「『イメージがよくないから起用できない』って言われたことないです」ガチオタでも意外と知らない“美少女ゲーム声優業界”の実情とは――?【後編】 | ニコニコニュース

早瀬やよいさん(やよりは小文字)
おたぽる

 知っていそうで意外と知らない、謎多き美少女ゲーム声優の世界に迫るインタビュー企画第2弾。第1弾(記事参照)に続いて、早瀬やよい(やよいは小文字)さんに登場していただき、美少女ゲーム業界の現状について、ざっくり語ってもらった。

早瀬やよい(以下「早瀬」) 人気ゲームは全年齢向けのコンシューマー化、アニメ化となるケースも多いですよね。美少女ゲームの敷居も低くなってきて、今は18禁に出ている声優さんに対して風当たりも強くないと思います。榊原ゆいさんや民安ともえさんの存在って大きいですよね。これから声優さんになろうっていう人に対して、いいきっかけになってくれると思う。


 今では声優も男女ともにアイドル化。『おそ松さん』(テレビ東京系)などを例に挙げるまでもなく、声優人気も、アニメのヒットに大事なファクターとなりつつある。一方で美少女ゲーム声優さんは顔出ししていない方も多く存在する。顔出ししない理由とはどういったものなのだろうか(※榊原ゆい、民安ともえは、ともに美少女ゲームでもTVアニメでも活躍する声優さん)。


早瀬 そこはグレーです。同じ声なのに名義を分けているのも変な話ですが、とはいえキッズアニメに出演している声優を、チビっ子が検索してみたら、18禁サイトにつながるのはよろしくない、という理屈もわかります。私の場合、『好きな声優は”葉月まぁち”さん!』と答えているので、ファンの方たちとも『この声かわいいですよねー』と和気あいあいとできますが、『俺この声に似てる人知ってるぜ!』と自慢する前に、一度自分に置き換えてみてほしいんです。
 例えばあなたが美少女ゲーム声優だとして……。双子の、生き別れの、波形レベルで声が似ている人が活躍しているとうれしいと思うんです! でも、オフィシャルで公表していない事を勝手にネットなどで断定系で書かれると困りますよね? 言えることと言えないことがあって、人ひとりの問題ではなくて、もっと大きな問題になってくると精神的に辛いだろうし、何かのきっかけで「あーもう辞めてしまおうかな」ってなってもおかしくない。
 それを望んでるわけではないと思うので、自分がされて嫌なことは他の人にもしちゃダメです(笑)。


 声は知っているけど、顔は知らない…というのも美少女ゲーム業界ならではの特徴。また、美少女ゲームからアニメ化に際し、よくある「声優の変更」についても少なからず影響していることだろう。では、実際、現場にいる早瀬さんが抱く印象は――?

早瀬 ゲームから声優さんが変わっていたりすると、大人の事情もあるんでしょうけど、私は悲しいです。アニメになるほどの人気が出るまで、声で支えてきたのはその人たちだと思いますから。業界的にも悔しい思いをしてる方がもっといるかもしれません。
投稿された動画で「杏花とは美少女ゲーム声優である。 通称 杏のうた」という歌があるんです。杏花さんが歌っている歌詞の中に、「起用されない theアニメーション最悪」という歌詞があるんですが、これはもう魂の叫びですよ。


 ブラックユーモアも含んだ名曲の上記「杏花とは美少女ゲーム声優である。 通称 杏のうた」をぜひ視聴してほしい。ネットを見る限り、美少女ゲーム業界を軽視する人も、少なからずいるようなのだ(ニコニコ動画、YouTubeなどで各自調査!)。


