30歳を過ぎると誰でも精子は悪くなる――人ごとではないオトコの不妊治療 | ニコニコニュース

30歳を過ぎると誰でも精子は悪くなる――人ごとではないオトコの不妊治療
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不妊? オトコには関係ない。オンナの問題でしょ…。もし、そんなふうに思っているなら大間違いだ。

今、日本の6組にひと組の夫婦が不妊に悩んでいるという。そして、その原因が男性側にあるケースも実に多い。誰でも30歳を過ぎれば、精子がどんどん“悪く”なるからだ。

男性不妊の種類、治療法、費用など、決して人ごととは思えない、その実態に迫る!

■暗くて深い海の底をさまよっている感覚

まずは、不妊治療体験者の声を紹介しよう。

「結婚して2年、そろそろ子供をと考えていたのですが、なかなかできず…。そんなある日、クリニックに通い始めた妻から『あなたの精子も検査してもらうから』と透明の小さな容器を渡されました。100円ショップで売っているような簡素なものです。

『いやだ』とは言えないし、子供ができないのはひょっとしたら自分のせいかもしれない、という不安も少しあったので、ひとりで隣の部屋に行き、射精しました。精液を容器に入れる際、ちょっと床にコボしてティッシュで拭き取ったのですが、なんとも情けない気分になりました(苦笑)」

そう話すのは栃木県の会社員Aさん(40歳)。今から5年前の話だ。

「検査結果は『精子の運動率が低い』とのこと。いわゆる無精子症ではなかったので喜んだのですが、妻には『ノホホンとしている場合じゃない』と怒られました。そうした数値は体調や健康状態によっても変化すると言われたので、以降は運動不足解消のためにジョギングをしたり、食べ物にも気を使ったりするようになりましたね」

努力が実を結んだのか、程なくしてAさんの妻は自然妊娠。男の子を授かった。

だが、無精子症ではなくとも、うまくいかないケースも当然ある。東京都の会社員Bさん(38歳)も、精液の検査を受け、やはり「精子の運動率が低い」との結果が出た。そして昨年夏、クリニックに通っていた妻との話し合いの末、体外受精にトライ。

「高齢出産はリスクも高くなるし、40歳までにはという危機感がありました。費用は約50万円。高いですが、背に腹は代えられません。クリニックでは個室でAVを見ながら精液を出しました。もちろん、だからといって興奮できるような状況ではありませんが。

体外受精には残念ながら失敗。原因が僕にあるのか、妻にあるのかはわかりません。ただ、今度こそ子供を授かるかもと期待を膨らませてしまっただけに落ち込みました。妻の負担も大きいですし、費用の問題もあり、2度目にはトライしていません。今は自然に任せていますが、正直、あきらめモードですね」

埼玉県の会社員Cさん(38歳)には、現在2歳の女の子がいる。だが、体外受精によってその子を授かるまでに、3つのクリニックに通った。Cさんの場合は、精子の運動率が低いだけでなく、濃度も低く、医師に「自然妊娠はほぼ無理」と宣告されたという。

「ひとつ目の病院には1年半くらい通いました。自宅から近く、費用も比較的安かったのですが、結局、計250万円くらいかかりました。先生はイイ人だったけど、何回体外受精をしても全然ダメ。

ふたつ目の病院は業界で1位2位を争う、大きくて有名なところ。でも、流れ作業で機械的な感じがして、3ヵ月くらいでストップ。費用は50万円くらい。そのタイミングで知人に『いいクリニックがある』と教えてもらったのが最後の3つ目。1回ですぐできました。期間は4ヵ月くらいで90万円程度でしたね」

かかった期間は約2年、費用は合計約390万円である。Cさんはこう振り返る。

「自然妊娠を試みてもうまくいかない時期が長く、妻から『病院に行こう』と言われたわけですが、もし医者に『精子がまったくありません』と言われたらと考えると、最初は怖くてハードルが高かったです。とはいえ、もう自分も若くないし、このまま時間をムダにしていても、と渋々行った感じです。

今にして思うのは、子供を欲しいという気持ちが少しでもあるなら、すぐにでも病院に行くべきということ。だって、妊娠の可能性がないのに“ムダ打ち”しても仕方ないですよ。もっとも、不妊治療はゴールがまったく見えないので、精神的に苦しかったです。

男の僕は病院の個室でAVやエロ本を見て精子を出すだけでしたけど、それでも期間がかかるほど、年齢を重ねるほど確率は下がるし、何かに追われているみたいに焦る。暗くて深い海の底をいつ浮上できるかもわからずにさまよっているような感覚でした」

■適齢期は20代! 以降はリスクが上昇

正確な統計こそないが、冒頭で述べたように現在、日本の夫婦全体の15%、6組にひと組が不妊に悩んでいるといわれる。また、WHO(世界保健機関)によれば、不妊のうち「男性のみに原因」が24%、「男女ともに原因」が24%と、合わせて約5割も男性側に原因があるとされる。

国立成育医療研究センターの不妊療科医長、齊藤英和氏はこう語る。

「精子は睾丸で作られて精管を通り、最後にペニスから出るのですが、その過程でさまざまな病気があります。精液が通る途中で管が詰まる『精管閉鎖』などの輸送障害や、ペニスが勃たない『インポテンツ』や正常な射精が行なえない『射精障害』、そして男性不妊で最も多いのが、精子をつくる力が低下する『造精機能障害』です」

造精機能障害は男性不妊の原因の82.4%を占める。造精機能障害を引き起こす原因は遺伝子異常などの先天的理由もあるが、原因不明のケースも多いだけに厄介だ。

さらに、受精できるかどうかは、精子数や精子の運動率などいわゆる“精子力”がカギとなるが、この精子力は年齢を重ねるごとに下がる。

年齢別に精子を見ると、29歳までは精子運動率の平均が65%なのに対し、30~34歳では62.7%、40~44歳で55.7%と徐々に下がり、精液量も加齢とともに緩やかな減少傾向に。この数字は妊娠率にも影響する。

「男性の年齢別累積妊娠率を見ると、子づくりを始めてから1年後に相手が妊娠している確率は20~39歳で78%、40代で62%、50歳以上で25%となり、男性も年齢が高くなると妊娠させる能力が落ちることが明らか。

また、加齢とともに奇形が増えるなど精子の質も悪くなることも確認されているので、もし妊娠したとしても流産する確率は上昇し、自閉症、多動性障害など生まれてきた子供の先天異常率も高くなります。つまり、男性も年齢を重ねるほど出産や生まれてくる子供へのリスクが増加するということ。男性の妊娠適齢期も女性同様に20代なのです」(齊藤氏)

そうはいっても晩婚化が進む現代、経済的理由などから30代以降に結婚&子づくりをする男女は多い。なんとも悩ましい現状である。

◆後編⇒オトコにも責任がある不妊治療ーー「異常アリ」で治療法、費用etc.の実態に迫る!