『FFXIV』サウンド祖堅氏&シナリオ前廣氏が『蒼天のイシュガルド』サウンド制作を語る | ニコニコニュース

文・取材・撮影:ライター 奥村キスコ 、取材・撮影:編集部 小山太輔

●『FFXIV』のサウンドは、こうして作られる

 『ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド』以降の曲を収録した最新サウンドトラック『Heavensward:FINAL FANTASY XIV Original Soundtrack』が2016年2月24日に発売された。これを機にサウンドディレクターの祖堅正慶氏とメインシナリオライターの前廣和豊氏に制作内容について話を聞いた。

 このインタビューは、週刊ファミ通2016年3月10日号掲載分に収まりきらなかった会話も含め、再編集した完全版。バージョン3.0はもちろん、2.Xシリーズや実装されたばかりのパッチ3.2の制作裏話にも及び、たいへんボリュームのあるものになっている。サントラを聴きながらじっくりと読むといいだろう。(2016年2月8日収録)

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●発注リストは新曲ばかりでもいけない

──今回は祖堅さんと前廣さんにご同席いただいていますので、『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FFXIV』)の音楽がどのように作られているかについて、おふたりそれぞれの視点でお聞きできればと思います。

祖堅正慶氏(以下、祖堅この前のファミ通さんのインタビューでは、雲神ビスマルクの曲のグチをお話しましたよね?(笑)

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──ビスマルクの曲の生みの苦しさについては、過去に2回ほどうかがいました(笑)。

祖堅 前廣からのオーダーにあったイメージが、「ビスマルクはデカい。神々しい。激しい」。あと、「空中戦だから“爽やか”」だったんです。「彼は何を言ってるのか?」と思いましたね。その要素を全部含んだ曲なんて、どうやって作ればいいんだと(笑)。

前廣和豊氏(以下、前廣) インタビューでそう話したと言うから、「まさかそんなことを……」と当時の発注リストを自分でも見直したところ、書いてありました(笑)。

祖堅 でも、「いちばん大切なのは空中戦」とあったので、それを最優先して考えればいいのだろうなと思ったんです。

──最終的には祖堅さんの解釈が活きたということですね。

祖堅 そうですね。でも、前廣は何事も、大事にすべきことをハッキリと指示して、そのうえで参考曲も用意してくれますから、イメージは正確に汲み取りやすいと思います。

──『FFXIV』のサウンドは、おおむねおふたりで相談して制作されているんですね。

祖堅 そもそもシナリオに対してコンテンツが作られることが多く、その根幹のシナリオを作っているのが前廣なんですね。だから整合性を取るために、しょっちゅうヤーヤー言い合っています(笑)。

──それは曲以外のサウンドに関しても?

祖堅 そうですね。ゲーム中の雰囲気は曲だけで構成されているわけではなく、環境音と効果音だけの場合もありますからね。

前廣 曲の発注は、シナリオチームだけに限らず、全セクションからの要望を僕が管理しています。つぎのパッチでどんなコンテンツが入るかを聞いて回り、その内容をヒアリングしたものをまとめて渡しているという感じですね。そこで祖堅と、「発注リストの曲数が多い」、「少ない」などとケンカをしつつ、最終的なリストに絞り込み、作ってもらうという(笑)。

──『蒼天のイシュガルド』のサウンド制作は、納期に対して発注数が尋常ではなかったようですね。

前廣 発注はエクセルの表にまとめて渡すのですが、いつもは一覧で表示できるのに、今回は画面をかなりスクロールさせないと確認できないほど物量がありましたから(笑)。

祖堅 リストを渡されたあと、「とりあえず考えて」と言われましたが、考えても無理だと思ったので突き返しに行ったら、前廣が吉田直樹(『FFXIV』プロデューサー兼ディレクター)という“盾”をつけて、「いいから今日は持ち帰って」とお願いしてきて……。

前廣 攻めるときには盾もないとね(笑)。

──その後は曲数を絞ったのに、けっきょくは最初の発注リストと同じくらいの曲数になったんですよね?