早瀬 外画(外国映画の吹き替え)、アニメ、美少女ゲームとあるわけですが、外画とアニメは声優さんが行き来してるんですよ。なぜか美少女ゲームだけ切り離されがち(笑)。
 AV女優さんも“セクシー女優”としてTVの地上波に出てますよね。そこにクレームもないはずです。特撮にもセクシー女優さんの枠があって、彼女たちは名前も捨ててないですよね。なら私も深夜はもちろん、朝や夕方のアニメにも出れるんじゃないか?って思うわけですよ(笑)。
 アニメメインの声優さんを好きで、エロゲを軽蔑じゃないけど……「一緒にしないで」と思う人もいるでしょうけど、私を活かせる場所もあると思う。例えば全年齢対応の「ギャルゲ声優」にシフトするのもいいと思うんですよ。他の人より、ちょっといやらしい「チュ」の音出せますよ(笑)。
 あと、中にはPCからコンシューマになる時、キャスト変更はないんだけど、名義を変えて声優が変更されたみたいになる、という話を聞いたことがありますね。告知ができるように、という心遣いだと思いますが。一方で、私が仲野愛役で出演している『シロガネ×スピリッツ』(戯画)は、Vitaに移植されていますが、声優は全員PCのキャストそのままです。


 事務所や製作サイドによる大人の事情もあるのかもしれない。だが、本来ならコンテンツの宣伝に、強力な武器となるはずの声優さんを、こういった都合で名義を変更したり、表に出せなかったり、と自縄自縛といえはしないだろうか。エンドユーザーに対する心遣い、ということもあるかもしれないが……。

 イメージ悪化が収入にもつながってしまう世知辛いオタク業界。TVアニメに出演する新人声優のギャラが抑えられているという話題も、たびたび耳にするところだが、美少女ゲームの場合はどうなのだろうか。


早瀬 ゲームはカッコからカッコで1ワードとして換算します。1ワードあたりの金額は人それぞれですが、例えば「……」でも、セリフが3行でも1ワード換算。フリーならそのまま、事務所所属なら事務所と分配になりますが、自分以外のことはあまりわかんないです。
 発注先の予算の都合で、外部の人は正規の値段、音響制作の事務所の声優は本来の値段より低い金額で、ということもあります。あと、交通費が出ないことがネックですね。私の場合、1本の収録で1日4~5時間、これが3~4日くらいかかるので、早く終わらせることが経費削減にもつながりますが無理もしたくないですし。セリフをこう表現すればよかったな、と後悔するのも嫌ですからね。


 TVアニメの場合、1話あたりのセリフの量が多くとも少なくともギャラは変わらない。一方、ゲームはセリフ量によってギャラが変わってくるため、役柄によって収入も変化してくる。また、アニメのアフレコスタジオはほとんどが都内に集中しているが、ゲームメーカーは地方にも多く存在しているし、収録が地方で行われることも、ままあるという。

早瀬 メーカーさんが地方の場合は、スタジオ付近にホテルやウィークリーマンションをお借りして現場立ち合いか、都内のスタジオで収録をしながら、Skypeやデータを送付して、確認する場合もあります。方言キャラは収録しながらイントネーションを確認しますね。サイン会やイベントは東京が多いので、地方から出てくる原画家さんもいますし、収録で都心にきて、その足でイベントに出られる地方メーカーさんもいますよ。

 
 アニメもゲームも、イベントとなれば東名阪が中心となるが、早瀬さんは顔出しでイベントに登場するなど、アクティブな声優さんである。個人として、地方からゲームを盛り上げたりもしているとか。

早瀬 休みに地方へ行った時、事務所に営業へ行っていいか確認を取ったんですよ。それでアポなしでゲームショップに行き、名刺を渡して「販売応援でサインしていいですか」って交渉をするんです。東名阪以外のショップさんは喜んでくれるのがうれしかったですね。サインをすることで発売後も残してくれたり、コーナーを作ってくれたりするんです。私の親友がガンで闘病していたので、お見舞いで年に4回くらい岡山に行って、とあるショップさんに立ち寄っていたら「早瀬コーナー」を作ってくれたんです。ある作品だと岡山店が一番予約入ったとか……。こういう動きが、美少女ゲームが盛り上がるきっかけの1つになればいいなと思っています。


