ついにVRに舵を切ったApple。その背景には何がある?

ついにVRに舵を切ったApple、その背景に何があるのか
Image: Alex Cranz/Gizmodo

Apple(アップル)成長の原動力に回帰?

先日のWWDCでは、iOS 11からHomePodまで、ソフト&ハードのいろんな発表がありました。でも今回最大のニュースは、意外なところにあります。それは特定のソフトウェアとかハードウェアとかではなく、「Apple製品を使ってできること」として押し出されていた、バーチャルリアリティ(VR)です。ティム・クックCEOは以前「VRよりAR推し」を公言していましたが、裏ではひそかにVRに踏み込みつつあったんですね。

2016年10月の時点で、クック氏はこう言っていました。

「VRには興味深い応用先がありますが、それはARほど幅広いベースをもったテクノロジーではないと思います」

クック氏のAR重視の姿勢は、既存のiOSデバイスでARを実現するための開発プラットフォーム「ARKit」という形で発表されました。

VRに関しても、WWDCのキーノートではあちこちにちりばめられていました。たとえばmacOSでSteamVRが使える(つまりHTC ViveがMacで使えるようになる)ことや、「外付けグラフィックス開発キット」(Sonnet製の外付けボックスをThunderbolt 3ポートにつないでグラフィックス処理性能を向上させるセッティング)もそうですし、iMacやiMac ProのVR対応も発表されました。

察するに、AppleはこれまでiPhoneユーザーに注力するあまりおろそかになっていたクリエイティブな仕事の人たちへのケアに再び注力し始めているんでしょうか? Appleは今年3月、Matthew PanzarinoらAppleウォッチャーの記者5人だけを厳選して開いた説明会の中で、Mac Proのアップデートの遅れを説明するとともに、彼らが「プロ」と呼ぶグラフィックスデザイナーやプログラマーといったユーザーへの対応が不十分であることを自ら認めていました。

でも競合他社は、Appleの動きを待ってはくれません。2016年、マイクロソフトはSurface Studioをローンチし、Appleの牙城を切り崩しにかかってきました。その巨大なワークステーションはあまりに魅力的で、敬虔なApple信徒までが心を奪われるほどです。Surface Studioはそこまでパワフルではないのですが、柔軟性が高く、いろいろなポジションで使えます。そしてあのSurface Dial、スクリーン上でもスクリーン外でも使えて、アプリの設定を素早く調整できる小さなアクセサリは、クリエイターにまったく新しい「手」を与えたかのようでした。

またVRコンテンツの多くを占めるゲームに関しては、WindowsのみでMac向けには開発されないものが多くなっていました。たとえばOculus RiftもMacには非対応で、同社の創業者パルマー・ラッキー氏は2016年のShacknewsのインタビューで「Appleが良いコンピュータを出したら対応する」と説明していました。

Appleの新製品はすべて、そんなMicrosoftの攻勢をしのぐためのようにも見えます。Surface Studioがデザインにフォーカスしてきたのに対し、AppleはiMac Proに18コアのXeonプロセッサとAMDの次世代GPU・Vegaを搭載し、パワーを強調してきました。

AppleがVRに力を入れていることは、キーノートの後、さらにはっきりしました。WWDCに集まった記者たちが暗いデモルームに詰め込まれると、そのスペースの多くは今回発表されたVRがらみのクールな技術に占められていたのです。あ、そこにはもちろん、動かないHomePodもありましたが。

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HomePodはもちろん注目されてましたが…

「これはプロ向けです」。Appleの説明係の人はそう言って、HTC Viveのヘッドセットを装着させてくれました。HTC Vive上では、キーノートに出てきたのとほぼ同じダース・ベイダーのデモが見られました。このデモの目的は、説明係の人によれば、VRがmacOS High Sierraと5K iMacのような現行のAppleのハードウェアでもスムースに動くんですよ、と示すことにありました。

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HTC Viveで360度動画を見るWWDC参加者

デモルームでは現行iMacでVRを体験するコーナーに長い列ができていましたが、別の長いテーブルの上には、MacBook Proに外付けGPUボックスをつないだものが並んでいました。それは、Appleが今回発表した「外付けグラフィックス開発キット」のデモです。説明係の人によれば、Sonnetのものに限らずThunderbolg 3経由でつながる外付けGPUならすべて、macOSで(理論上は)使えるはずとのことです。

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Sonnetのボックス、AMD Radeon RX 580 8GBビデオカード搭載

外付けGPUは特に新しいものではなく、ゲーマーの間ではAlienwareのGraphics AmplifierとかRazerのCoreといったものがよく知られています。ゲーム専用マシンを作っているAlienwareとかRazerにとっては、外付けGPUとはある意味大いなる妥協です。でもユーザーにとっては、これを家に置いておけば、外では軽くてバッテリーも十分なラップトップが、家ではデスクトップマシンのようなパワーを持ちうるんです。それはVRファンやゲーマーだけでなく、グラフィックス性能はいくらでも欲しい「プロ」の人にとっても魅力的なオプションです。

AppleがVRに舵を切ったように見えるのは、ひょっとしたら今までWindowsに流れ切っていたゲーマー取り込みを狙ったものなのかもしれません。でもここまでの流れから考えると、コンテンツを使う人というよりは作る人たち、つまりAppleを今の地位に導いたクリエイターたちを無視し続けるわけにはいかないという危機感があるように見えます。

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Source: Apple, Techcrunch, Shacknews

Alex Cranz - Gizmodo US[原文
(福田ミホ)