「ガルパン聖地」コスプレ撮影禁止で議論沸騰、自治体の対応として適切なのか? | ニコニコニュース

「ガルパン聖地」コスプレ撮影禁止で議論沸騰、自治体の対応として適切なのか?
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昨年11月に公開された劇場版アニメ「ガールズ&パンツァー」(ガルパン)の舞台になった、茨城県大子町の旧上岡小学校。その入り口に4月初め、「校舎内でコスプレによる写真撮影はご遠慮願います」という張り紙が出され、ファンの間で話題になった。

ツイッター上では、過激な格好など「撮影時のマナー違反」や「ゴミの放置」などが原因という情報が流れ、「TPOもわきまえられねえ馬鹿はヘソ噛んで死ね」と行き過ぎたファンを批判する声が上がった。

上岡小は明治時代に建てられた木造の小学校。2001年に廃校となった後も、土・日・祝日は建物を公開、NHK朝の連続テレビ小説「花子とアン」「おひさま」などのロケ地としても使われている。

コスプレ撮影の実質的な禁止について尋ねると、町役場の観光商工課は「トラブルということではなく、もともとコスプレでの写真撮影は遠慮いただいていました」と回答。張り紙は「聖地」を訪れるファンが増えたことから、上岡小の保存会が再確認の意味で出したそうだ。

コスプレ撮影を控えてほしい理由は「著作権」にあるようだ。

「商用目的で写真を撮られると困りますし、著作権を侵害するような衣装で撮影された写真がネットに出回ったり、写真集が売られたりすると、町が許可したと思われてしまう可能性があります」

担当者は「コスプレで来られる際は事前にお問い合わせください。いろんな方がいらっしゃる公共施設なので、それぞれがマナーを守って楽しんでいただければと思います」と話している。

こうした大子町の対応について、「聖地巡礼」にくわしい国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)客員研究員の境真良氏に聞いた。 

●コスプレ撮影=著作権法違反ではない

「まとめるなら、『違法ではないが、少々不適切で、少なくとも残念だ』と思います」と境氏は言う。

「建物や場所の管理権限を持つ者が、第三者の利用について許諾権を持つことは普通認められます。ですから、条件付き利用許諾という意味で、コスプレによる写真撮影を禁ずることは、合法だと思います。

しかし、個人的には太子町の説明は少し納得できない部分があります。コスプレ撮影がすべて著作権法違反の問題を惹起するか、というと通常そうとは言えないからです」

境氏はこう続ける。

「確かに、コスプレの衣装や小道具は作品の一部と見なされ、その制作は複製行為と見なしうると思います。この場合、無断で複製すれば法的責任を問われ得ますし、実際に検挙例もあります。

しかし、検挙例を見れば、問題となるのは無許諾な衣装やグッズの製造・販売についてです。特に、衣装であれ小道具であれ、個人で作ったものであれば『私的使用』のための複製(いわゆる『私的複製』)として合法になります。その写真撮影も、写真などを個人で使用する分には合法と考えて良いと思います」

●「理屈づけとしてはややつらい」

「ここまでのことについて、太子町も分かっているのでしょう。問題にしているのは『その写真がネットに出回ったり、写真集が売られたり』するといった行為だと、はっきりコメントしていますよね。

であれば、コスプレ撮影をおしなべて禁止する、少なくともそれをすべて町役場などによる許可制にするというのは、禁止範囲が問題にしている事態と比べてかなり広くなってしまっていて、決めごとの作り方として拙いと思います。いや、全く合法な『私的使用』と認められる撮影行為も含んでしまうという意味では、『不適切』と言ってもよいと思います。

ひょっとしたら、どこかに『著作権法違反行為なのだぞ、知ってるか』みたいなことを言い出す人がいたのかも、と邪推します。お役所は、こういう『問題が起きたらどうするんだ』というタイプの言葉に弱い。

しかし、著作権法違反は親告罪です。違法行為として処罰されるかどうかの峻別の権利や責任は、太子町の役場や町民にはなく、作品の著作権者に委ねられています。ですから、もし邪推の通りだとしても、この手の言葉に太子町役場は踊らされる必要はないのです。なので、著作権の話は理屈づけとしてはややつらいと思います」

●「言葉の表現には慎重を期して」

「町の公的施設で、『ガルパン』の権利者も問題にする違法行為が行われることを太子町が嫌うのは分かりますし、現地の方が一線を越えそうなファンに釘を刺すことは問題無いと思います。しかし、それが決してほかのファンを萎えさせないように、表現には慎重を期してほしい」

具体的にはどうすべきだったのだろうか。

「問題が著作権法違反行為なら『当施設内で撮影された写真で、その商業的利用など、原著作者の権利を侵害することはしないでください』とか書けばいいし、『ガルパンさん』(遠方から現地を訪れる『ガルパン』ファンのこと)のコスプレイヤーと他の作品のファンの間のトラブルなら、『この施設は、様々な作品のファンが見学にいらっしゃる施設です。みなさんがそれぞれ最大限に楽しめるよう、互いに配慮し、譲り合ってご利用ください』とか書けばいい。

『聖地巡礼』と呼ばれる現象は、作品を中心に、作り手と地元とファン、そしてファン同士のコミュニケーションが上手くいって初めて成功します。今のところ、『ガルパン』はこれがとても上手くいっていて、希有な成功例の一つだと思うのです。今回の張り紙では、あたかもコスプレ撮影そのものを嫌っているように思えてしまいます。それはせっかく生まれたファンと現地の信頼関係を傷つけるかもしれない。

よくよく太子町側のコメントを読んでみたり、あるいは現地のレポートを読んでみても、現地がコスプレをして撮影する人を含めた『ガルパンさん』たちを嫌っているわけではないんですね。むしろ大歓迎している。今のこのよい関係があるのに、こうした過剰に抑制的なコメントが一人歩きすることは、決してお互いのためにならないでしょう」

境氏はこう締めくくる。

「コミュニケーションで言葉の選び方、使い方が重要なのは、商取引や恋愛と同じです。それは、現地自治体が文句を言われないよう過剰に防御線を張ることよりも、よほど重要な気遣いだと思います。そういうことを、『聖地巡礼』に関わる地元自治体のみなさんも、よく意識していただきたいと思います」

(弁護士ドットコムニュース)