"謎の"中国企業「ファーウェイ」とは何者なのか—— 存在感強める売上8兆円企業の姿

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ファーウェイが6月9日から発売するフラッグシップモデルの「P10」。

格安スマホと呼ばれる仮想移動体通信事業者(MVNO)の躍進を背景に、SIMフリースマホの市場が急拡大している。中でも大きくシェアを伸ばしているのが、中国企業のファーウェイだ。2017年の1月から5月にかけての日本での販売台数は、前年同期比で88%増(BCN調べ)と大きく成長。大手キャリアのスマホを含む販売ランキングでも、昨年発売したミドルクラスモデル「P9 lite」が上位に顔を出すようになった。

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前年同期比で88%増と、日本での販売台数も上向いている。

同社が6月9日に発売するのが、フラッグシップモデルの「P10」と、その上位モデルである「P10 Plus」だ。昨年は最上位モデルの「P9 Plus」を日本に投入することを見送っていたが、日本市場の拡大を受け、ラインナップを上に広げたという。年間を通じて大ヒットモデルとなったP9 liteの後継機である、P10 liteも発売する。

「安価なSIMフリースマホのメーカー」だけじゃない

スマートフォンを本格展開し始めたのは2014年のことで、大手キャリアの取り扱いは、Wi-Fiルーターやタブレットなどの取り扱いにとどまっている。これらはファーウェイブランドが全面に出ているわけではないため、メーカー名を知らずに同社の製品を持っている人もいるかもしれない。

店頭で目にする機会が増える一方で、まだ一般的には、"謎の企業"と思われている節もあるファーウェイだが、通信業界では同社のことを知らない人はいないほどメジャーな存在だ。元々ファーウェイは、基地局やその背後にあるコアネットワークの開発を行う通信機器ベンダーとして成長してきた。北欧のノキアやエリクソンなどと競合する企業だ。3G、4Gの拡大とともにシェアを伸ばし、今では日本でも、ほとんどのキャリアがファーウェイ製のネットワーク機器を採用している。

2016年度の全世界の総売上高は、8兆7316億円。その55.7%にあたる約4兆8640億円がキャリア向けのネットワーク事業からの売上で、この分野だけでも、前年同期比23.6%の成長を遂げている。背景には高い技術力があり、毎年、売上の10%以上を研究開発に投資する方針も掲げている。特許出願件数でも、同じ中国の通信会社、ZTEと首位争いをしている状況だ。最近では、5Gに向けた研究開発も加速させており、ドコモなど、日本のキャリアとも共同で実験を行っている。

ファーウェイの売上高

ファーウェイの年次レポート。売上高は8兆円を超え、9兆円に迫る。

一方で、誤解を恐れずいえば、端末事業は同社にとって、あくまで"オマケ"といえる存在だった。スマホ全盛期以前の端末は、キャリアのブランドで開発するフィーチャーフォン(いわゆるガラケー)やWi-Fiルーターなどの製品が中心で、まさにネットワーク機器を収めるついでに、OEMとして端末を開発していた。当然、グローバルでのシェアも低く、一般のユーザーがその存在を知ることはほとんどなかった。

この戦略を大きく転換したのが、2013年のこと。同社はスペイン・バルセロナで開催された世界最大の携帯電話関連見本市、Mobile World Congress(モバイル・ワールド・コングレス)に合わせ、フラッグシップモデルの「Ascend P2」を発表すると同時に、ブランド戦略を刷新する方針を明かした。ここから、ファーウェイの躍進が始まる。

2012年には、全世界シェアで2.7%、6位にすぎなかったシェアは年を追うごとに上がっていき、2016年には、アップル、サムスンに次ぐ第3位となった。シェアも8.9%と、2ケタ台が視野に入ってきた(Gartner調べ、2012年は携帯電話のシェア、2016年はスマートフォンのシェア)。

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6月6日発表の「P10/P10 Plus」の前身となる「Ascend P2」は、ファーウェイがスマホメーカーに舵を切り始めたMWC2013の場で初披露された。

豊富な研究開発費を背景に"質"でも評価され始めた

もちろん、単にブランド戦略を変えたことだけが、ファーウェイ躍進の理由ではない。

先に挙げた研究開発はスマートフォンにも及んでおり、上位メーカーに引けを取らない新機能を続々と搭載し続けてきた。サムスンがGalaxy Noteシリーズをヒットさせれば、ファーウェイはMateシリーズを立ち上げるなど、競合他社へなりふり構わず対抗していくのも、同社の特徴だ。

また、欧州にデザインセンターを立ち上げたあとは、端末のデザインや質感も向上した。昨年発売された「P9」では、ライカとカメラを共同開発し、("価格の安さ"ではなく)画質の良さから、一気に名を上げた。戦略的な投資の成功が実を結んでいることは、同社の端末のハイエンド比率が上がっているデータからも読み解ける(注:高価なハイエンド端末を売っていくには、価格に見合った性能だというユーザー認知が必要で、端的にブランド力が求められる)。

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戦略的に、ハイエンドの比率を高めている

かつては、「ファーウェイのハイエンド端末は、出すだけ出すものの、店頭でほとんど見かけない」(業界関係者)という声もあったが、現在では、500ドル以上のハイエンドスマホ市場でも、9.7%のシェアを獲得。ハイエンドが強いマーケットでも、成功を収めつつある。業績面では売上に占める端末事業の比率も高まり、2012年度には20%強だったものが、2016年度には34.5%にまで上昇している。

日本の展開もユニークだ。まだ規模の小さかったSIMフリー市場に目をつけ、海外で好評を博した端末を地味に投入し続けてきた。この成果が昨年あたりから実りはじめ、6月にはP10 Plus、P10、P10 liteの3機種を同時に発売するに至っている。

もっとも、SIMフリー端末市場は成長市場とはいえ、全体を見ると、まだまだ大手キャリアの占めるシェアは高い。ファーウェイとしての販売台数は伸びているものの、大手キャリアへのスマホ納入実績が乏しいため、全体でのシェアではまだ下位に甘んじている状況だ。日本での展開を加速させるためには、SIMフリーで培ったブランド力を生かし、大手キャリアへの参入も必要になってくるだろう。


石野純也:ケータイジャーナリスト。出版社の雑誌編集部勤務を経て独立後、フリーランスジャーナリストとして執筆活動を行う。国内外のスマートフォン事情に精通している。

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