祖堅 そうですね。前回もお話をしましたが、3.0のダンジョンは、当初すべて同じ曲にする予定でした。でも進めていくうちに、なんとかやれそうな気がしてきて。前廣に「大至急!」と資料を請求したら、「ええ!?」と驚かれましたね(笑)。

前廣 だって、やれないって言ってたじゃない!(笑)

祖堅 それで、すぐに作ってくれた資料が完璧だったから、バンバン作業できたんですよ。

──“3.0のダンジョン”という曲が、ひとつあればよかったところが……。

前廣 そうなんです(笑)。パッチでダンジョンも増えていきますので、「最初は1曲にしておいて、2.Xシリーズと同じように増やしていけばいいよね」と話をしていたんですけどね。

──ヒアリングから発注に至るまでは、具体的にはどういう手順を取るのでしょうか。

前廣 パッチで新しく入るコンテンツが決まったら、そのリストをまとめて一度内容を分解します。「前半と後半で曲が変わる」ですとか、「こういうシステムが入るから緊張感を増すようにしよう」ですとか。既存の曲が使えるかどうか、新規の曲が必要かどうかを洗い出したうえで、初めて祖堅に相談して制作してもらうという流れです。

──そうしてできるのが発注リストですね。

前廣 そうです。知っている曲を充てるからこそ意味がある場面もありますから、あまり新曲ばかり増えてもいけないなと。たとえばボス戦なら、ボス戦の曲が流れるからこそ盛り上がったりしますよね。そういう線引きをしてから、新しいコンテンツには新曲を必ずお願いしています。迷ったら、その都度全部相談します。

──つまり、実現できるか否かは、サウンドチームの作業量や期間によって決まると。

祖堅 そうですね。前廣が言うことはわかるんですけど。毎回ギリギリを突いてくるんですよ。「できるだろ? そのくらい」って。こっちも「やるかー、クッソー」ってならざるを得ない(笑)。

●前廣氏から祖堅氏への発注書は、とても人には見せられない!?

──発注の時点で、前廣さんの頭の中ではどの程度具体的な曲になっているのでしょう?

前廣 そうですね。イメージやノリを説明するための参考曲は、必ず渡すようにしています。それが曲の全体を指すこともあれば、部分的に指していることもあります。

──では、前廣さんのチョイスが、『FFXIV』全体の曲の幅に影響していると?

前廣 そうかもしれませんが、イメージ以上の、すごくいい曲を祖堅が仕上げてきてくれるので、それがあってこその幅ですね。

祖堅 ……3.0で前廣からもらったイメージはね、ぶっちゃけ『ガ○ダム』と『ヤ○ト』でしたよ。それしかなかった(笑)。

前廣 はははは。基本的に戦闘シーンは『ヤマ○』だよね(笑)。

祖堅 曲や環境音だけでなく、キャラクターの声のイメージを決めるのも前廣の役目なんですが、それもだいたいそんな感じで(笑)。

前廣 ……いやー、しょうがないですよね。頭の中、『ガン○ム』で生きてますから(笑)。発注書は趣味丸出しなこともありますが、最終的なインゲームには出していませんよ。強いて言えば、池田秀一さん(アシエン・ラハブレア役)のセリフぐらいです(笑)。

祖堅 あと、ちょろっとタ○ノコプロだよね。発注リストは、ほぼそのあたりの参考曲で構成されているから笑えますよ(笑)。

前廣 とても人様には見せられない(笑)。

祖堅 何を作りたいんだろう?(笑)

前廣 『ガンダ○』、『○マト』、タツ○コプロ、メタリカ。これぐらいしかない(笑)。

祖堅 そうだ、メタリカだ。蛮神の曲はだいたいメタリカです(笑)。

──どこまで書いていいのやら(笑)。前廣さんはふだんはどんな音楽を聴いていますか?

前廣 アニメの話をしたばかりですが、アニメの音楽は、アニメを観るから覚えてしまうわけで……。ふだんはあまり流行りの曲は聴きません。ゲーム音楽や映画のサントラなど。昔のゲーム音楽が多いですね。

──どのくらいの時期のものでしょうか?

前廣 ファミコンから何から。……少し話がズレますが、ゲームって、ゲームデザインと、音楽と絵が全部パックになっていて、総合芸術のようなものだと思うんです。その中でも、僕は音楽が特別だと思っていて。1本のゲームをプレイした後、5年、10年経っても思い出すものって音楽なんですよ。たとえば『FF』シリーズのボス戦の曲って、鼻歌で歌ったりできますよね。海馬の記憶領域が違うんでしょうけれど、音楽っていちばん記憶に直結していて、ゲームの中でいちばん大切なものだと思っています。僕はずっとゲームを遊んできたので、昔のゲームの曲はすごく聴いていますよ。昨日も仕事中に『レッキングクルー』を聴いていましたしね。

──祖堅さんはゲーム音楽を聴くのですか?

