボの波が

まだ一般的な認知度は低いが、日本でもロボ・アドバイザー、または類似サービスが広まりを見せている。株式会社お金のデザインは、ここ数年ETF特化型ロボ・アドバイザーを運用。昨年12月には第一種金融商品取引の登録を完了、そして今年に入って1月にGMOクリック証券との業務提携。只ならぬ意気込みを感じさせていた。

今月(2月16日)、その斬新な取組が露わになった。スマホからはじめる資産運用サービスTHEO(テオ)を開始。10万円からはじめられ、9つの質問に答えると、ロボ・アドバイザーが世界約6000銘柄のETFで1人ひとりに合わせた運用をするサービスだ。画家ヴィンセント・ヴァン・ゴッホを資金面・精神面、何があってもサポートし続けた弟のテオ(テオドルス・ヴァン・ゴッホ)が名前の由来とは……粋だ。

2015年4月設立のWealthNavi株式会社は昨年ベンチャー投資会社数社から資金調達。12月には第一種金融商品取引業、投資運用業、投資助言・代理業の登録を完了し、資産運用シミュレーション・サービスから、ロボ・アドバイザリーによる資産運用サービス WealthNavi へと展開している。今年1月18日に招待制(メールアドレスを事前登録し、招待メールを待つ形式)で資産運用を実際にはじめた。

日本では上記2社がFinTechベンチャーとして注目を浴びているが、既存の金融機関も含め、複数企業によるサービス参入が見受けられる。実際の運用まではしないが、推奨ポートフォリオを提示するものも多い。

■金融市場の発展に大きく貢献する可能性も

金融リテラシーの向上という課題は、バブル崩壊以降も30年近く問題視されている。日本の個人金融資産におけるリスク運用(株・債券・投資信託等)は16.4%(約276兆円)しかなく、欧米における30~60%水準とのギャップは中々縮まらない。リスク資産への投資を通じて「お金」が有効活用されていないのだ。

ロボ・アドバイザーとそのFinTech技術は、上記日本の状況を改善する可能性を持っている。

理由その1.銀行員、証券マン、FP(フィナンシャル・プランナー)、保険外交員……。金融マン(ウーマン)は誰だろうが、「ヒト」である以上、どうしても「都合の良い金融商品や運用を薦めようとしているのかもしれない」と思われがちだ。被害妄想も含め、「自分」が最優先されているのか不安が付きまとう。ロボ・アドバイザーにはその要素が無く、全てが定量的な計算に基づいている。定性的な要素はまったくない。

理由その2.米国で当初ロボ・アドバイザーのサービスを利用したのは、オンライン証券やディスカウント証券等で、「低コスト」趣向の投資家層だ。「ヒト」アドバイザーにかかる費用が嫌で、低リスク運用(MMFや預金)と、低コストなハイリスク運用(ディスカウント・オンラインだが、情報がある程度欠如している為にリスクが高い)に分けて運用していた資金が流入した。同様のニーズは日本でもある。

理由その3.実際に一任運用をするシステムなのか、それとも推奨ポートフォリオを提示するのか。どちらでも良い。複数アセットで運用期間別にどういった結果になり得るのか? 自分の将来資産がどうなり得るのか、を想像させる。この作業が何よりも重要だ。

欧米とは異なる展開が想定されるが、眠る個人金融資産1700兆円への刺激を期待したい。

おことわり:本コラムの内容はすべて執筆者の個人的な見解であり、トムソン・ロイターの公式的な見解を示すものではありません。

[脚注・参考資料]
[注1]Credit Suisse(2015年10月)
[注2]ビル・ゲイツ氏の言葉

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渡邊竜士(わたなべ・りゅうし)●トムソン・ロイター・マーケッツ執行役員。1972年、東京都生まれ、米国育ち。96年慶應義塾大学総合政策学部卒、同年野村證券入社。99年スイス野村バンク、2006年野村證券グローバルヘッジファンドセールスなど、主に国際部門にて経験を重ねる。12年野村インターナショナル(香港)のマネージング・ダイレクターを経て、14年よりトムソン・ロイター・マーケッツに入社して現職。トムソン・ロイターの経営企画や営業戦略等を担当している。
→トムソン・ロイター・ジャパン ViewPoint http://viewpoint.thomsonreutersjapan.jp/

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