「福岡移住計画ラジオ」DJの市來孝人です。以前、「行政とクリエイターが福岡を盛り上げる。移住者が街を大好きになる理由。」でもご紹介した通り、福岡市は移住・移転支援が盛んな都市です。
福岡市には「ぼくらの福岡クリエイティブキャンプ」という、2カ月間の給与を福岡市が負担した上で福岡のクリエイティブ企業で「トライアルワーク」として働いてみることが出来る取り組み(H26年度で終了)や、一定の要件を満たした企業へのオフィス家賃補助などの取り組みがあります。
去る3月1日、「ぼくらの福岡クリエイティブキャンプ」活動の一環として、「福岡市主催・福岡クリエイティブキャンプ・プレゼンツ 地方移住クリエイターサミット2015 in TOKYO」が行われました。メインコンテンツは、経済ジャーナリスト木暮太一氏によるキーセッション「地方でいきる・はたらく・つくるということ」のほか、福岡市が実践してきた「ぼくらの福岡クリエイティブキャンプ」活動報告会と、北海道から沖縄まで全国各地で活躍するクリエイターによるトークセッションの3本立て。
今回は、福岡市の「ぼくらの福岡クリエイティブキャンプ」活動報告会で語られた、実施の狙いや実際の参加者による体験談と、全国のクリエイターによる各地方への移住経験談をレポートします。福岡そして全国の移住経験者の言葉から、「移住」に向けたヒントがもらえるはずです。
まずは開演に先立ち福岡市・髙島宗一郎市長からのビデオメッセージが流されました。髙島市長は福岡の良さ・福岡だからこそできることについてこう語ります。
高島市長:福岡市は、メガシティの東京とはひと味違う"住みやすい街"です。この住みやすい街で、クリエイティブな活動をどんどん盛り上げてほしいというメッセージを発信し、積極的に支援を行ってきました。たとえば、福岡市が国家戦略特区になったことで道路の使用規制が緩和され、商店街でのDJイベントも実現しました。その他には市役所の庁舎でのプロジェクションマッピングなど、街中がコンテンツで溢れている・楽しんでいる街です。東京などのメガシティでは行政の敷居が高かったりもしますが、福岡は産学官の距離が近く、顔が見える中で色んなことをみんな一緒になってチャレンジ出来るという環境です。
また、福岡市が全国のクリエイターを集めてイベントを開催した狙いは、地方同士の横のつながりを作り、発信していくことで、地方発で日本を盛り上げていきたいという思いがあるようです。
高島市長:福岡には福岡の良いところがありますけれども、それぞれの土地に良いところがある。今日はその土地に誇りとプライドを持ち、魅力を発信するクリエイターの皆さんが勢揃いしていますので、クリエイターのお話を聞いて、参加者の皆さんが『自分のクリエイティビティがそそられるのはこの街だ』というところに行って、ぜひその土地で皆さんの才能を発揮して、みんなで日本をクリエイティブに盛り上げていければという風に思っております。では今日1日、楽しんで下さい。
そんな福岡市で、企業の誘致や「ぼくらの福岡クリエイティブキャンプ」などの移住支援に携わっているのが、経済観光文化局 新産業・立地推進部 企業誘致課 山下龍二郎さん。山下さんによって「ぼくらの福岡クリエイティブキャンプ」実施の狙いが語られました(下記は2014年の活動報告となります。2015年度の活動での一部変更可能性はあり。2014年度の声としてご参考頂けますと幸いです)。
山下さん:福岡市は人口約150万人という都市ですが、日本が人口減少の局面にある今でも毎年1万数千人程度増え続けている、まだまだ成長過程にある街です。おかげさまで新たに福岡に拠点を構える企業様も非常に増えており、過去3年間をその前の3年間と比べると、約2倍に増えています。そんな中なぜ「ぼくらの福岡クリエイティブキャンプ」を実施しているかというと、福岡に、企業様にも集まってもらいたい、働く人にも集まってもらいたい、その先には地方で働く人を多くして日本全体を活性化していきたいという思いがあります。一方で、ちょうど一年前説明会のようなイベントを実施したのですが、その時にアンケートを取ってみると「実際に仕事はあるのか」「収入はどうなるのか」というところが不安な点としてよく挙げられていました。それらの不安をクリアにするより実践的な取り組みとして、2ヶ月間、福岡市内のコンテンツ、ウェブ、ゲーム、映像、アニメなどのクリエイティブ企業でOJTとして働いていただくという取り組みを始めることにしました。