祖堅 ハマったものは聴きますよ。『バーニングレンジャー』とか。アレかっこいいんだよ! 光吉さん(セガゲームスのコンポーザー、光吉猛修氏)に、「どこで録ったんですか、あの曲?」と尋ねたら、「あのときはイケイケだったから、ニューヨークで録りました」って。あとは『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』とか、『ファンタシースターオンライン』とか。

──セガゲームスばかりですね(笑)。

祖堅 そうですね(笑)。とは言え、ゲームのサントラばかり聴くわけではないですよ。“ロックからロックまで”みたいな。

──(笑)。つねづね祖堅さんが作曲する曲の幅の広さがスゴいと感じているのですが。

祖堅 3.0は、吉田Pや前廣から「いままでにない感じを出したい」とオファーがあったので、いろいろ試しましたね。でも僕はロックが大好きなので、基本的に聴いているのはロックがほとんどです。だからといってロックしか聴かないわけではなく、クラシックもたくさん聴きます。家には、クラシックのレコードが何千枚も置いてありますよ。

●大事なことが喫煙室で決まることも

──おふたりのさまざまな相談は、どういうふうにされるのでしょう?

前廣 フロアが横に長くて、お互いの席が端と端なんです。煮詰まったら、真ん中にある喫煙室までいって、話をして帰る。ふたりに関して言えば、だいたいがそこで決まります。

祖堅 メッセンジャーで呼び出すときも、席が遠いという理由で、「とりあえずあそこで」となる(笑)。そこにちょいちょい宣伝チームの白杉(白杉浩嗣氏)も入ってきて……。できあがった曲を僕が自席でモニタリングしているときに、前廣よりも白杉のほうがその場にいることが多いんですよ。ナイツ・オブ・ラウンド討滅戦の曲をいちばん最初に聴いたのも、じつは白杉ですし。

──そのときの感想は、何と?

祖堅 「いいね」なんて、偉そうなことを言って帰っていきましたよ(笑)。ほかにも何か言っていましたけど、聞いていません(笑)。でも案外、的を射たりしているんだよなぁ……。

──前廣さん以外から注文されることも?

祖堅 バトルチームから「もっと派手に」とか、カットチームから「尺がどうにかならないか」という相談はありますね。あと、サウンドチーム内で演出を悩むことが多くて。たとえばクリスタルタワーは、戦闘時と非戦闘時の曲をシームレスにして急激な変化を起こしているんですが、あれはプログラマーと相談しながら進めました。プログラマーも皆『FFXIV』のプレイヤーなので、お互いがやりたいことが理解しやすいのが幸いです。

──それで生まれるサウンドもある、と。

祖堅 演出やサウンドエンジンのアップグレードに関しては効果音のほうが多いですね。前廣も細かいことを注文してきますけど……。

前廣 「本をめくる“ペラッ”がない。“ペラッ”ちょうだい!」と(笑)。効果音って、意外と使い回しが利かないんですよ。

祖堅 クエストで雑魚をボコボコしたときに「ボコスカボコスカピギー!」という音が鳴るんですが、『FFXIV』で使い回しをしている効果音はそれぐらいでしょうか(笑)。

●3.0の曲は、振り幅を自由に作られた

──3.0の曲で、「これはイメージとピッタリだ」と前廣さんがいちばん思われたものは何だったのでしょうか。

前廣 やっぱり、機工城アレキサンダーですね。

祖堅 前回もお話をしましたが、アレキの発注書には、「いままでにないもの」、「スチームパンクの世界」などと曲のイメージが書かれていました。でも、スチームパンクを具現化した既存の作品には、現在のアレキのような曲調のものはなく、だいたいがオーケストラなんですね。参考曲として『スチームボーイ』(原案・脚本・監督が大友克洋氏の劇場用アニメ)などの曲が挙げられていましたが、それさえもオーケストラで。そこで、「指示は理解できるけど、インスタンスレイドでバトルがメインになるコンテンツとして、曲はオーケストラでいいものか?」と相談しました。一方で、やっぱり「メタリカ」とも書かれていたので、どちらに寄せていくべきかと悩みましたよ(笑)。

前廣 3.0の曲の中では、アレキがいちばんコンテンツとマッチしていたように思います。あとは、イシュガルド下層の曲(“堅牢 ~イシュガルド下層:昼~”)も。

祖堅 フライングマウントの曲(“国境なき空”)を渡したときにも、「これこれ!」って言ってくれましたね。

前廣 フライングマウントに乗っているときの汎用曲だよね? この曲は、『FF』シリーズでいう飛空艇に該当するものだから、「飛空艇のイメージで」とお願いしたんですよね。

