[GDC 2016]発売時期と価格が発表されたばかりの「PlayStation VR」について,SCEワールドワイド・スタジオのプレジデント 吉田修平氏に聞く | ニコニコニュース

[GDC 2016]発売時期と価格が発表されたばかりの「PlayStation VR」について,SCEワールドワイド・スタジオのプレジデント 吉田修平氏に聞く
4Gamer

 北米時間の2016年3月15日,Sony Computer Entertainmentがヘッドマウントディスプレイ「PlayStation VR」の製品版を,2016年10月に4万4980円(税別)で国内発売すると発表したことは,すでにお伝えしたとおり。使用する際に必須となる「PlayStation Camera」や,周辺機器の「PlayStation Move」が含まれないとはいえ,Oculus VRの「Rift」(税,送料込みで9万4600円),HTCの「Vive」(約11万2700円)と比較すると圧倒的に安価であり,ゲーマーにしっかりとアピールできる価格帯に抑えてきたという印象だ。

 この発表の翌日(3月16日)に,Sony Computer Entertainmentワールドワイド・スタジオのプレジデント吉田修平氏にインタビューを行う機会を得たので,そうした価格設定やローンチに際してのプロモーション,50作におよぶローンチタイトルなどについて質問をぶつけてきた。

リンク:「PlayStation VR」公式サイト

■PlayStation VRの価格の基準は,コンシューマゲーム機の導入ライン

4Gamer:


 ついにPlayStation VRの価格が発表されましたが,「かなり思い切った価格帯に抑えてきたな」と感じました。

吉田修平氏(以下,吉田氏):


 我々にとって「VRってこんなに楽しいものなんだ」と皆さんに理解してもらうことは,最先端のコンシューマテクノロジーを扱うメーカーとして大切なことです。その一方で,PlayStation VRを開発していくうえでの,技術的なマイルストーンも達成しなければいけません。
 有機ELスクリーンなどの最新テクノロジーを導入し,技術的な部分をクリアして製品化の目途が立ってきたところで,この価格であれば消費者の皆さんに受け入れてもらえるだろうという基準の1つになったのが,コンシューマゲーム機の導入価格のラインでした。 そういう意味で,北米での価格を399ドルに収められたということについて,我々は満足しています。日本の場合は(為替相場などの)いろいろな事情もあって多少異なってしまいましたが,想定の範囲内に収められたと思っています。

4Gamer:


 もともとは,2016年上半期の発売時期を予定されていましたね。

吉田氏:


 ハードの開発自体は予定どおり進んでいるのですが,我々がいろいろなところで発表や展示を行ううちに期待感も上がってきて,ビジネス担当部署とのミーティングを重ねた結果,やはりグローバルで発売するにはある程度まとまった数を製造しておきたいと判断したのです。また,開発者の皆さんがソフトをさらに磨き上げる期間を持てるという意味でも,良い結果につながるのではないでしょうか。

4Gamer:


 この数か月の遅れは,ゲーマーにとってもプラスになると。

吉田氏:


 ええ。日本では「GAME ON 〜ゲームってなんでおもしろい?〜」といった企画展や,水口(哲也)さんが六本木で行われているアートイベントなどにPlayStation VRを出展させていただきましたが,こうした形で長期間のプロモーションを行えるのは良い結果を生むでしょう。
 アメリカやヨーロッパなどでは,ツアーバスでショッピングモールなどに乗り付けて通りすがりの皆さんにPlayStation VRを体験してもらったり,大きなスペースのある量販店などとタイアップして特設スペースを設けたりといったことも予定しています。

4Gamer:


 日本国内でも,地方のユーザーなどにアピールできる余裕がありそうですね。

吉田氏:


 そうですね。2年前,まだ「Project Morpheus」と呼んでいた時期に,大阪・福岡・札幌の3都市を回るツアーを実施したのですが,そのときは実機を用意していなかったため,ずいぶんとお叱りを受けました。昨年はその反省から実機を用意するようにしたのですが,列が長くなってしまい抽選になっていたと記憶しています。そうした状況は我々としても非常に申し訳なく感じていますので,今後も東京だけといった局所的なプロモーションにしないように計画を立てていきたいと考えています。

4Gamer:


 PlayStation VRは,4000万台近いPlayStation 4のユーザー層がメインターゲットになると思いますが,どれだけの人がVRに興味を示してくれると予想していますか。

吉田氏:


 それを予想するのは非常に難しいですね。

4Gamer:


 ヨーロッパではプレオーダーが始まっていますが,予約から発売までに半年もの期間があります。これは,どれだけの市場があるのかを予想するためなのでしょうか。

吉田氏:


 どの地域でどれだけの反響があるのかを予想するには,プレオーダーは1つの指標になると考えています。今回発表したのは“ベースユニット”と呼ばれるPlayStation VRの本体のみですが,地域によってはバンドルパッケージの販売や,人気になりそうなソフトを付けたプレミアムパッケージをリリースするといった,異なる戦略を立てていくことにもなります。日本でも今後,プレオーダーの開始時期やパッケージなどに関する発表を行っていきます。

4Gamer:


