50年めの真実――伝説の特撮テレビ映画『ウルトラQ』誕生秘話 | ニコニコニュース

『ウルトラQの誕生』(白石雅彦/双葉社)
ダ・ヴィンチニュース

 今から50年前の1966年1月2日、『ウルトラQ』の放送が始まった。米国ドラマ『トワイライトゾーン』をヒントに1話完結型のSFドラマに怪獣モノの要素を加えた、日本国内初の特撮テレビ映画『ウルトラQ』。本作は、後に『ウルトラマン』『ウルトラセブン』へと続く、空想特撮シリーズの元祖である。最高視聴率36.4%、平均視聴率32.39%を記録した、伝説の番組の本放送開始から半世紀――50周年を迎えた記念すべき本年に刊行された『ウルトラQの誕生』(白石雅彦/双葉社)が、特撮ファンの間で好評を博している。
 『ウルトラQの誕生』は、日本の特撮番組に多大な影響を与えた『ウルトラQ』の歴史的意義を問いかけ、その誕生から番組完成までを追った、渾身のドキュメンタリーである。本書において『ウルトラQ』の軌跡は、全三部構成で考察されている。

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第一部:幻の特撮テレビ映画企画『WoO』の誕生から終焉まで


第二部:後に『ウルトラQ』と改題される『UNBALANCE』の誕生から路線変更まで
第三部:怪獣篇と変貌した『ウルトラQ』の本放送まで

 そこには、数々の謎が存在する。なぜ、『ウルトラQ』よりも先に企画された『WoO』は円谷プロ最初の特撮番組になれなかったのか? なぜ、怪獣路線に変更されたのか? 怪獣篇の制作現場はどのようなものだったのか?

 だが、向き合うのは半世紀前の作品である。関係者の多くは鬼籍に入り、資料も限られているため「歴史の空白」が多々ある。謎をひもとくカギは、当時の円谷プロ支配人・市川利明氏の手帳(メモ)だ。内容、予算、打ち合わせ、スケジュールなど、情報の詰まった「市川メモ」を手がかりに、現存する資料や関係者の証言を擦り合わせ、考察を重ねて、白石氏は当時の様子を浮き彫りにし、読者の目は読者の体を離れ、50年前の熱気あふれる制作現場へと入ってゆく。

 1963年、円谷プロダクションが発足し、フジテレビとTBSが特撮番組制作を依頼した。フジの企画は『WoO(ウー)』、TBSの企画は『UNBALANCE(アンバランス)』。

 『WoO』は、宇宙生命体と地球人が協力して事件解決に奔走するという『ウルトラマン』の原型的なSFヒーロー活劇。一方の『UNBALANCE』は文字通り日常のバランスが崩れた摩訶不思議な世界を描く作品として企画された。

 だが、通常番組の予算が30分150万~250万円の時代に、円谷プロが求めた予算は1本600万~700万円。諸般の事情を鑑みて、フジは『WoO』の制作を中止した。


一方のTBSは、4000万円(現在の価値なら10倍以上)の高額な映像合成機(オプチカル・プリンター)を円谷プロに代わって購入した上、予算を通し、『UNBARANCE』の制作は制始された。

 数本分の制作が進んだ頃、東京オリンピックで流行語となった「ウルトラC」にインスパイアされ、タイトルは『ウルトラQ』へと変更される。「ウルトラ」の持つ“躍動感”と、“Q”の文字の形や響きが持つ摩訶不思議さを合わせた『ウルトラQ』。ウルトラQレベルの高度な特撮作品、という意味も込められていた。

 程なくして、番組内容も大きく様変わりする。「アンバランス」という曖昧な企画のもとに、SF・怪奇・宇宙・ミステリーが入り混じっていた『ウルトラQ』には、明確な“売り”がない。円谷英二=怪獣を打ち出すべきだというTBSサイドの要望により、路線変更がなされ、「怪獣モノ」と変容していく。

 以後に制作されたエピソードでは、怪獣の登場が必須となり、着ぐるみの使い回しや、ロケ方法の指定、レギュラーキャラの設定など、かなり厳しい「しばり」が指示されたという。完全に「怪獣篇」となった番組を、脚本家の金城哲夫は「SFじゃなくて、MF(モンスター・フィクション)だね」と苦笑いしたという。

 そして、迎えた初回放送の1966年1月2日。果たして、初回視聴率は東京地区32.2%、大阪地区31.2%(ニールセン調べ)という脅威の数字を叩き出した。まぎれもない、怪獣ブームの幕開けとなったのである。

 これが『ウルトラQ』の誕生のあらましだが、本書の魅力はここにとどまらない。天才脚本家と称される金城氏が厳しいダメ出しをされて泣いていたというエピソードをはじめ、『ウルトラQ』誕生の裏側にあった様々な人間模様が生々しく綴られている。大河ドラマのような時間の流れと、ミステリーのような緊張感、謎が解き明かされてゆくような解放感が、本書にはあるのだ。この濃密なドキュメンタリーをひと通り読み終えたら、二度目は本書を片手に『ウルトラQ』本編を見てほしい。きっと、今まで見ていたときとは違う、『ウルトラQ』の真実が、そこに見えてくる。

文=水陶マコト