 早瀬さんは地方での活動に加えて、東京でもイベントを自ら企画し、美少女ゲームの間口を広げている。


早瀬 美少女ゲーム声優は顔出ししている人も少ないし、イベントも限られてくるから、実際に会う機会も多くない。でも敷居は高くないし、気軽だよってわかってほしいんです。私は自分の父が経営している店を借りて、アニソンや特撮ソングを歌う「アニカラ」っていうイベントを開催しています。10人~20人くらいの規模なんですけど、みんな楽しんでくれているのでうれしいです。それをきっかけにしてメーカーのイベントにも来てくれる方もいます。「声優と一緒にゲームできる」というイベントも行っていまして、他の声優さんやメーカーさんも参加しています。そこから私の出演作品を買っていただける人もいるんですよ。どこが入り口になるかわからないものですね。


早瀬さんの行うイベントは「美少女ゲーム声優が出演するも、美少女ゲームに特化していない」という特徴を持っている。つまり、美少女ゲームファン以外の人が参加しても問題ない、ということ。屋台骨を支える、ということではなく、新規でお客さんを増やすことにチャレンジしている早瀬さんは、声優としての仕事の幅を広げるために「点と点を線でつなぐ作業」をしている。

早瀬 私、お仕事に協力してくださる企業さんがいるんですよ。伊藤園さん(※早瀬さんの出演するイベントでお茶が配られたりすることも)やFostexさんにお茶や機材を提供していただいたりしています。あと、カネス製麺さんの播州そうめん擬人化キャラ・播磨萌夏ちゃんの声を担当していて、物販で乾麺を仕入れて販売してたりしていますよ。表でも嫌がらないで仕事してくれる人もいるんです。だから個人的には、ほかの声優さんは“18禁”をそこまで気にしなくてもいいんじゃないかなって思いますよ。「イメージがよくないから起用できない」って言われたことないですもん。
(個人で活動するのは)声優は定年もなければ資格も不要。でも、同期も上も下もいるから常に戦い続けていかないといけない世界なんです。事務所入ったからって安定もないですしね。戦いに身を置いているからこそ、もっとコンテンツ全体が広まっていけばいいなと思います。


 美少女ゲーム業界では「アトリエピーチ」「ロックンバナナ」いったあたりが、事務所としては有名だ。所属する声優は美少女ゲームに特化しており、フルプライス(8,800円~)からロープライスのゲームまで幅広く出演している。さらに特徴的なのが「顔出し」している声優が多いということ。

 2事務所に所属する声優だけでも、30人以上の名前を確認することができるし、フリーを含めれば、美少女ゲームに携わる声優さんは100人以上も確認できる(同じ声優さんで名義が違うこともあるため、実際にはもっと少ないかもしれないが)。彼女たちが、それぞれのポテンシャルを発揮することができれば、美少女ゲーム業界も、まだまだファン層を拡大することも、できるかもしれない。


早瀬 自分が夏目雫役で出演した『サクラノ詩 -櫻の森の上を舞う-』(枕)は、物語が素晴らしいんです。一般のギャルゲは学生時の3年間を費やして「海に行って水着は見たけど、手もつないでねぇし、チュウもしてないなー」とか「3年間、一緒にいたけどオレら付き合ってなかったんだ!」みたいなこともありますけど(笑)、本来であれば恋愛して好きな人とエッチなことをしたいのが普通の感覚ではないでしょうか。18禁だからこその人間らしさ、表現もありますから、みなさんにもプレイしてほしいです。マナーには気をつけつつ(笑)、もっと気軽にお家でプレイしてもらって、その上で「そこには美少女ゲーム声優さんがいるぞ!」と、存在を感じてもらえばうれしいですね。


 インタビューの最後に早瀬さんに、やってみたいことを聞いたところ「パチンコになりたいなあ。『CR早瀬弥生』みたいな。『みんな私に貢いでんの?』って言いたい(笑)。セクシー女優さんのもあるし。あ、でも何かの作品のスロットとか声だけでも出たいです。なんかメジャーな感じがする(笑)」とのこと。その貪欲さたるや、さすがである。
 筆者は人気のある声優さんももちろん好きだが、TVアニメを見ると「またこの人か」と飽食気味に感じることが多々あるのだ。アニメ業界関係者の方、この業界にはまだまだダイヤモンドの原石がたくさんいますよ。