経営者は東大博士! 人気ニュースアプリの生みの親【2】 -対談:スマートニュース会長・共同CEO 鈴木健×田原総一朗 | ニコニコニュース

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新聞や雑誌の記事を無料で見られるニュースまとめアプリ、スマートニュース。無数にあるニュースはどのように選別され、どんな仕組みで運営しているのか。経産省から天才プログラマーに認定され、学術書も執筆する異色の創業者に話を聞いた。

■考案のきっかけはイエモンの『JAM』

【田原】要するに、鈴木さんは国なんてないほうがいいと?

【鈴木】国の存在を全否定しているわけではありません。ただ、国民国家のリスクは認識したほうがいい。もともとヨーロッパで王権から市民社会に移行したときに国の再定義が行われ、国民国家というものが発明されましたが、それによって国民国家同士の同盟が起き、大きな世界戦争が2回起きてしまった。悲劇を繰り返さないためには、集団安全保障など、国民国家をベースにした統治の方法論を洗練させることが大切です。しかし一方で、国民国家に依存しない新しい社会のあり方も模索する必要もある。もう少し具体的に言えば、国家と国民が「1対n」の関係ではなく「n対n」、つまり1人が複数に所属することを前提とした仕組みがいるんじゃないかと思います。

【田原】やっぱりよくわからない。でも、キリがないから次に行こう(笑)。いま説明してもらった「なめらかな社会」と、スマートニュースのビジネスはつながってるんですか。

【鈴木】はい。ザ・イエロー・モンキーというバンドの『JAM』という曲をご存じですか。そこに「外国で飛行機が落ちました。ニュースキャスターは嬉しそうに『乗客に日本人はいませんでした』」と言ったという歌詞が出てきます。これは象徴的な歌詞で、既存のニュースメディアは日本人に向けて発信されている。つまり国民国家を前提としたメディアであるということがわかります。僕は国家単位のニュースがいいとか悪いという議論をするつもりはありません。ただ、オルタナティブとして、国民国家を前提としない情報伝達の仕方があってもいいんじゃないかと思ってます。

【田原】それがスマートニュースをつくるきっかけになったと。

【鈴木】新しいニュースの仕組みをつくろうと考え始めたのは04年です。ちょうどそのころ、フェイスブックやミクシィなどのSNSが出てきました。SNSをベースにしたら、情報を国単位で切る必要はなく、世界の裏側の情報も手に入れば、自分の身のまわりの情報も手に入るという仕組みができるはず。そういうことが実現できるサービスを04年ごろにつくっていました。その後、浜本と出会い、11年に「Crowsnest(クロウズネスト)」というニュースリーダーを出しました。

【田原】これはうまくいったんですか。

【鈴木】いや。最初はもっと多元論的なものを目指していたのですが、制約があって、世界全体と身近なものという二元論をミックスした簡略化バージョンになってしまって。わかったことは「パーソナライズされたニュース」というコンセプトは多くのユーザーにとって興味を引かれるものではなかったということです。

【田原】パーソナライズされたニュースはダメですか。

【鈴木】僕自身は、とても興味があります。でも実際にサービスを出してみると、そっちが好きな人は1%くらいしかいなかった。ほとんどの人は個人的な関心より、世間のみんなが関心を持っているニュースを知りたいようです。

【田原】そうですか。

【鈴木】みんなパーソナライズされたニュースの価値を暗黙的には認めているんですよ。フェイスブックが流行ったのも、友達の最新情報が流れるから。ただ、明示的に「これはパーソナライズされたニュースです」と言うと、途端に反応が鈍くなる。

【田原】その反省に立って新たにつくったのが、スマートニュースだった。

【鈴木】マーケットを考えたというより、自分たちが便利だと思うものを素朴につくっただけです。ただ、パーソナライズをやめて、世の中一般の人が知りたいと思うゼネラルニュースにしたのはたしかです。

【田原】ゼネラルに舵を切ったのはどうしてですか。パーソナライズばかりだと、自分の興味のある分野しか見なくなって視野が狭くなる「フィルターバブル」が起きると言われていますね。

【鈴木】フィルターバブル問題を指摘したイーライ・パリサーは、フィルターバブルが民主主義の基盤を壊すと言っていて、僕も彼の主張には一定の根拠があると思っています。自分の興味、関心を深く掘っていくことは大事だけれど、一方で視野が狭くなりすぎるのもリスクがある。スマートニュースは、ユーザーに発見を提供することでフィルターバブルを打開していきたいです。

【田原】じゃあ、これからもゼネラルニュースに特化していく?

【鈴木】そこはバランスで、今後はパーソナライゼーションを入れていくことも考えています。食事も毎日ラーメンとかカレーだと、栄養バランスが偏ってよくない。ニュースも同じで、世界の裏側から身近なところまで、適切なバランスがいいなと。

【田原】これは最初に聞いておくべきだったけど、スマートニュースはどうやって儲けているのですか。アプリは無料ですよね?

