東京お台場の日本科学未来館がリニューアル。ドロッセルマイヤーズほか,著名ゲームクリエイターが手掛けた新常設展示「未来逆算思考」を体験してきた | ニコニコニュース

東京お台場の日本科学未来館がリニューアル。ドロッセルマイヤーズほか,著名ゲームクリエイターが手掛けた新常設展示「未来逆算思考」を体験してきた
4Gamer

 最先端の科学技術を扱うミュージアムとして,2001年にオープンした東京お台場の日本科学未来館。その開館15周年を迎える今年,同館内の常設展示の大幅リニューアルが行われ,2016年4月20日より一般公開がスタートした。

 今回のリニューアルでは,館内6か所に新たな展示が登場し,さらにドームシアターでの上映プログラムも新たな作品が加わっている。そんな新規の常設展示の一つに,ドロッセルマイヤーズの渡辺範明氏が中心となって制作された「未来逆算思考」がある。


 本稿では,4月19日に行われた日本科学未来館のプレス内覧会の中から,この「未来逆算思考」を中心に,その概要を紹介していこう。

リンク:日本科学未来館 公式サイト

■地球の未来をバックキャスティングで考える「未来逆算思考」

 開館以来,初めての大幅リニューアルが行われた日本科学未来館。今回のリニューアルは,科学技術の進歩に合わせたアップデートのみならず,それまで「体験型」だった展示を,「経験・思考型」へとする見直しが盛り込まれているという。来館者がただ見るだけでなく,自ら考えて未来を作る行動へと促そう,というわけだ。

 そうしたコンセプトをもとに新たに設計された展示の一つが,同館3F「未来をつくる」ゾーンに設置された「未来逆算思考」だ。


 この展示は「バックキャスティング(Backcasting)」と呼ばれる,「理想の未来を描いて,そこから現在へとさかのぼり,今すべきことを考える」という思考法がテーマになっていて,体験者は「あなたは子孫にどんな地球を贈りたいか」というテーマについて考えるプレイヤーとして,ゲームに参加することになる。

 企画にはゲームデザインとディレクションを担当したドロッセルマイヤーズの渡辺範明氏をはじめ,イラストにオインクゲームズの平岡久典氏,プロジェクトマネジメントにアークライトの野澤邦仁氏といったボードゲームの著名クリエイター陣が名を連ねており,またソフトウェア開発を「悠久の車輪」のリズ,チューニングを猿楽庁が担当。さらにサウンドに「バーチャファイター」「ルミネス」の中村隆之氏,空間設計にデザインムジカの安藤僚子氏,監修にe-Sportsプロデューサーの犬飼博士氏など,デジタルゲームに関わりの深い人物も,制作に深く関わっているという。

 では,実際に「未来逆算思考」を体験してみよう。


 体験者はまず,「地球温暖化がストップした地球」「エネルギーが豊かな暮らしができる地球」「誰もが健康でいられる地球」など,自分が理想だと思う8つの地球の未来から一つを選び,開始地点にある「未来逆算シート」にスタンプを一つ押す。

 スタンプを押して先に進むと,そこには長さ10m以上にも及ぶ大きなゲーム盤があり,盤面にはこれからの地球がたどるであろう50年の時の流れのイメージが,プロジェクションマッピングによって映し出されている。そこには「欲望」「無知」という2つの「障害」と,「文化」「科学」という2つの「進歩」が待ち受けている。


 体験者は順路に沿って,ゴールとなる50年後の未来側から,スタート地点となる現代まで,時の流れをさかのぼる形で盤面をよく観察し,どこにどんな障害があるのかを覚えておくのだ。

 未来までの時の流れを理解したら,スタート地点にあるタッチパネルから,最初に選んだ地球の未来を選択。次に映し出されるゲーム盤に,これからの地球がたどるべきルートを予測して描いていく。


 ここで面白いのは,タッチパネルのゲーム盤には,時の流れの中にある障害と進歩の場所は一切映っていないということ。さらにゲーム盤は物理的に波打っているために,スタート地点からはすべてを見ることができない。なので,事前に見てきた盤面の様子を思い出しながら予測ルートを描く必要がある。
 ルートを描き終わったら,タッチパネルに映し出された地球を未来へと送り出す。するとそのルートに沿って,自分の名前が表示された地球が時の流れの中を移動していき,ゴールに向かって進んで行く。

 体験者が送り出した地球には,最初に選んだ未来によって所定の数の「資源ポイント」と「文化ポイント」が設定されていて,盤面の障害にぶつかるとそれらがマイナスされ,進歩にぶつかればプラスとなる仕組みだ。


 移動中に資源ポイントと文化ポイントのどちらかが0になってしまうと,選んだ理想は未来へと届かなかったことになってそこで終了。それらが0になる前にゴールにたどり着ければ,理想が未来へ届いたという結果になる。

 そして迎えたゲームの結末によって,ゲーム盤の隣に設置されたモニターに,50年後の子孫からメールが届く。自分が描いたルートによって地球がどんな歴史をたどったのかが表示され,体験者の「未来逆算力」が算出される,というわけだ。

 この「未来逆算思考」は,科学技術の経験と思考を体験できる「展示物」ではあるものの,実際に体験してみると,インタフェースやルールはゲームそのものと感じられた。大がかりな仕掛けやタッチパネルによる操作は,感覚としてはアーケードゲームのエレメカやテーマパークのアトラクションに近い。演出も含めて楽しみながら,バックキャスティングによって,人は理想の未来を迎えるまでにこれから一体何をしたらいいのかを,その結果から感じ取ることができる。

 体験終了後,会場に居合わせたドロッセルマイヤーズの渡辺氏に話を聞いてみた。氏の話によれば,今回のリニューアルでは「ゲーム的手法を用いた展示」を,プロのゲームデザイナーが手がける座組みで企画されたとのこと。


 開発陣はそれを受け「ゲームで何か物事を伝えるためには,面白いほうがより伝わるし,触って面白くなければゲームの意味がない」という信念のもと,とにかく面白さと科学的メッセージの両立を目標に,展示を考案したという。

 また開発当初のバージョンでは,盤面に設置された障害や地球の進歩に細かなパラメータが設けてあり,より複雑なタワーオフェンス型(=いわゆるタワーディフェンスを反転させたようなシステム)のゲームデザインになっていたそうだが,展示としての最適な形を考慮して,それらを思い切って簡略化することで,現在の形にまとめられたという。とはいえ,完成したバージョンでも,ルール自体は分かりやすいが,「安易にゲームクリアの達成感を味わうより,困難から何かを考えるきっかけになってほしい」という意図から,難度は若干高めに設定されているとのことだった。

 このように,本作はあくまで科学展示としてのストイックさも保ちつつも,巨大なゲーム盤の周囲を歩き回って観察するプロセスや,他人のプレイを参考にできる点,また失敗やクリアで一緒に盛り上がる「場の共有感」などは,まさにボードゲームやアーケードゲームと共通する面白さがある。「思考法を展示する」という難しいテーマとゲームデザインがうまく融合した,新しい展示といえるのではないだろうか。

 現在,日本科学未来館では,企画展「GAME ON 〜ゲームってなんでおもしろい?〜」も開催中で,どちらもゲーマーにとっては見逃せない展示といえる。企画展のチケットを購入すれば,今回リニューアルされた常設展も見られるとのことなので,会場に足を運んだ際には,ぜひこちらも体験してみよう。

リンク:日本科学未来館 公式サイト

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