「見えない世界と共存している」真田広之、『Mr.ホームズ』公開記念インタビュー | ニコニコニュース

『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』(C)Agatha A Nitecka / SLIGHT TRICK PRODUCTIONS
TOCANA

 誰しもが知っている名探偵・シャーロック・ホームズ。ベイカー街に住み、パイプと鹿撃ち帽をトレードマークとするこのキャラクターは、小説家・アーサー・コナン・ドイルによって生み出されて以来、130年にわたって世界中のファンに親しまれており、「シャーロキアン」と呼ばれる熱狂的なファンを生み出している。

 3月18日から公開される映画『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』は、そんなシャーロック・ホームズの最晩年の姿を描いた映画だ。コナン・ドイル版のホームズにインスパイアされた小説家ミッチ・カリンが描いたのは、93歳になって家政婦とともにサセックスの農場で暮らす老探偵であり、30年前の未解決事件を解き明かす「最後の仕事」に出る姿だった。

 今回、映画化にあたって「梅崎」という日本人役を演じたのが、俳優の真田広之。国外に活動の拠点を移して15年。その演技は、すでにハリウッドスターとしての貫禄を放っており、その存在感は本作でも健在だ。いったい、イギリス人にとって「心の故郷」であるホームズに、真田は日本人としてどのように挑んだのだろうか?

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■ホームズに憧れる日本人梅崎を演じる

――世界中にファンの多いシャーロック・ホームズシリーズですが、真田さんもやはり「シャーロキアン」のひとりなのでしょうか?

真田広之(以下、真田) ホームズの存在は子どもの頃から知っていたし、鹿撃ち帽にパイプという姿は印象に残っていますが、そこまで熱心だったわけではありません。本格的にシャーロック・ホームズの世界に触れるようになったのは俳優の仕事をするようになってから。ホームズシリーズの持つ、独特の世界観の面白さに目覚めたんです。最近でも、映画化された作品やテレビ化された作品はチェックしています。

――今回の作品で、真田さんは日本人紳士の梅崎役を演じていますね。

真田 シャーロック・ホームズは、何百回と映画化されているシリーズ。そこに、いったいどうやって日本人が登場するのかと興味がひかれたんですが、脚本を読んでみると、老いたシャーロックに絡む重要な役柄でした。日本人として、こんなにありがたい役はありません。ただ、唯一心配だったのが、戦後直後の日本や広島の姿が描かれるところ。戦争というデリケートなモチーフをどのように描くのかが気になって監督に電話をしたんですが、監督は日本文化への深いリスペクトを持っていました。電話の終わりには、「ロンドンで会いましょう」と話していました(笑)。

――今回、梅崎を演じるにあたって、こだわった部分は?

真田 梅崎は、父親の影響で異国文化に傾倒し、戦後すぐの時代であるにもかかわらず、洋館に住む英国風紳士として描かれています。歴史的なリアリティとフィクションとしての役柄のバランスを取らなければいけない役でした。リアルさだけを追求してもフィクションとしての意味がないし、フィクションとしての面白さを追求するあまりリアリティのない存在になってもいけない。そのバランスが難しかったですね。けれども、現場に入り、ホームズを演じるイアン(・マッケラン)とシーンを作り上げていくなかで、そのバランスは自然と見えてきました。

――イアンとは2回目の共演になりますし、阿吽の呼吸のようなものを感じます。

真田 ただ、実際に現場で会ったのは今回が初めてなんです。

――そうなんですか!?


■イアン・マッケランとの関係と作品の魅力

真田 『ウルヴァリン:SAMURAI』(2013年)で共演した時には、完全に別の撮影だったので、同じ作品に収まっているけれども、現場で顔を合わせることはありませんでした。今回、撮影初日に緊張しながら挨拶に行くと、イアンが「2回目なんだからリラックスして楽しもう」と言ってくれたので安心しましたね。

――その安心感からか、ホームズと梅崎とが本物の親子のようにも見えてきます。

真田 梅崎にとって、ホームズは父の姿を投影する存在であり、ヒーローであり、畏敬の念も持っています。そんな、梅崎のホームズに対する憧れの気持ちは、僕のイアンに対する気持ちをそのまま置き換えられたんです。長年彼の演技に憧れ、ようやく一緒に仕事ができた。そんな個人的な感情を、そのまま梅崎の感情へすり替えましたね。

――真田さん自身、今作の見どころはどこだと思いますか?

真田 アイデアの素晴らしさです。老いたシャーロック・ホームズというシチュエーションは、もともと架空の人物であるにもかかわらず、あたかも実在の人物のように錯覚させます。映画の中では、ホームズ自ら、小説に描かれるホームズ像を否定します。既成のホームズへのイメージを壊すことによって、より「ホームズ」という人間を信じられる。長年のファンも「こう来たか!」と思えるんです。

――初めてホームズの世界に触れる人にとっても、すんなりと入りやすい設定ですね。

真田 これまでホームズは、洞察力に優れ、カリスマ性に溢れたスーパーヒーローとして描かれることが多かった。けれども、老いて、過去を悔いているような人間的なホームズは今までに見たことがない。そんな新たな姿が、ホームズに親しみを抱かせてくれるんです。


■93歳になってもアクションを続ける!?

――今作は、93歳のホームズが30年前の未解決事件に挑むというストーリーです。真田さん自身、93歳になって俳優を続けているとしたら、どのような役に挑戦したいでしょうか?

真田 若い頃から年を重ねることに対して憧れがあり、年齢を受け入れて、経験を積みながら次のステップに進むという理想を抱いていました。その年齢にならないとできない演技があるので、93歳ならではの味が出せる役を演じたいですね。

――真田さんといえば、華麗なアクションも魅力ですが、93歳でもアクションは続けるのでしょうか?

真田 それもいいですね(笑)。もともと、アクションは若いうちはできて当たり前。でも、他人がリタイヤしていく頃にまだ続けていたかったから今も挑戦しています。演技と同様に、その年でしかできないアクションもきっとあるはず。体力と技術をいかに維持していくかは今後の課題ですね。

――ぜひ期待しています! ところで、真田さんは『宇宙からのメッセージ』や『リング』シリーズなど、TOCANA読者にも身近な映画に数々出演されています。ご自身でも神秘体験や不思議体験の経験はあるのでしょうか?

真田 普段はそういった経験はなく、映画の中で体験しているばかり(笑)。ただ、アクションの時は、事故が起こらないように現場で必ずお神酒や塩を撒きますし、映画の撮影前には必ずお祓いに行きます。過去には、お神酒を撒いて手を合わせたら、どんより曇っていた空が突然晴れて撮影日和になった経験もあります。

――願いが通じたんですね!

真田 ですから、見えない世界には当たり前のように親しんでいて、心霊世界や神秘世界に対する恐怖はあまりないんです。それらは、当たり前のように共存する世界だと思っています。


※画像は、『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』(C)Agatha A Nitecka / SLIGHT TRICK PRODUCTIONS