祖堅 ストーリーに絡む重たい背景は一旦忘れて、「気持ちよさ重視で」と。

──ちなみに、フライングマウントにはどんな参考曲が付けられていたのでしょうか。

祖堅 複数ありましたけど、「はぁ?」と聴き直すくらいポップな曲があったのを覚えています。ちなみに「ポップな感じに」という指示には、すごくポップな参考曲が付くことが多いので、いつもビックリしますよ。2.Xシリーズの話ですが、「本当にこんな感じでいいの?」と試しに“Pa-Paya”(シーズナルイベントのエッグハントなどで流れる曲)を作ってみたら、「これだ!」と言われたこともありました(笑)。

前廣 作品のベースになる大多数の曲がしっかりした曲調だから、変化球を投げるべきところは投げて幅を持たせたほうが、全体的にキレイに収まるんですよ。

祖堅 2.Xシリーズはそういう遊びの幅があまりなかったんですよね。吉田Pから、「王道で」というオーダーもありましたから。でもいまはコンテンツが増えてきたこともあって、いろいろなことが試せるようになってきたんです。でも振り幅が広すぎて、どこまでやっていいのか心配になるので、「この発注、ホント?」と、聞きに行ったりもします(笑)。

●ちょっと懐かしいネタ動画の話

──ちなみに、2.Xシリーズで制作に苦労した曲はありますか?

前廣 ……雷神ラムウ(“雷光雷鳴 ~蛮神ラムウ討滅戦~”)ですね。ビスマルクほどではありませんが、リテイクはけっこう多かったと思います。

──どのようなオーダーをしていたのでしょう?

祖堅 とりあえず「オリャー!」じゃないぞ、と。

前廣 蛮神の曲って「オリャー!」というイメージのものばかりですけど、ラムウはそうじゃないですよと。“倒しに行く”のではなくて、“力を試されている”わけですので。

祖堅 オーケーが出るまで、時間がかかりましたね……。

前廣 “シルフがコーラスしている”様子の表現にたどり着くまでが、すごく長かったと記憶しています。

──根強い人気を誇る一連のタイタンの曲はどうですか?

祖堅 タイタンは発注書に「勝手にやれ」って書いてあったので、勢いで作りましたね(笑)。

──フェーズの進行と同時に曲調が上がっていくのは、プレイヤーとしての心情に見事にマッチしていました。

祖堅 バトルチームから「タイタンはフェーズがある」と説明されたので、まずフェーズごとに分けたほうがいいと考えました。モンスターのデザインをしているスタッフに、やたらタイタンに思い入れを持っているヤツがいて、その彼に「最初はジッとしているんだ。でも、だんだんイライラしてきて、心核が登場して1回「ファッ!?」となって、そのあと「ドッカン」だから!」と言われて(笑)。……前廣に、「なんだかよくわからないけど大丈夫かね?」と確認したりしましたね。

前廣 いま思えば、ひとつのバトルに4曲も充てるのは、コストをかけすぎですよ(笑)。

──そんなタイタンの曲が、前廣さんが作られた“SUPER極タイタン討滅戦” (極タイタン討滅戦を8bitゲーム風にアレンジしたネタ動画)に使われたりして……。あの曲も祖堅さんがアレンジをされたんですよね?

祖堅 ある日、前廣が「F.A.T.E.のゲストとして呼ばれたから、お土産を持っていく」と言うんですよ。「そのために、過去のシリーズのライブラリから効果音を引っ張り出して、この動画に付けてくれ」とお願いされたんですが、いきなりだったので何を言っているのかわからなくて。とりあえずその動画を観たら、「これは曲もやらなきゃダメでしょう!」と口走ってしまいました。そうしたら、「やってくれるの!?」って。その顔を見て、「やられた……」と思いましたね(笑)。

──前廣さんは、最初から祖堅さんをアテにしていたんですね(笑)。

前廣 最初は、「おまけで持っていく動画だから、制作のコストも発生させられないな」と。「いまある曲を充てるだけでいいかな、使用許可をくれるかな?」とお願いしたまででしたが……。それに、もし時間の余裕があったら効果音も付けてもらいたかったので、そのつもりで動画を見せたんですが、すぐに乗り気になってくれたので。「本当にありがとう!」とお礼を言ったあと、祖堅が席に戻っていく姿を見送りつつ、拳を引きながら心の中で「イエス!」って(笑)。

祖堅 カットシーンに映画的な効果音を付けるサウンドチームのスタッフがいるんですが、そいつも動画を観て、「これはやんないとダメっすね」と。あの動画に使われている効果音のトラック数は、ゲーム本編のカットシーンより全然多いんですよ? 「やっぱり竜騎士のジャンプはコレじゃないと!」って、スタッフも細かいところまでこだわってしまって(笑)。

──かなりの手間がかかっていたんですね……。

祖堅 手間と言えば、格闘ゲームっぽい“ULTIMATE FIGHT FINAL FANTASY XIV”(前廣氏が作成して、ニコニコ超会議 2015で公開したネタ動画)もけっこうなもんです。モーションチームのバカヤロウを抱き込んでそういうことをするから、サウンドチームもコストがかかってしまうわけですよ!

