「連載を落とすなんてもってのほか」さいとう・たかを『ゴルゴ13』は「オチ」を先に決める、その利点とは? | ニコニコニュース

『ゴルゴ13』の生みの親、劇画家のさいとう・たかを氏 (写真=川口宗道)
ダ・ヴィンチニュース

 『ゴルゴ13』の生みの親、劇画家のさいとう・たかを氏が、画業60年周年を迎えた。4月5日には、本作180巻目となる『ゴルゴ13 ギザの醜聞』(リイド社)が発売された。そこで、さいとう氏に青年コミックの原点とも言うべきさいとう劇画の世界と、『ゴルゴ13』などについて語ってもらった。
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■青年コミックの原点

 画業60年ということは劇画家としての還暦です。私自身も今年で80歳――傘寿です。私は19歳でデビューしてから28歳までずっと貸本の世界で仕事をしてきました。本屋さんで売っている本ではなく、貸本屋さんで借りて読むんです。読者は、工場や商店で働くために地方から都会に出てきた若者が中心でした。ところが、オリンピック前ころから貸本の世界はどんどん斜陽になっていきました。

 せっかく人口が一番多い団塊の世代の読者がついてくれたのに、これを手放すのはマンガ界の損失や、と考えた私は雑誌を出している出版社をまわって「大人が読めるドラマ性のある作品を描かせてくれ」と説得しました。

 まだ、青年コミック誌なんて影も形もない時代です。講談社や小学館はマンガは子どものものという先入観から抜けきれない。そこで、芳文社の『週刊漫画TIMES』に持ち込んだら“本誌では無理だが、別冊なら20ページくらい出そう”と言ってくれた。ありがたかったですね。

■マンガ家の先輩・工藤一郎氏の言葉に救われた

 私は1955年に日の丸文庫の単行本『空気男爵』でデビューした当時から、ずっと絵のことで悩んでいました。一時期、挿絵画家を目指していたので、挿絵のようなタッチなら描けるんですけど、どこか違う。そんなこんなで自信がなくなって描けなくなった時期がありました。すると、原稿料が気に入らなくて描かないと勘違いした出版社が、勝手にどんどん値上げしてくるんです。

 そのころに救われたのは、尊敬するマンガ家の先輩である工藤一郎さんの、「さいとう氏はマンガを描くために生まれてきたんだね」という言葉でした。それがとてもうれしかったんですね。それから、開き直ってまた描けるようになりました。そうして生まれたのが貸本で大ヒットした『台風五郎』です。

■ドラマはオチから考える

 苦労したのは少ないページ数で、いかにドラマをつくるか、ということでした。そこで、考えたのがオチからドラマを組み立てることにしました。ラストシーンがあって、20ページでそこに至るためのストーリーを考えるのです。

 オチがあって、そこまでを間を埋めていくという手法は、『ゴルゴ13』にも通じるものがあります。もともと『ゴルゴ13』は10回連載の予定で、最終回はストーリーやコマわりまで私の頭の中にできあがっていました。最終回ができていて、その間に挿話を組み込むように描いているのが『ゴルゴ13』の連載です。だから何年でも続けられたのです。

 オチが先にある利点がもうひとつあります。ひとつのオチからいろんなタイプのドラマがつくれるということです。アクションものはもちろん、心理サスペンス、コミカルなもの、センチメンタルものも描いています。

 実は、私は男女の情愛を描くセンチメンタルな作品が好きなんです。ただ編集部はあまりこういう路線で描かせてくれないのが残念です。

■ゴルゴは47年間休みなし

 1964年には、小学館の月刊誌『ボーイズライフ』12月号から、イアン・フレミングの『007』シリーズの劇画版の連載がはじまりました。しだいに雑誌の仕事も増えて、67年には『週刊少年マガジン』で時代劇の『無用ノ介』の連載が始まりました。この作品でうれしかったのは、当時の内田勝編集長の口説き文句です。内田さんは「マガジンを卒業していく読者をつなぎとめるものを描いてください」と言ってくれたんです。

『無用ノ介』では、人間味のある浪人を主人公にして、アクションだけではないドラマを描くことができましたが、いかんせん、少年誌だという壁がありました。

 ジレンマを感じていたころ、『週刊少年サンデー』の編集長だった小西湧之助さんが、青年向けの新雑誌『ビッグコミック』を創刊することになり、68年11月(69年1月号)からは『ゴルゴ13』の連載も始まりました。以来47年1号も休まず遅れずというのは自慢してええと思います。締切に遅れたこともない。それはプロとして当たり前、私らはお金をもらって読んでもらうわけですよ。内容も読者の期待を裏切るわけにはいかない。連載を落とすなんてもってのほかです。

 続けてこられたのは、さいとう・プロのスタッフの支えがあるからです。私はデビューした頃から、この仕事は映画にように分業でないといいものはつくれないと考えていました。絵も描けてストーリーもつくれてなんて人はひと握りの天才だけです。天才ではなくても、それぞれが得意な分野で才能を発揮して協力すれば天才以上の作品ができる。そう考えています。

 ゴルゴがどこまで続くか……ですか? 最終回は私の頭にあるので、あとは「描き続けられる限り」としか言いようがないですね。

『ゴルゴ13』は、紛争地や世界の政治・経済の中心が舞台になって、超人的なスナイパーが依頼された仕事を成功させるストーリーと考えられているかもしれない。

 しかし、ゴルゴは、音楽や演劇などの文化、科学技術、企業活動の最前線など、多様な分野で、その仕事をこなしてきた。そして、さいとう氏は事件の背景にある人間ドラマを丹念に描き出している。これが『ゴルゴ13』が長年読者に支持されてきた真の理由だろう。この180巻はそのことを再認識されてくれるような3編が収録されている。

「ギザの醜聞」の依頼人はイギリス考古学界では名門の家柄であるウェザー家の当主。ターゲットは彼の孫で考古学者のマーチン。そこにはどんな理由があるのか。考古学の世界や、埋蔵品のねつ造ルートなどが丹念に描かれ、読みごたえは満点の作品だ。

「誰がそれを成し得たのか」では、ゴルゴが自然の脅威にチャレンジする。不可能と思えるミッションを克服する緻密なプロセスの積み重ねが読みどころだ。「死への階」は、かつての仲間から「ゴルゴに狙撃を依頼した」という手紙をもらったシシリアの組織のボス・ゼウスのドラマ。「画業60周年」「80歳」「180巻」が通過点に過ぎないのだ、と感じさせてくれる内容である。2018年に『ゴルゴ13』連載50周年が来ても、さいとう氏は次の高みを目指すに違いない。

取材・文=中野晴行 写真=川口宗道

<プロフィール>


さいとう・たかを●1936年生まれ、大阪府出身。55年、『空気男爵』(八興・日の丸文庫)でデビュー。59年、辰巳ヨシヒロ、松本正彦らと劇画工房を結成。劇画ブームの立役者となる。代表作に『超人バロム1』『影狩り』『サバイバル』など多数。第21回小学館漫画賞青年一般部門ほか受賞。2003年に紫綬褒章、10年に旭日小綬章を受章。