【レポート】PS VRに見る「VRに求められる厳しい条件」 - 西田宗千佳の家電ニュース「四景八景」 | ニコニコニュース

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●コマ落ちも遅延も「酔い防止」のため御法度
現在筆者は、アメリカ・サンフランシスコにいる。3月14日から18日まで開催されていた「Game Developers Conference (GDC)」を取材したためである。下記の「PlayStation VR (PS VR)」に関する発表も、GDCに合わせて行われたものだ。

・思っていたより安い「PlayStation VR」 - 44,980円で10月発売(3月16日掲載)

○コマ落ちも遅延も「酔い防止」のため御法度

今年のGDCは、発表・講演・会場展示ともに「VRが中心」だったといって過言ではない。現在のVRブームに火をつけた「Oculus Rift」の個人向け出荷が3月末から開始されること、来たるPS VRの発売など、VRが家庭に浸透するチャンスとして、2016年がきわめて大きな意味を持っていることと無縁ではない。

だが、こと「開発者会議」であるGDCという場にとっては、VRに関する知見を交換し合うことが重要である。VRには課題がたくさんある。それらをきちんとクリアーしないと良い体験にはならない。それどころか、「VR酔い」を起こし、反感を醸成することになってしまう。

まずご法度なのが「コマ落ち」。ゲームをしていると、表示キャラクターが増えたり、込み入ったシーンになった時、表示コマ数が一時的に落ちることが少なくない。一般的なゲームは、毎秒30コマもしくは60コマをターゲットに制作されているが、一時的なコマ落ちはよくあることだ。

だが、VRでは許されない。現実世界にはコマ落ちなどない。VRによって視界を映像に置き換えた場合、コマ落ちした瞬間に、脳が実際の動きと映像の間の違和感を感じて「酔い」の原因になる。視界を置き換えるVRでは、頭の動きに合わせて映像を書き換える必要があるから、画面内の映像の書き換え範囲は、一般的なゲームより広くなる。さらに、書き換えコマ数も多い方が良い。毎秒30コマではVR酔いを防げないのだ。

OculusやHTC Viveの場合、書き換えコマ数は毎秒90コマ。このコマ数が維持されるのが望ましいが、首の動きにに合わせて映像の位置を補正する技術 (リプロジェクション) を使って、一時的なコマ落ちをカバーする仕組みも盛り込まれている。仮に画像の端が若干欠けたとしても、その瞬間の首の位置に合わせて映像が描画されている方が、酔いを防止できるからだ。90コマをどうしても維持できない場合、45コマにしてリプロジェクションによる補正をかけた方がいい、ということになっている。

PS VRの場合には最低60コマだが、リプロジェクションを組み合わせた仕組みでコマ数を自動的に120コマまで増やすようになっている。また、90コマもしくは120コマでの直接描画も可能だ。どちらにしても、推奨コマ数を下回るコマ落ちは「もはや許されないもの」だ。

●求められる「VRならではの制作ノウハウ」
毎秒60コマの場合、1コマに与えられる時間は約16.6ミリ秒。毎秒90コマでは約11.1ミリ秒にまで短くなる。しかもVRでは、立体視のために右目と左目両方の処理が必要だ。この間でうまく処理負荷をコントロールするためには、いままで以上の配慮が必要になる。

ValveのソフトウェアエンジニアAlex Vlachos氏は、「負荷分散のためにも、VR対応ゲームエンジンは2つ以上のGPUを並列に扱えることが望ましく、表示負荷に合わせて自動的に描画セッティングを変える機能を搭載したり、視野の中央以外の描画量を半分以下に減らすなどの工夫が必要」と説明する。PCにおいては、マルチGPU搭載の高性能なゲーミングPCであることが望ましいが、そこまでは至らないスペックのPCも想定する必要があるためだ。

しかもここから、VR用のヘッドマウントディスプレイ (HMD) に映像が表示されるまでの遅延と、モーションセンサーなどでHMDの位置を把握して補正する時間も加味される。現状のハイエンドVR機器はすべて有線で接続されているが、1ミリ秒、2ミリ秒を稼いで酔いを抑えようと努力する世界では、5ミリ秒単位での遅延が想定される無線通信系の活用は難しい。

PS VRはここで有利である。PCと違って環境が統一されているため、「PS4とPS VRのセット」に絞り込んでチューニングを追い込める。実際、PS VRのVR体験は、PCのそれに勝るとも劣らない快適なものだ。

今年の秋には、PS4発売から3年が経過する。技術的に最新で数倍の価格であるハイエンドゲーミングPCに比べれば、純粋な演算能力ではかなりの差があり、不利は否めない。実際、VRにおけるCGの表示能力では、PC向けのものに比べ、差がある。

だがそれでもPS VRが快適であるのは、数ミリ秒を争って処理するVRにおいて、最適化設計が演算能力と同等以上の価値を持っている、ということなのだろう。そうしたノウハウも、VRが世に広まるにつれ、新しい価値として認識されていくのではないだろうか。

○求められる「VRならではの制作ノウハウ」

一方で、VR酔いの原因には、技術的なものとコンテンツデザイン的なものの二つがある。ここまで解説してきたのは技術的なものだが、デザイン面での要件はより多い。

例えば、急に動く方向を変えると人は一気に酔う。前や横への平行移動はいいが、後ろへ下がるのは苦手。画面を回転させる、いわゆるロールの動きも、酔いを誘発しやすい。主観視点に近く、世界全体を見通すのが難しいため、目的地の方向などを見失いやすくなる。加速度を感じさせる場合にも、急激に速度を変えると酔うため、ゆっくり変えなくてはいけない。逆に加速度が変化しないなら、高速移動していても酔いにはつながらない。

そうした知見は、VRコンテンツを作ってみないと見えてこない。ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイドスタジオ・プレジデントの吉田修平氏は「やってみないとわからない。どんなにゲームのベテランでも、同じところで引っかかる。自分が真剣に取り組み始めるとやっとわかってくる」と説明する。

だからこそ、GDCでも情報交換は活発に行われていたし、日本国内でも、VR関係者の横のつながりは広い。そうした試行錯誤の結果は、PCにおいては4月あたりから、より一般向けの製品としては10月発売のPSVRから見えてきそうだ

(西田宗千佳)