 PlayStation CameraやPlayStation Moveの生産ラインも,しっかりと整えなければなりませんね。

吉田氏:


 ええ。すでに,発表から1日でPlayStation Cameraの販売数が750倍ほどに膨れ上がってしまった地域などもあるようです。これまでPlayStation Cameraを持っていなかった方などが殺到したのだと思いますが,ローンチ時にベースユニットはあるのにPlayStation CameraやPlayStation Moveがないという事態は,絶対にあってはならないことですからね。

4Gamer:


 PlayStation VRではシアターモードで映画を見ることもできますが,3D映像のBlu-rayに対応する予定はありますか。

吉田氏:


 おそらくローンチ時点では,3D映像に対応しているタイトルでも2Dで表示されることになると思います。ニーズがあることは分かっていますので,ローンチ後のシステムソフトウェアのアップデートで対応できるように検討しています。念のために申し上げておくと,3D映像対応のBlu-rayそのものはローンチ時から利用できます。ただ,システムソフトウェアがアップデートされるまでは2D表示になるということです。

4Gamer:


 50タイトルというローンチタイトルについては,どのようにお考えですか。

吉田氏:


 正直,少し多すぎたのではないかと感じる部分もあります。当然ながら,この50タイトルの中には開発が遅れるものや,それとは逆に追加されるソフトもあると思います。PlayStation VRというハードウェアの普及が一から始まることを考えたときに,あまりに多くのソフトが出ていると,各メーカーさんが十分な収益を上げられなくなるという可能性も出てくるわけです。

4Gamer:


 つまり,リリースされる新作ソフトの数をコントロールしていくと?

吉田氏:


 コントロールはしませんが,少し心配している部分ではあります。VRの未来を信じてコンテンツ制作に真っ先に取り組んでくれている方々が,次に続けられるようにしていかないと,市場にとって良くない状況に陥ってしまいますから。
 半年後,1年後のソフト需要が十分にある状況が望ましいので,少しでも多くの開発者が次の作品につなげていけるようになっていたらと思います。その意味で,ハードウェアのインストールベースを増やしていくのが我々の義務です。

4Gamer:


 先頃,Oculus VRのジェイソン・ルービン氏に聞いてみたところ,「今のラインナップの中からキラーコンテンツが生まれるかどうかはまったく予想できない」といったお話をされていました。これについて,吉田さんはどう思われますか。

吉田氏:


 大変よく分かります。例えばFacebookにゲーム市場ができたときに,「FarmVille」が大ヒット作になるとは誰も予想していませんでしたし,同じようにモバイルゲーム市場でも,「Angry Birds」や「Clash of Clans」といったタイトルが,いつの間にかキラーアプリに成長していました。VRゲームもまったく新しい市場ですから,どんなゲームが売れるのかを予想するのは非常に難しいですね。
 もっとも,そうした大ヒット作を生み出したメーカーや開発者さんであっても,いきなりそれを狙って作ったのではなく,試行錯誤を重ねてヒット作を生み出すというようなパターンが多く見られます。VRゲームでも,そうやって洗練されたゲームが生まれていくのだと思います。

4Gamer:


 そのVRゲーム市場の始まりの現在,PlayStation VRだけでなく,ほかのVRプラットフォームにおいてもインディーズ開発チームの参加が非常に多いように見受けられます。

吉田氏:


 大手メーカーのAAAタイトルの続編やスピンアウトがあったほうが良いのはもちろんですが,販売本数やどれだけの開発リソースをかけるかを考慮したときに,どうしても及び腰になります。
 インディーズでは経営者が開発者を兼ねていることが多く,「やりたいからやる」というような人や,大手に勤めていても自分のアイデアを実現させたいからと独立してしまう人までいます。私は,そうした高い意識を持っている人が,自分達のやりたいことを絞り込み,小さなゲームを作りながら新作のアイデアを練り直すというやり方に賛同します。

4Gamer:


 大手だからと言って,旧来の手法でVRゲームを制作してもヒットにはつながらないということでしょうか。

吉田氏:


 例えば企画に3年もかけてVRゲームを作っていたら,業界全体としての知識レベルが上がってアイデアが古くなってしまったり,ゲーマーのニーズとかけ離れてしまったりといったことが,とくにVRゲーム市場では十分に想定されます。大手では,Ubisoftの「Eagle Flight」(PC/PS4)が,ワシとして自由に飛び回るフライトアクションの仕組みがうまくできたから,そこに焦点を絞ってVRゲームを出してしまおうというアプローチで成功していると思います。

4Gamer:


 最後になりますが,VRゲームの未来についてはどのようにお考えですか。

吉田氏:


 VRは今後,社会に浸透していくものだと確信しています。医療や教育だけでなく,エンターテイメントの分野でも,大統領選の討論会に使われたり,スポーツ中継がVRモードで実況されたりといった実験も始まっています。もしかすると,将来的にはPlayStation VRなどのハードウェアを買わなくても,特定の施設に行けば誰でも利用できるというような,ごく身近なものになるかもしれませんね。

4Gamer:


 ありがとうございました。

リンク:「PlayStation VR」公式サイト

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記事URL:http://www.4gamer.net/games/251/G025118/20160317135/
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