ジダン監督が打ち出す徹底した実力主義…新たな顔を見せる銀河系軍団・レアル | ニコニコニュース

ジダン監督はレアル・マドリードに実力主義を持ち込んだ [写真]=Getty Images
サッカーキング

 今のジダンを見ていると、スペイン語で“ロス・ガラクティコス”(銀河系軍団)と呼ばれたチームを思い出す。

 ロス・ガラクティコスとは2000年~06年までのフロレンティーノ・ペレス会長の第1期政権時代に、当のジネディーヌ・ジダンを始めルイス・フィーゴ、ロナウド、デイヴィッド・ベッカム、マイケル・オーウェンら世界的な名選手を次々と獲得し、そのスターたちの煌めきと“もう地球上には敵がいない”ということで、銀河系の冠が付けられたのだった。その当時の強化方針が“ジダネス・イ・パボネス”(ジダンたちとパボンたち)と呼ばれるものだった。これは攻撃陣にジダンのような世界的なスターを配し、守備陣にフランシスコ・パボン(育成部門出身の当時のセンターバック)のような自前で育てた選手を配してチームを作る、というものだった。

 だが、最強の選手を集めれば最強のチームができるはず、というこの壮大なプロジェクトは成功しなかった。最初の3年間はチャンピオンズリーグ(CL)優勝1回、リーグ優勝2回を成し遂げるものの、後半3年間は無冠に終わり、ペレス会長は責任を取って辞任する。辞任時の「私は選手を甘やかし過ぎた」という言葉は有名になった。スター選手のエゴを操るには、監督もガラクティコであるべきだったのだが、カルロス・ケイロスやアントニオ・カマーチョ、ヴァンデルレイ・ルシェンブルゴには荷が重過ぎたのだった。

 あれから10余年、09年に会長の座に返り咲いたペレスは、さらなる確信を持ってロス・ガラクティコスの建設を再開したように見える。クリスティアーノ・ロナウド、カカ、カリム・ベンゼマ、ルカ・モドリッチ、イスコ、ギャレス・ベイル、ハメス・ロドリゲス、トニ・クロースらを次々と獲得した補強戦略には、かつてパボネスを混ぜ込んだような妥協がない。貫かれているのは実力主義である。レアル・マドリードの優秀な下部組織で育ったカンテラーノは実力でのし上がって来るはずであり、優遇によって強いチームはできないという確信が感じられるのだ。

 そうして、今回はベンチにもガラクティコを置いた。

 ラファエル・ベニテス退陣による背水の陣ではあったが、ペレス会長はジダンを新監督に就任させ、一気に失地回復を図ったのだ。監督経験の浅いジダン起用は賭けだったが、彼には今までのどの監督にもなかった選手時代の絶対的なカリスマがあり、その圧倒的な影響力でチームを掌握できるはず、と考えたのだろう。ジダンがジダネスを指揮する、真のジダネス軍団の誕生である。

 ただ、運命のアヤを感じるのは、ジダンがカンテラーノたちを軽視するどころかむしろ積極的に活用したことだ。アトレティコ・マドリード戦で屈辱的な敗北を喫すると、ジダンは徹底した実力主義を打ち出す。走らない者、足を入れない者、戦えない者は使わないと、カンテラーノたちを抜擢する代わりにスターたちをベンチ送りにしたのだった。ボルハ・マジョラル、ルーカス・バスケス、ヘセ・ロドリゲス、カゼミーロたちをJ・ロドリゲス、ベイル、イスコ、クロースらと競わせて反攻に打って出る、というジダンの策は、アトレティコ・マドリード戦後の3試合で3連勝、12得点2失点と実を結びつつある。

 今回のクラシコが反攻のクライマックスであることは疑いがない。ジダンがジダネスを率い、パボネスを刺激にした真の実力主義を課されたチームが、ここから何を見せてくれるのか? クラシコへ向けて昂揚していくレアル・マドリードの軌跡を見逃さないようにしたい。

(文=木村浩嗣/記事提供=WOWOW)