だれも怖くて書けないんですが……。
ゴールデンウィークはApple Watchをいじり倒して遊びまくった、そんなギズモード読者も少なくないことでしょう。やっぱりApple Watchには大満足ですか? それとも早くも失望気味でしょうか?
米Gizmodo編集部のAnnalee Newitz記者は、早くもApple Watchの次にやってくる世界について、興味深いコラムを執筆しています。長く世界をけん引してきた情報通信革命の時代の終焉。その後に幕を開けるインフラの時代とは?
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あまり声を大にしては言えないことなのかもしれません。でも、正直にわたしは書いてみたいですね。Apple Watchは失敗作ですよ。別にApple Watchに限った話ではありません。そもそもスマートウォッチというものに無理があるんでしょうね。
Apple Watchの発売前から、すでにわたしは「Moto 360」のユーザーでした。そう、あの丸い文字盤が美しいデザインのAndroid Wearプラットフォームのスマートウォッチです。でもね、気に入ったのはデザインだけというのが正直な感想でしょうか。使えば使うほど腹立たしく、ストレスに感じることが多すぎですよ~。
これはガジェットそのものの問題ではありません。Apple WatchもMoto 360も、どちらも悪くなんかないんです。問題の核心は、もはやコンシューマーテクノロジーの未来は、情報通信デバイスからはやってこないということにあると感じています。むしろ、これからは本当に革新的なものはインフラの分野から生まれることになるでしょう。
テスラモーターズが新たなバッテリーのラインナップを発表したときに垣間見えた未来……。それはApple Watchによっても、マイクロソフトが仮想現実(VR)体験の切り札として披露してみせた「HoloLens」によっても味わえなかった、感動を誘う革新的な発表となりました。
ちょっと考えてみてください。情報通信技術で感動できた時代は、もう終わりを迎えたという現実のことを。すでにこの分野は円熟期に達してしまったのですね。新しいスマートフォンが発表されても、せいぜいカメラの性能が向上したことくらいしかアピールされません。あるいは、よくて特別なアプリの実装くらいかな? ホログラムによるVR体験だって、それはそれですばらしいことかもしれません。でも、これって本当に革新的な新発表?
いまの情報通信ガジェットの新発表は、古くは1980年代の昔に志された未来のものごとが、形ある現実として身のまわりで目にするようになったに過ぎません。だから、新しい発表のはずが、すでにどこかであったものが、ちょと形を変えて世に出てきたというレベルの感動でしかないのでしょうね。情報通信革命がコンシューマーエレクトロニクス市場へ大きな変化をもたらした時代は、すでに過去のものになろうとしているようです。
代わって、これからはインフラガジェットの時代を迎えるのでしょうね。このほどテスラモーターズが発表した、一般家庭向けの「Powerwall」バッテリーは、その好例です。そもそもインフラに一般人が触れることなど、あってはならないというのが現在までの常識だったかもしれません。インフラというのは、政府や公共機関が管理するものです。ごく一般的なユーザーがどうこうする分野ではないという風潮が普通ですよね?
ところが、自由自在に築けるインフラが一般家庭にまでやってこようとしているのです。今回のテスラモーターズの発表は、ただ新しいソーラーパワーの紹介ととらえるべきものではないでしょう。すぐにみんなが購入に走るわけではないかもしれません。でも、これから20年以内に、ガジェットの最先端はPowerwallのようなデバイスで占められるようになるでしょう。
いまスマートフォンやタブレット、パソコンなどのガジェットは、どれだけのメモリを搭載し、どれだけストレージ容量があるかを競い合い、そのスペックで優劣が決められていっています。しかしながら、今後のインフラガジェットは、どれくらいのkWhの電力を有するかで競われる時代となるのでしょうね。
ただし、インフラ時代を迎えるからといって、これまでの情報通信時代をけん引してきたコンピューターやモバイルデバイスと別れを告げるという意味ではありません。エネルギー効率こそが、インフラ時代のカギを握るのは事実でしょう。とはいえ、インフラ時代の核となるのは、あらゆるデバイスがインターネットでつながっていくIoTという基本形なのです。
どちらかというと、わたしたちは、情報通信時代には、現実よりも非現実の世界へと多大に注目してきたように思えます。マインクラフトで築かれるバーチャルワールドに夢を膨らませつつ、家々やトンネルを作ってきましたよね。ところが、これから迎えるインフラ時代の最盛期には、スマートハウスをコントロールし、本物の自動車をスマートフォンから運転し、おまけに自分の身体までコンピューターで管理するようになってくるでしょう。
情報スーパーハイウェイと名づけられたものが、現実世界のハイウェイを走る自動車をコントロールする時代。インターネットがパソコンやスマホ、タブレットの画面のなかの世界にとどまらず、洗濯機から台所の家電製品、スマートホーム、さらには自らのボディにまでつながっていくインフラ時代。ウェアラブルデバイスは、この新たなインフラ時代へのゲートウェイにあるインターフェースなのでしょう。
情報通信時代のけん引役を担ってきたのは、マイクロソフトやグーグル、アップルといったIT企業でした。でも、インフラ時代をけん引するのは、テスラモーターズに代表される、現実の世界に注力した製品メーカーです。
サイバーなスペースで、いかに未来を切り開けるか? これが情報通信時代のホットな話題でしたよね。ところが、インフラ時代には、サイバーなスペースを飛び出して、本物のスペース(宇宙)がフロンティアとなってきますね。SpaceXが目指しているのは、バーチャルでもサイバーでもなく、文字通りの宇宙空間における新開拓史なのです!
最後にインフラ時代の発展を阻む、死角となり得る危険にも触れておきましょう。物理的な世界がサイバーな世界と密接につながればつながるほど、その脆弱性から引き起こされる問題の危険性も高まっていきますよ。わかりやすい例をあげてみましょう。
情報通信時代にスマートフォンを盗まれてしまうと、そのなかに詰まった数々の重要なデータまで失って悪用される危険がありますよね。でも、インフラ時代には、スマホを盗まれただけで、そのままつながっている車まで同時に盗まれてしまう危険が現実のものとなるでしょう。あるいは、簡単にスマートハウスへ侵入され、物理的な被害は増大してしまうのです……。
家や自動車、おまけに宇宙空間にまでつながり広がっていくインフラ時代。バッテリーというインフラをユーザーが自由に操れる時代には、もちろん危険もあるものの、そこからもたらされる恩恵も計り知れないものがあります。インフラ時代の発展で、地球外の宇宙空間が、もっともっと身近になれば、人類の生活スタイルにまで新たな転機が訪れるのでしょうね。
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いかがでしたか? パソコンからモバイルへ、そしてとうとう腕に輝くスマートウォッチまで発展をたどってきたものの、そろそろ情報通信革命は成熟期に達して完結へ~。意外と当たっているのかもしれませんよね。個人的には昔にSecond Life(セカンドライフ)が一世を風靡して、バーチャルな世界にこそ未来があるって盛り上がった時代を思い出しました。でも、あの盛り上がりは、いまどこへ行ってしまったのだろう?
そう考えると、本当におもしろいのは、バーチャルではなくリアルな世界の発展なのかもしれませんね。どんどんとインフラがパーソナルに進化して開ける未来。インフラに大きな問題を抱える発展途上国におよぶメリットも含めて、インフラ時代の成果には期待したいところです。この分野でまだ見ぬ革新的な発明が続いて、数十年後は社会が想像もできなかったような方向へと変わっていくのでしょうか。
Annalee Newitz - Gizmodo US[原文]
(湯木進悟)