人知及ばぬ波乱の市場、モデル運用のヘッジファンドが2カ月収益19%

「市場を見ていて信じられないことばかり起きており、自分の思った通りにジャッジメンタルにやっていて勝ち続けられるかというと難しい」。ヘッジファンドのGCIアセット・マネジメントでコンピューターモデルを使って運用する山本匡氏はこう話す。予想外の日本銀行のマイナス金利政策などで市場が荒れる中、1-2月で同種ファンド平均を大きく上回る18.7%の収益を上げた。

  山本氏は、「リスク管理が組み込まれたモデルに従いルールで走って行くのが私のスタイル」と言う。買い持ちしていた日本国債先物が、年初の1月に金融市場の混乱でリスク回避の動きから安全資産として買いを集め、2月は日銀のマイナス金利政策で一段と値を上げたのが奏功した。収益率は、システム運用型ファンドの成績を示す指標であるヘッジファンド・リサーチのシステマティック・ダイバーシファイド指数(1ー2月)の5.6%を上回った。

  今年の世界の金融・資本市場は波乱の幕開けとなった。中国経済の減速などを背景に原油価格が下落。世界的に株安となる中、東証株価指数(TOPIX)も年初に急落するとともに、資源国通貨が売られ、円高が進行した。日銀が1月29日にマイナス金利導入を決定すると国債利回りは急低下(価格は上昇)、国債先物は2月に一時152円48銭と過去最高値を付けた。

  同氏によると、同運用モデルはマイナス金利政策を予測していたわけではないが、年初の株価急落が「中央銀行が動かざるを得ない状況を誘発し、モデルとしては日本国債は選好しやすい環境だった」と言う。「株価や為替レートにも上限がないのと同じように、債券価格にも上限を設定せずにモデルを設計していた」とし、市場の想定外の政策発表に伴う債券価格急騰にも対応できたと述べた。月別のリターンは1月が8.67%、2月が9.22%。

ポジション縮小

  昨年は金融政策に変更はなく、国債のボラティリティはゼロに近づき、同ファンドはリスクの低い資産として保有してきた。現在は国債利回りがこれまでの下限と思われていたゼロ%を超えマイナス圏に突入し、「日本国債のボラティリティが生まれリスクが上昇した」とし、徐々にポジションを縮小し「結果的に利食いになっている」という。

  朝日ライフアセットマネジメントの中谷吉宏シニアファンドマネジャーは、国債のボラティリティはファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)ではなく需給によるものと指摘。「売りたい値段で売れるか流動性リスクプレミアムが乗せられている。このリスク自体は、入札か日銀の買い入れオペレーションの結果を見て動く」と話す。

カナダドルでヘッジ

  同ファンドは主要国中心に世界各国の株価指数や債券先物、為替を投資対象としており、その中から一番トレンドが明確で収益が狙える資産を見つけ出す。レバレッジ倍率は2.5倍で、年率リターンは40ー50%、リスクは25%を目指す。現在の運用額は約91億円。2015 年の収益は4月の欧州国債の急落や8ー9月の株価急落が響き0.18%にとどまった。14年2月の運用開始以来からの累積では173%。

  同ファンドでは、ヘッジ手段としてオプションなどコストの掛かる方法は用いず、反対の動きを示すことが多い複数の資産をコンピューターが選択。最終的には15種類程度の資産からなるポートフォリオを構築する。国債先物を買い持ちにする一方、資源国通貨のうち流動性の高いカナダドルを売り持ちにしていたことが奏功した。 

  カナダドルの対米ドル相場は1月に一時、03年以来の1カナダドル=0.68米ドル台まで下落していた。株式ではなくカナダドルを売り持ちした背景については、株式相場は昨年8-9月に急落した後、10月の戻し方が激しかったため、「ショートするのはリスク・リターン的には選びにくい状況だった」と説明。当初は豪ドルを売り持ちにしていたが、底堅かったため、徐々にカナダドルにシフトしたという。

次の一手

  山本氏は、「欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁はマイナス金利を深める可能性をある程度否定したが、日銀もそういう感じになるのかどうか」と話し、日銀がさらにマイナス金利を拡大していくのかが今後の日本国債の動向を見極めるポイントとみている。このコンピューターモデルでは、日本国債が方向感なく、ボラティリティの高い状況が続けばポジションは縮小し、追加緩和する場合にはポジションを維持するという。

  朝日ライフアセットの中谷氏は、マイナス金利について、黒田総裁が理論的に可能と言っているマイナス0.5%をめどに、日銀が少なくともあと2回引き下げると予想。マイナス金利の状態は長くて3年続くと見ている。

  ECBは10日、三つの政策金利全てを過去最低に引き下げ、資産購入額を拡大する追加緩和を発表。ドラギ総裁が記者会見で追加利下げが必要とは考えていないと発言すると、ユーロ参加国の国債は総じて下落した。

  同モデルは、調達コストが運用収益を上回るネガティブキャリーとモメンタム(相場の勢い)の兼ね合いも判断要因としており、「キャリーよりもモメンタムの方が圧倒的に強く出ているのでロングでやっている。その勢いがなくなり、ネガティブキャリーが出てくるとポジションは減ってくる」と説明する。