【鈴木】はい。ユーザーは無料で、広告でお金をもらっています。

【田原】ニュースは取材しているわけではなく、他のいろんなメディアから引っ張ってくるわけですよね。メディア側にお金は払ってるんですか。

【鈴木】メディアの考え方に合わせて個別にやっています。たとえばある程度のトラフィックがあるメディアに関しては、専用チャンネルをつくってもらって、その面の広告収益の40%を還元しています。

■独自コンテンツをつくらない理由

【田原】いま新聞の部数は下がっていますね。既存のニュースメディアはネットに活路を求めようとしていますが、それも苦戦している。鈴木さんのところみたいに収益化に成功したところが、将来、自分のところで取材してコンテンツをつくるという方向にはいかないのですか。

【鈴木】目下、スマートニュースで独自に記事をつくるということは考えていないです。自分たちでコンテンツをつくると、どうしても自分たちのコンテンツを応援したくなって、ニュートラルではなくなってしまいます。それよりも、いい記事をつくってくれる組織やチームをサポートしたほうが業界全体にプラスかと。

【田原】鈴木さんのところが入り口になって、既存のメディアにお金が還流する仕組みをつくっていくということですか。

【鈴木】はい。ただ、既存のメディアだけではありません。最近はデパート的な大きなメディアだけでなく、数人でやっているブティック的なメディアが続々と登場しています。そうしたメディアが成り立つようなシステムをつくっていきたいなと。

【田原】ところでスマートニュースは早い段階でアメリカに進出していますね。どうしてアメリカ?

【鈴木】理由は2つあります。1つは、個人的な気持ちです。約15年前、初めてシリコンバレーに行ったときにアドビの創業者の息子さんに会いました。彼は社会を変革するというビジョンに向かって真っ直ぐに進んでいて、非常に衝撃を受けた。アメリカにはビジョンの力を信じている人がたくさんいるというのが僕の原体験で、いまでもアメリカで仕事をしてみたいという思いは強いです。

【田原】もう1つは?

【鈴木】スマートニュースを世界中の人に使ってほしければ、アメリカから始めるのが近道です。市場として大きいし、ニューヨークは世界のメディアの中心。それに世界的に成功しているIT企業の9割以上がアメリカ企業で、人材も集まっています。

【田原】アメリカで成功するには、何が必要ですか。

【鈴木】まずプロダクトの力です。アメリカはプロダクトのイノベーションが速いので、僕らもプロダクトをどんどん洗練させていく必要性を感じています。あとはニュースの再定義。現状、アメリカではニュースを見るメディアとしてフェイスブックが圧倒的に強い。フェイスブックはパーソナライズされたニュースのサービスでしたが、3~4年前から伝統的なニュースも交ぜるようになってきた。僕らは彼らと違うアプローチで、新しいニュース観を打ち出していきたいと考えています。

【田原】京セラの稲盛和夫さんに取材したとき、おもしろい話を聞きました。彼は日本の企業にセラミックを売ろうとしたのですが、最初は相手にしてもらえなかった。それで本場のアメリカに売りに行った。アメリカはテストだけはしてくれるから、チャンスがあったんですね。結果、テキサス・インスツルメンツという大きな半導体会社が買ってくれて、京セラは世界的企業になった。鈴木さんがやろうとしていることは、稲盛さんと同じだね。

【鈴木】そのエピソード、すごく励みになります。日本のインターネット企業のアメリカ進出も、成功事例が1つ出れば、大きく流れが変わる気がしています。

【田原】最後にもう1つ教えてください。スマートニュースが成功したら、ニュースは「なめらか」になるのかもしれない。その次に鈴木さんがなめらかにしたいものは何ですか。

【鈴木】いま、興味を持っているのは都市のデザインです。20世紀は国民国家の時代でした。しかし21世紀は、都市というカーネルがネットワークでつながっていく時代になる。

【田原】都市の時代ですか。インターネットが発達したいまは、どこに住んでも同じじゃないんですか。

【鈴木】じつは僕もそう考えていました。どこにいたって作業ができる環境になったのだから、スマートニュースのオフィスは田舎にあったっていいはずです。でも現実問題、僕たちのオフィスは渋谷にある(笑)。

【田原】どうして渋谷なの?

【鈴木】クリエーティビティは顔と顔を合わせたときにいいものが生まれます。情報はどこにいても取れるようになりましたが、それゆえ逆にリアルなコミュニケーションの価値が際立つことになり、人と人をつなぐ都市の力が重要なものになってきた。だから僕たちは都市を離れられないし、これからは都市の力がますます強くなっていくと思います。

【田原】そこにビジネスチャンスが?

【鈴木】わかりません。ただ、新しい時代の都市のデザインはきっと必要になる。スマートニュースでやるかは別にして、興味は持っています。

【田原】わかりました。引き続き注目しています。

■田原氏への質問:テレビだからできることって何ですか?

【田原】テレビ東京に入社したのが1964年。かれこれ50年もテレビの世界にいます。番組をつくったり、討論の司会をしてわかったのはテレビは抽象化が苦手だということです。鈴木さんに解説してもらった「なめらかな社会」の概念を、テレビで伝えるのは相当難しい。活字なら抽象化して伝えられますが、映像じゃ限界がある。

逆にいうと、テレビの本質は具体性にあるといっていいでしょうね。たとえば「なめらかな社会」の概念は伝えにくくても、これがなめらかな国だ、それを邪魔する敵は誰々だと具体的に見せることで、視聴者に理解してもらえる。この性質は、将来、映像の主役がテレビからインターネットに移ったとしても変わらないと思います。

遺言:テレビの本質は具体性にあり

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田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。若手起業家との対談を収録した『起業のリアル』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

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