──ほかのチームがあれだけ協力していたら、サウンドもやらねばとなるわけですね。

前廣 そういう仕掛けをするために、僕はふだんからいろいろなところに貸しを作っているんです。それで、いざというときに「貸し、回収しまーす!」と(笑)。

──(笑)。“ULTIMATE FIGHT FINAL FANTASY XIV”は、どのくらいの制作時間をかけたのでしょう?

前廣 音は、そういうお願いをすると、1週間ほど泊まってやってくれましたっけ……(笑)。

──おお……。でも“SUPER極タイタン討滅戦”は、サントラ『A REALM REBORN: FINAL FANTASY XIV Original Soundtrack』にも収録され、コストをかけた甲斐あったと。

祖堅 何かもうひとつ8bitの曲を作らされた記憶が……。ああそうだ、イシュガルド下層のテーマ(“堅牢 ~イシュガルド下層:昼”)ですね。

前廣 3.0のリリース前に、“ビッグスとウェッジが走るだけ”という動画を作ったんですよね。それでまた祖堅のところに、「何かネタない?」と聞きにいきました。

祖堅 「ないよ! 作るよ!」って(笑)。

前廣 それをまた見送りながら「イエス!」って(笑)。

●パッチ3.2で注目したい曲は、アレキ律動編とセフィロト

──パッチ3.2が公開されますが、新たなコンテンツとして、ザ・フィーストの曲作りはいかがでしたか?

祖堅 ザ・フィーストは、バトルのコンテンツだったのでスムーズでした。

前廣 テーマがわかりやすいですからね。

祖堅 けっこう難航したのは、機工城アレキサンダー:律動編ですね。初めて訪れた方は、たぶんビックリすると思います(笑)。

前廣 そうですね。律動編4層に初めて挑む方は、ぜひお楽しみに……(笑)。

──毎回アレキにはいろいろな趣向が凝らされていると。……そう考えると、この先もたいへんそうですね。

祖堅 たいへんという意味で言うと、魔神セフィロト討滅戦は難航しましたね。“死闘”(『FFVI』のバトル曲のひとつ)の使いどころでスタッフと揉めて。この曲を、バトルの前半に持っていくのか、後半に持っていくのか……。めちゃくちゃ悩んで、吉田Pに相談するところまで発展しました。吉田Pは、「オマージュはあくまで前半まで。後半は『FFXIV』のバトルなのだから、前半が“死闘”で、後半はオリジナルがいい」と言っていたんです。でも、まだそのときは映像やバトルシステムができあがっていなかったこともあって、僕としては「何言ってるんだ。あの“死闘”だぜ? 後半だろう」なんて思っていたんです。

──なるほど。

祖堅 そこで強い意志で、後半を“死闘”にして、前半にオリジナル曲を付ける提案を吉田Pにしたところ、「サウンドディレクターがそこまで言うんだったら」と言ってくれて、折り合いがついたんです。それで一旦完成させたんですが、後からできあがってきたバトルシステムと合わせてみたら……全然合わなくて(笑)。

──(笑)。

祖堅 吉田Pの言うとおり、後半は、『FF』シリーズのセフィロトのイメージとは関係なく、ザ・『FFXIV』みたいな感じだったんですよね……。“死闘”のオーケストラアレンジを、これ以上どれだけ盛り上げても足りないという結論に至って、しょんぼりしながら吉田Pのところへ行きました。

──そのときの姿が目に浮かびます……。

祖堅 「この前はケンカ腰だったんですけど、あれ……リセットで」と……。自分でちゃぶ台を返しました(笑)。

──(笑)。紆余曲折ありましたが、いまは吉田さんの案で完成したわけですね。

祖堅 そうですね。そのときに作った前半の曲はボツになりました。

──その曲は、別の何かに活用はできないのでしょうか?

