ネットで顕著な「パラノイア構造」 共通の敵を作り一致団結 | ニコニコニュース

他人が失墜すると脳の報酬系が活動することが証明されている(写真/アフロ)
NEWSポストセブン

 新聞もテレビも、さかんにニュースを伝えているが、どうも本質が見えてこない。それどころか、いつの間にか主人公が代わってしまったり、議論がズレていったり…。あまりのバッシング報道に、「フェイク(偽)ニュース」との言葉を使った大統領もいたが、日本でもそれは日常だ。

 犯罪心理や心の病の構造を分析し、『他人を平気で振り回す迷惑な人たち』などの多数の著書を持つ精神科医・片田珠美さん(56才)、著書に『ネットのバカ』などを持つ、ネットニュース編集者・中川淳一郎さん(43才)、著書に『そんなバカな! 遺伝子と神について』などがある動物行動学研究家・竹内久美子さん(60才)の3人に、この複雑に絡み合う日々をたくましく乗り越えていくヒントを聞いた。

 この春、日本を揺るがした大スキャンダルといえば、大阪市の学校法人『森友学園』が、13億円以上と目される国有地をタダ同然で入手した問題だ。安倍晋三首相(62才)の妻・昭恵さん(54才)がその土地に新設される小学校の名誉校長だったことから、何らかの政治的圧力や口利きがあったのではと疑われている。

 国会に証人喚問された理事長の籠池泰典氏が、安倍首相から100万円の寄付があった、と証言したことからさらに問題はこじれていった。当事者たちは口をそろえて「記憶にない」と言い、「忖度」という流行語も飛び出した。

 そしていつもは夫・安倍首相が止めようとも、好き勝手に振る舞い、雄弁に語ってきた昭恵さんだが、ぐっと涙をのんで、“風雪”に耐え忍んでいる。

中川:ネット上では、籠池さんとか、昭恵さんとか、誰でもいいんですけど、誰かを代理に立てて、自分の願望をネット上に反映させているというところに気持ち悪さを感じました。

片田:精神医学では、『幻想的願望充足』と呼びます。○○だったらいいのに、という願望を、あたかも事実であるかのように思い込んでしまうわけで、政権支持派も批判派も、いいように使っています。その幻想的願望充足がいちばん強いのが、籠池ファミリーではないでしょうか。

 この一家は、精神医学で『フォリ・ア・ドゥ』と呼ぶ状態だったように見えます。フランス語で、「フォリ」は熱狂、「ドゥ」は数字の「2」を意味し、あやふやなことでも、複数の人間が熱狂的に信じている状態を指します。あの家族の結束が強かったのは、ある信念を共有しており、それを貫くには、共通の敵から自分たちを守らなければと思い込んでいたからです。

 人間が団結するときにいちばんいいのは、共通の敵を作ること。日本では小池百合子東京都知事(64才)がやっていますし、アメリカではトランプ大統領がやってますよね。トランプ大統領はすごいですよ。選挙のときはヒラリーさんで、当選後はメキシコとイスラム。そして今は北朝鮮。

中川:ネットの世界は顕著ですが、一般の世界でも、今って敵か味方かって決めて群れたがるでしょ? 竹内さん、ぼくはもう40才を過ぎて、誰かと群れたいとかもう思わないんですが、なんでみんな、こんなに群れたいんですか?

竹内:私も群れたくないですよ(苦笑)。

片田:これはパラノイア構造というんだけど、敵が自分たちを攻撃してくるかもしれないから、自分たちは団結しなくちゃいけないと。そういう見方しかできなくなってきていますよね。物事は多面的なのに、自分の都合のいい正義を振りかざす。寛容性もなくなり、敵だと認識したら徹底的に相手を打ちのめす。

中川:ツイッターだと匿名ですから、右か左か、極端な意見なんですよね。それでぼくがそこを指摘すると、両者がそろって、ぼくのことを「中立派を気取る冷笑系のバカ」と言われ、双方からたたかれる(笑い)。

 日本人ってなんでも曖昧にしてきて、忖度ではありませんが、なあなあでやってきたのが美徳だったはずなのに、いつの間にか白黒はっきりつけたがるようになりましたよね。もちろんネットの普及がそうした面もあるといえますが。

片田:やっぱり根底には不安と恐怖があるんじゃないですかね。もしかしたら、この人は敵かもしれない。用心しないと、いつ自分が攻撃されるかわからない、だったらこっちから攻撃しかけよう、みたいなね。だからトランプ大統領がメキシコとの国境に壁を作りたいのと同じように、みんな敵か味方に分けて壁を作りたがるんですよ。

竹内:動物行動学的には、敵か味方か分けることは、生命にかかわることですから、すごく大事なことで、群れることについてもそうですが、なぜそういった議論になるかなって思ってしまいました。

 例えばえさを発見したスズメは、それが塊かたまりなのか、バラバラなのかによって仲間を呼ぶかどうかを判断します。塊であり、エサを独り占めできるときには仲間を呼ばず、抜け駆けし、バラバラになっていて独り占めにできないときは、仲間を呼んで防衛要員とするんです。誰とどう群れるかというのは、自分のリスクを減らすための保険とも考えられます。

※女性セブン2017年5月11・18日号