2014年の場合は、コンテンツ・ウェブ・ゲーム・映像・アニメーション等、36社の企業が参画。70名弱でのエントリーした方を一人一人面接し企業とのマッチングを実施。男女比は7:3で、約半数が関東圏からの応募、世代はある程度社会人としての実績・経験を積み「これからどうしていこうか」と考えるタイミングといえる30代前後の方が中心。その後実際に福岡の企業で働くことになったのは15名、男女比は女性が半分超となったそうです。
福岡市・山下龍二郎さんによる「ぼくらの福岡クリエイティブキャンプ」活動報告プレゼンテーション。 Photo by 五味茂雄(STRO!ROBO)
また実際にこの制度を活用した15名の方のうちの1人、福岡に拠点を置くウェブ制作会社・ブランコ株式会社で2カ月間働いた時田真理子さんによる体験談も、活動報告会の中で紹介されました。
時田さんは、元々は東京生まれ東京育ち。震災をきっかけに暮らし方・働き方を見直したいなと思っている中で、福岡が「一番楽しそうな街」だなという直感があり、福岡への移住を決意。東京で元々はグラフィックデザインに携わり、ブランコにもウェブデザイナーとして採用となりましたが、小さいお子さんが2人いるという環境にも配慮してもらい、福岡での仕事をスタートすることができたそうです。
時田さん:移住先での生活のポイントとして、子供のために自分を犠牲にするという気持ちはなく、働く時間も内容もこだわりたい。一方で子供たちにも良い環境を選んであげたいと思っていました。ブランコはウェブデザイナー職を募集していたのですが、子どものことを考えると残業は難しかったので柔軟に配慮してもらい、(残業のない)広報職で働けることとなりました。お休みの日も、子どもと一緒に「今日どこ行こうか」と考えた時に、車を走らせればすぐにいちご狩りに行けたり、芥屋海岸というきれいな海岸に行けたりといった環境も魅力的で、子ども達もとても満足してくれています。
「ぼくらの福岡クリエイティブキャンプ」での体験を振り返る時田さん。Photo by 五味茂雄(STRO!ROBO)
時田さん:選考も堅苦しいものではなく、お互いに気になる所や疑問点を質問し合っていくようなものでした。業務としては広報として自社サイトやSNSの運営、求人情報の作成などを行ってきたのですが、ありがたいことに、2カ月の(クリエイティブキャンプを活用した)期間終了後も、会社の方で正式に採用してもらえることになりました。
クリエイティブキャンプ参加中は、地元の不動産の方による福岡についてのレクチャーがあったり、参加者同士が交流を持てる場が用意されたりと、様々なフォロー体制があったとのこと。その意図について福岡市の山下さんはこのように語ります。
山下さん:2カ月で終わるのではなく、そのあとも居心地良く住んで頂こう、働いていただこうというのが本当の目的です。なので、出来るだけ2カ月の期間中に福岡での生活や働き方に対する疑問や不安を少しでも減らせればと思いました。福岡市ももっと成長していきたい都市なので、企業や参加者の皆さんと一緒に盛り上げていけたらと思っています。
そして後半は、北海道から沖縄まで全国各地で活躍するクリエイターによるトークセッションが実施されました。まずはトークセッションに先立ち、経済ジャーナリスト・木暮太一さんによるキーセッションが行われました。
参加者を巻き込みながらのキーセッションで会場を盛り上げた木暮太一さん。 Photo by 五味茂雄(STRO!ROBO)
木暮さんから、働く場所を探すにあたり一つの基準として提案されたのが「自己内利益」というものです。
木暮さん:企業経営で考えると、売り上げを立てる為にはコストがかかりますよね。そのコストを引いたものが利益になるわけですが、その利益を追求することが企業の目的です。ただこれを個人に置き換えた時に「自分の中でどれだけの利益が残っているか」という視点で考える人はあまりおらず、収入だけに目を向けがちです。その収入に対してどのくらい労力や生活費、ストレスがかかるかどうかを考えていないんですね。だから「東京ならば仕事がある、稼げる」と固執してしまうのです。大事なのは収入の額面ではなく、その額を稼ぎながらどれだけ生活を充実させられるか。その差額が自己内利益となる、という考え方です。」
トークセッションに登場した各地方のクリエイター。左から川村さん(札幌)、古山さん(石巻)、貞末さん(鎌倉)、團さん(徳島)、カズさん(福岡)、村元さん(沖縄)。Photo by 五味茂雄(STRO!ROBO)
木暮さんの語る「自己内利益」は、今後、場所を問わず働いていく際に必要な考え方となるのではないでしょうか。続いての、各地方の移住クリエイターによるトークセッションでは各地方の良い点・課題点が率直に語られ、様々な場所への「移住」の選択肢を知ることができました。