祖堅 使えればいいんですけど……。『FFXIV』って、コンテンツに汎用度がないんですよ。

(※編註 この曲は、2016年2月12日放送のインターネットラジオ『南條愛乃・エオルゼアより愛をこめて』にてゲスト出演した祖堅氏によって放送内で披露されたほか、2016年2月24日タワーレコード新宿店で催されたストアイベントでも流されている。)

●『FFXIV』の楽曲は、最高のゲーム体験のためのもの

──お話をうかがう限り、おふたりは親しい間柄のようですが、煮詰まってくるとギスギスすることもあるんでしょうか。

祖堅 あんまりないかなぁ……。

前廣 むしろ、プロジェクトが始まる前のほうが……。くり返しになりますが、発注リストに対するコストのことでは毎回バタバタしますね。でも始まってしまえば、お互いがよりよいものを作るために最善を尽くすと言いますか。いろいろな話し合いこそしますが、そこで揉めることはないですね。

祖堅 『FFXIV』に関しては、前を向いてやり取りしているというイメージは強いですね。

前廣 今回のサントラに入っている曲などはとくにそうですが、祖堅の作る曲って、すごく記憶に残るんですよ。さっきのゲーム論じゃないですが、最近のゲームって、プレイの最中には曲も覚えますけど、プレイしていないと思い出せないものが多いと思うんです。でも『FFXIV』の曲って、祖堅が自分でゲームをプレイしたうえで、ゲーム音楽としてグッとくる曲を書いてくれていますので。プレイをしていないときでも覚えているんですよ。

祖堅 ゲームをプレイするのは大切ですよ。ゲームサウンドに関わる人間には、ゲームを遊ばない人もいるでしょう。日本はとくにそういう傾向があるような気がして、プレイしたほうがいいと思うんですよね。

前廣 本当にそう。たとえば蛮神戦なら、だいたい前半と後半で曲が切り換わりますけど、このタイミングについても、ゲーム体験があればスムーズに伝わるんですね。

祖堅 たとえば、「機工城アレキサンダー:起動編の4層だけ違う曲にしたい」と言われる理由も、自分がゲームをプレイしているからわかるんですよ。「何回行くことになるかわかんないしな、今後」と。だから納得して新しい曲を作る。前廣もめちゃくちゃプレイしていますから、見据えている方向は同じなんです。僕は、“プレイしてくれる人がどう思うか”を大切にしています。だからゲームをしていない人が何を言おうとあまり気にしない。ゲーム体験のために書き下ろしている曲ばかりなんです。そのために毎日切磋琢磨しているんです。

前廣 昔のゲームの曲って、曲のよさの前に“作りがうまい”と感じることがけっこうあります。譜面の使いかたもそうですが、「3音しかないのに、こんなに巧みに作るのか」と感心させられたり、ノイズをドラムにしてキレイにまとめたりとか。最近のゲームはいろいろできてしまうがゆえに、“うまい”と感じる以上に“キレイ”なんですね。でも、祖堅はゲームに合わせて作ってくれるので、本当に“うまい”と思わせられるんです。

祖堅 昔に比べてできることが増えたので、ゲームの演出に合わせたものも積極的にやっていこうと思っています。でも、MMORPGなので実験的な技術導入はプログラマーに嫌がられるんです(笑)。パッケージゲームなら1回だけスタンドアローンで動けばいいんですが、MMORPGはフロントもバックもすべてが無限回連動しないといけないので、プログラマーからすれば難度が相当高い。だから、インタラクティブなサウンドの演出に関する技術を盛り込もうとすると、プログラマーからは「堅実にやっていきたい」と煙たがられます。

──以前に祖堅さんは講演で、戦闘シーンで敵もパーティも入り乱れて、全部がいつどんな音を鳴らすかわからないことに対する、知られざる処理のお話をされていましたね。

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祖堅 シーンにおける最大発音数が読めないこととかですよね? だけど、企画チームからは「もっと派手に!」というオーダーがくるんですよ。まあ、ここ(前廣氏)とか(笑)。

──いままでのお話であまり吉田さんの影が見えませんが、もちろんオーダーがありますよね?

