断たれた「夢の続き」が見たい......武豊騎手、エイシンヒカリと挑む欧州遠征にファンが期待する理由 | ニコニコニュース

武豊騎手とエイシンヒカリ(競馬つらつらより)
Business Journal

 昨年、毎日王冠や香港Cを制するなど大きく飛躍したエイシンヒカリ。陣営としても今年はより「ワールドワイド」に活躍させる年と位置づけている。

 エイシンヒカリは今月27日に日本を出国し、英国へ向かう予定。5月24日に開催されるイスパーン賞(仏G1)の後、6月15日のプリンスオブウェールズS(英G1)に挑戦するということだ。イスパーン賞は1999年にあのエルコンドルパサーが出走し2着、プリンスオブウェールズSには昨年、天皇賞馬スピルバーグが挑戦し6着となっている。

 馬主である「栄進堂」は、香港を中心に海外遠征には積極的。クラブ馬だと賞金面の問題から「国内専念」となる場合が少なくないが、個人馬主であるためその制約もなし。競馬ファンとしても「これは楽しみ」「個人馬主最高」「香港は勝ったし、次は欧州ってのはいいね」と、挑戦に対し前向きな声も多い。国内には安田記念に宝塚記念など、同馬にマッチしたG1競走がないという理由も大きいだろう。24日に開催された香港・クイーンエリザベス2世C(G1)の上位馬を同馬が香港Cで破っていた部分もある。展開など一概にはいえないが「やっぱり強い」とエイシンヒカリの強さを改めて評価する声も多い。

 2戦とも、主戦は変わらず武豊騎手。海外経験豊富な名手にこれまで通り託すというのは自然な流れ。22日には栗東の坂路調教で好調をアピール。来る欧州遠征に向け準備万端といったところか。まずは無事に走り切ることを願おう。

 国内最強クラスの逃げ馬に武豊騎手がまたがっての海外遠征......。往年の競馬ファンにとっては、心躍る要素が満載だ。15年以上前、武豊騎手での海外遠征を期待された悲運の名馬、サイレンススズカを思わずにいられない人も多いだろう。

 98年、4歳(当時表記5歳)時にその怒涛の大逃げで6連勝、毎日王冠で当時無敗のエルコンドルパサー、グラスワンダーの外国産馬2騎をまったく寄せ付けず完勝したレースはいまだに伝説となっている。大目標の天皇賞、そして翌年にはアメリカ遠征も視野に入っていたのだが......。

 同年の天皇賞・秋、ダントツの1番人気で大逃げを打つも、サイレンススズカは突如失速。三本脚で立つサイレンススズカを見て、ファンはもう二度と同馬の大逃げを見られないことに直感的に気づいた。それほど絶望的な姿であった。あまりにも唐突な「夢の終わり」。多くのファンの間でいまだにサイレンススズカが語り草なのは、その実力はもちろんのこと、大逃げというレーススタイルや突然の終焉に対するインパクトがあまりにも大きかったという部分もあるかもしれない。武騎手自身、インタビューで「今でもすごくよく、サイレンススズカのことを思い出すんですよ」と語っており「忘れ得ぬ馬」であることを認めている。

 ファンにとって、海外挑戦をするエイシンヒカリを「断ち切られた夢の続き」と思う人も多いかもしれない。もちろん武騎手や陣営の心境は異なるかもしれないし、同馬とサイレンススズカのレースぶりは似て非なるものという声も多いが、「逃げて強い」エイシンヒカリの注目度の高さは、やはり伝説となった名馬の物語を内包しているように感じられてしまう。

 エイシンヒカリが欧州で躍動する姿を楽しみにしたい。好結果を残せたなら、そのままイギリスのチャンピオンSなどにも挑戦してほしいと個人的には願ってしまうが、そこはさすがに秋の天皇賞を狙うだろうか。注目である。
(文=利坊)