人間の手足は“魚のエラ”から進化した!? 138年前のトンデモ説は正しかったことが判明(最新研究) | ニコニコニュース

イメージ画像:「Thinkstock」より
TOCANA

 1878年、ドイツの比較解剖学者カール・ゲーゲンバウルが、生物の進化に関する驚くべき新説を唱えた。それは「私たちの手足は、魚のエラが進化したものである」という仰天の主張だ。しかし、人間の四肢と魚のエラでは構造や機能がまったく異なるうえ、裏づけとなる化石も発見されていない。結局、当時の科学界からは見向きもされず、この説は長らく忘れ去られることになる。

 そして138年が過ぎた今、なんとゲーゲンバウルの説が正しかったことを証明する画期的発見がなされ、世界の科学界に衝撃が走っている。にわかには信じがたいが、太古の昔、私たちの手足は魚のエラだったのだ! 早速、衝撃の最新研究についてお伝えしよう。

【その他の画像はコチラ→http://tocana.jp/2016/04/post_9527.html】


■遺伝子解析技術が開いた、真実の扉

 4月19日付の英紙「The Daily Mail」をはじめとする複数の海外メディアによると、今回の大発見を成し遂げ、学術誌「Development」上に論文を発表したのは、米・ハーバード大学医学大学院や英・ケンブリッジ大学の科学者たちだ。

 研究チームは、ゲーゲンバウルが過去に唱えた説の真偽を確かめようと、人間の四肢とエイのエラを最新の遺伝子解析技術を用いて分析した。すると人間の四肢は、サメやエイなど(原始的な特徴を維持している)軟骨魚類のエラと共通する“ある遺伝子”を有していることが判明したという。そしてこの遺伝子には、(研究者が大ファンだった?)ゲームのタイトルにちなみ「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」という名が与えられたのだ。


■ソニック・ザ・ヘッジホッグ遺伝子の“異なる役割”が意味すること

 ソニック・ザ・ヘッジホッグ遺伝子は、エイのエラでは特に「鰓弓(さいきゅう)」と呼ばれるアーチ状の軟骨形成に重要な役割を果たしている。エイの初期胚でソニック・ザ・ヘッジホッグ遺伝子の働きを抑制すると、エラの向きが異なるなどの形成異常が見られ、後期胚で行われた同様の実験では、エラが正常の大きさまで発達しなかった。

 また、人体におけるソニック・ザ・ヘッジホッグ遺伝子は、腕や指の骨格形成に深く関与するとともに、ガンの発現にも影響していると考えられている。研究チームを指揮したケンブリッジ大学のアンドリュー・ギリス博士は、次のように語る。

「ソニック・ザ・ヘッジホッグ遺伝子は、エイの体では鰓弓の発達、人間の体では四肢の発達に関わっています」
「例えば、人間の初期胚では手指の並び、後期胚の段階では四肢がしっかりとした大きさに成長するための役割を担うのです」

 つまり、エイと人間は共通の遺伝子を有しているにもかかわらず、その役割は“エラの発達”と“四肢の発達”で異なっている。これは、魚のエラが四肢に進化したことを示しているというわけだ。サメやエイなどの軟骨魚類が、やがて硬骨魚類へと進化する過程で、エラから胸びれと腹びれが生じ、それが陸上へと進出するときに四肢へと変化した可能性が高いのだ。


■劇的な進化は、何もないところから起こらない

 魚のエラから(やがて四肢になる)胸びれと腹びれが生じた過程を明確にたどることができる化石は、現在も発見されていない。ギリス博士は「まだまだ謎が多いのも事実」と前置きしたうえで、次のように研究の意義を強調している。

「今回の結果は、人間も含めた脊椎動物の起源に光を当てるものです」
「劇的な進化というものは、何もないところから降って湧いたように起こるものではないのです」

 100年以上前、誰からも顧みられなかった説に、現代の技術が光を当てた今回のケース。ゲーゲンバウルは、一体どのような思いで事態を見守っているだろう。いずれにしても、生命の進化の過程は、私たちの想像を超える不思議に満ちている。現時点における“常識”は、必ずしも“真実”であるとは限らず、常に“更新”される可能性があるという謙虚な姿勢が重要だといえそうだ。


※イメージ画像:「Thinkstock」より