祖堅 ありますよ。でも、3.0に関しては2.Xシリーズほど細かい口出しはなかったですね。

前廣 今回、何か言っていたかな……? 曲に対して口を出されたのは、“Dragonsong”と“Heavensward”ぐらいでしたっけ。それはそうと、ディレクターに対して「口出ししてきた」って失礼ですね(笑)。

──前廣さんと吉田さんのあいだでは、どんな話し合いがされているのでしょうか。

前廣 曲に関しては、あまりしませんね。サウンドの発注がコストに直結するので、「これくらいの規模でやります」という確認を取るぐらいでしょうか。

──その規模感を吉田さんを盾にして祖堅さんに渡すわけですね(笑)。

前廣 はい(笑)。でも、3.0は物量があまりに多かったので……。パッチなら僕でもコントロールできますが、拡張パッケージでしたから。しかも、通常のRPG1本分はある規模だったので、盛ってしまったがゆえに、盾を装備して発注したんです(笑)。

祖堅 全部は無理だから、優先順位を付けるようにお願いして前廣に1回持ち帰ってもらったんですが、再度話し合って作ったという新しいリストのほぼ全部に、“最優先”と書いてあったんですよ!? 「これじゃあ意味がないよ!!」って(笑)。

前廣 ……リストの下のほうに“優先”もあったんだけどね(笑)。

祖堅 笑いました(笑)。「変わってないじゃん、これ。全部要るじゃん!」って。

前廣 最初に発注リストの完全版を作って、そこから1/5くらいまで削ったリストを渡して……。吉田Pも含め、最初の状態を知っていますから、現実的ではあるけど実際に足りるのかな……と。

祖堅 それで受け取ったものは、作業的に「これなら納期までにできるかな?」という量には落ち着いていましたね。でも、ゲームとしては、僕もこれでは寂しいと感じて……。それでいろいろと工夫をして曲数を増やしていきました。

──どんな工夫をされたんでしょうか。

祖堅 聞かれるとわからないです。火事場の馬鹿力なんじゃないでしょうか(笑)。

──(笑)。追い詰められると迷いがなくなるんでしょうかね……。

祖堅 そうですね。それに、しょっちゅう前廣のところへ相談に行っていましたし。

前廣 当然、発注するからには資料も用意します。

祖堅 事あるごとに話し合っていましたから、前廣からのリテイクはそれほど多くなかったんです。成果物に対して抜本的にテコ入れされることがなかったから、あのタイトな期間でもやれたのかなと。反面、自分で自分に出したリテイクはありましたけど……。

前廣 テイク数が多かったのは、おおむね祖堅本人に迷いがあったものくらいですね(笑)。

●ふたりの知られざる仕事

──ここまで前廣さんが祖堅さんをベタ褒めしていますが、祖堅さんから前廣さんの仕事ぶりについて感じていることはありますか?

祖堅 ……『蒼天のイシュガルド』はおもしろかった。イゼルの使いかたとか、ズルいよ!

前廣 ああもう、それで十分ですわ(笑)。

祖堅 本当によくできてるんだよなぁ。プロジェクトの立ち上げ時期に、吉田Pから「竜詩戦争とは」を、懇々と説明されたとき、「そうは言っても、実際どういうことだろう?」と多少モヤがかかっていたんですが、それが前廣の手でシナリオに落とし込まれることで、きちんとゲームになって理解できるからスゴい。……シナリオを書いているだけじゃないんですよ、この人。コンテンツ全体の調整など細かいところを、すごくいろいろやっていますから。

──それは具体的にどんなお仕事なんでしょう。

前廣 いろいろありますね……。『FFXIV』には様々なコンテンツがありますが、機能や内容に関しては誰でも思いつくんです。でも、そこに至る導線や遊んでもらいかたなど、「プレイヤーにどう伝えて、どう遊んでもらうか」も含めてがゲームなんですね。そこまでがなかなかできないところでもあるので、いろいろと指示を出して……。「これはクエストで引っ張らないと、プレイしている人に理解できないよ」ですとか、「ひと言でもセリフを挟むことで、そこがゲーム全体に馴染むよ」など、すべてのコンテンツを見張って調整を入れています。

──シナリオを書いて、コンテンツ全体の事細かな調整をして、祖堅さんにも発注して……。

祖堅 前廣は、肩書きの印象もあって、つねにシナリオだけを書いているイメージがありますけど、本当はほとんどが違う仕事です。

前廣 仕事の割合で言えば、シナリオの執筆はぜんぜん少ないです(笑)。

──ほかにも知られざるお仕事がありそうですね。

前廣 本当に小さなところでは、クエストの表示方法も決めています。誰かに話しかけてつぎの場所へ行くときに、マップの目印をアイコンにするのか、マーカーにするのかの振り分けなどですね。「人を捜すのだからアイコンじゃなくてマーカーが妥当。マップのこの範囲を捜そう」ですとか、「この人と話す目的があるのだから、アイコンにしよう」といった具合です。ほかには、「このクエストを進めるとき、プレイヤーはテレポしてからこう移動するだろうから、目的キャラクターはこっちを向いているべき」とか……。

祖堅 ね、細かい仕事をしているでしょう?

──想像以上に細かいですね。

祖堅 みんな対外的に作業の担当を掲げていますけど、どいつもこいつもそれだけやっているヤツはいないですよ。僕も「曲を書いてます」とは言っていますが、作曲に充てられる時間なんて、1日に3、4時間ぐらいしかありませんから。ほかは全部、別の仕事です。

──祖堅さんの場合はどんな仕事があるのでしょうか。

祖堅 コスト管理もありますし、細かい効果音の発注も毎パッチで何千、何百とあるので、どこに何を入れるかをプランナーと打ち合わせたりしています。あとはプログラムを組むための仕様設計作りもあります。最近だと、オーケストリオンを実装する際に、専用の音を鳴らすシステムが必要になったので、その回路図などを書きました。

──プログラマーのようなお仕事ですね。

祖堅 実際にコードを組むのはプログラマーですが、僕の設計をもとにプログラミングしてくれるわけです。あとは、ボイスキャスティングをしたり、収録をしたり。編曲を頼んだり……。

──本当に、『FFXIV』の音にまつわるすべてですね。

祖堅 あとは、別の部署からの要件に応えたりもしています。「この曲をカラオケにしてください」とか、まあいろいろですね(笑)。

──そういえば、来店者数によってさまざまな企画コンテンツが開放されるエオルゼアカフェで、来店者が40000人を突破したので、蛮神の曲がカラオケになって配信されていますね(笑)。

祖堅 ほかにも、「『ファイナルファンタジー レコードキーパー』用の音源をください」ですとか、毎日いろいろな依頼が多すぎて(笑)。でも、前廣のほうが忙しいと思いますよ。

前廣 機能も『レコードキーパー』のテキストを書いていましたよ(笑)。あとは『ディシディア ファイナルファンタジー』などいくつかの監修案件が重なっていて、先週末から忙しくしていました。全部締切が今日だったので(笑)。

祖堅 鹿児島F.A.T.E.も、いくつも締め切りを抱えながら参加していましたね(笑)。

●サントラは、いつでも当時をふり返ることができる大事なアイテム

──そうしてできあがったのが、今回のサントラというわけですね。最後にまとめの代わりにサントラにまつわるお話を伺えればと思います。

祖堅 サントラの曲順は、前廣が書いたシナリオ順になっていますよ。曲のタイトルは、織田(織田万里氏。世界設定担当)とマイケル(英語ローカライズリードのマイケル・クリストファー・コージ・フォックス氏)が付けてくれています。意外かもしれませんが、英語のタイトルを先に考えてから日本語のタイトルを決めるんですよ。

前廣 そうか、タイトルが違うんだ。発注リストだと、“クルザス西部高地1”としか書いていないよね(笑)。

祖堅 だから、コラボ企画などで「“国境なき空”のデータください」と言われてもわからないの。「なんですかそれ?」みたいな(笑)。

前廣 え、それは僕もわからないな……。(サントラのメニュー画面を操作して)ああ、“フライングマウント汎用1”のことか(笑)。

祖堅 フライングマウントの曲は、「2.Xからずっと遊んできたプレイヤーが、初めて大空を駆け抜ける瞬間だから、とにかく大切に」と、発注リストに書いてあったのを覚えています。

前廣 『蒼天のイシュガルド』でいちばんのウリは“飛べること”でしたので最優先です。

祖堅 期間から算出されるコストを考慮した、曲数を大幅に減らした発注リストでも、マトーヤの洞窟とフライングマウントは入っていました。

前廣 「マトーヤだけは作ってくれ!」と(笑)。

──出てくるからにはと(笑)。

前廣 ゲームのサントラって、“プレイしたゲームの卒業アルバム”みたいな役割を持っていて。要は記憶を引き出しやすいようにまとめたものなんだと思います。『FFXIV』を楽しんでくださっている方が、いつでもそのときをふり返ることができる大切なアイテムだと思いますので、ぜひ買っていただき、毎日プレイしている人も、忙しくてプレイできない人も、頭の中を『FFXIV』だらけにしてもらいたいなと(笑)。今回、本当にいい曲が多いので、じっくり聴いていただければと思います。

祖堅 いいこと言うね!(笑)。

■サウンドトラック情報

『Heavensward:FINAL FANTASY XIV Original Soundtrack』


スクウェア・エニックス 2016年2月24日(水)発売 価格5000円+税
Blu-Rayオーディオ