札幌から登壇したのは、東京から札幌へUターンしシェアハウスを運営する「MASSIVE SAPPORO」川村健治さん。東京で働いていた頃と、札幌で働く今について、キーセッションで挙がった「自己内利益」という観点からの感想が。
川村さん:札幌は新卒の初任給の相場では14万円程度ではないでしょうか。私も現在は東京で働いていた頃と比べると年収という面では1/5、1/6くらいになりましたが、今は人生で最も豊かな日々を送っています。東京では100の幸せを得るのに150〜200くらいの労力を使ったりしますが、今は100を得るのに5〜10の労力と感じています。
川村さんはUターンして札幌に移住しようと思った際、現地の人脈が高校時代までの友人数人という状況だったものの、Twitterで「札幌でこんなことをしたい」とつぶやいたら反応があり、どんどん人脈が増えていったそうです。札幌という街については「雪との戦いですがすぐ慣れます。ただ四季が豊かなので、クリエイティブな仕事には向いていると思います」と特徴を語っていただきました。
地元・石巻にUターンし、「震災10年後の2021年までに、石巻にIT技術者を1000人育成する」ことをコンセプトに小学生〜大学生向けにプログラミング教育を行う「イトナブ石巻」代表理事の古山隆幸さん。元々は石巻が「大嫌いで、石巻から逃げて東京に来た」という古山さんですが、東京で様々な面白い人に出会い触発を受け、単純なカリキュラム教育ではない、石巻で面白い大人に出会うことの出来る場所を作っていきたいと「イトナブ石巻」を立ち上げました。
古山さん:石巻も新卒の給与相場であれば14万程度ではないでしょうか。東京と比べると相場は下がりますし、過去にはクリエイティブな環境もなかったのですが、震災以来様々な方に注目頂いておりクリエイティブな様々な仕事が増えています。何もない町ですがその分仕事を小さく始めて発信していくことができ、チャレンジしやすい場所ではあるかと思います。また行政の会議にも参加させて頂いたりと、これからの地域だからこそ仕事の広がりがある、作りやすさがあると感じます。
石巻は、過去と比べると様々な仕事が増えている分、仕事や活動の機会を求めて他の地方から来た人がふらっと入れる拠点がいくつかあるそう。初めてでもふらっと顔を出して「こういうことをやりたい」と話をすると、興味を持ってくれる人がいてネットワークが一気に広がると教えてくれました。
福岡に移住し子ども向けフォトスタジオ「Acestudio」などを運営する貞末真吾さんは地元が鎌倉ということもあり、鎌倉のIT企業が中心となりITの力で街を変えていく活動「カマコンバレー」にも参画。東京に近い移住地・鎌倉の事情を語ってくれました。
「カマコンバレー」は、「この街を愛する人を、ITで全力支援!」というコンセプトを掲げる団体。月に1回定例会をして、そこでは毎回5人ほどのメンバーが活動したい内容をプレゼンテーションし(つまり年間60人程度)、うち10個程度が実際にプロジェクト化されているとのことです。例えば、これまでに最も賛同されたプロジェクトは「鎌倉の落書きを消す人を応援しよう」というもの。
貞末さん:東京や横浜で働いている人が多いので、収入の相場も東京とあまり変わらないのではないでしょうか。東京と距離がある分、通勤に時間がかかったり、飲み会のスタートも10時や11時はザラだったりします。ただ、豊かな自然があったり、地域のためにがんばりたいという強い想いを持つ方がたくさnいることが特徴です。
東京の仕事をそのままに移住できるという点では、最も「移住」するにあたっての心理的ハードルは低いと言えるでしょう。
名刺管理サービスを運営する「Sansan」の團洋一さんは徳島・神山町のオフィスに勤務。東京の本社とはリモートで仕事を行っており、東京と合わせた時間軸での仕事が中心です。徳島は元々地元で、東京での生活にも「正直どっと疲れていまして、そろそろ子供もほしいなと思っていたんですが、その時に自分が育ったような田舎が良いな」と思い、退職願も出したものの、異動のオファーを受け徳島へ転勤。東京と徳島、遠隔での仕事はどのように進めているのでしょうか。
團さん:出社時間はもちろん同じです。仕事を終える時間も東京の様子を見計らったりとか(笑)。費用の面では家賃がとても安くなった分、車移動が増えガソリン代は結構かかるようになりました。ただ通勤が楽な分、川沿いの通勤の景色をゆっくり眺めたり、朝早めにいって会社が持つ畑をメンテナンスしたりといった余裕はあります。」
東京と同じ時間軸で働きながらも、自然豊かな環境を満喫している團さん。空気と水の綺麗さがお気に入りだそうです。
東京での生活も長く、現在も仕事で東京と行ったり来たりすることも多い、福岡でスマートフォンアプリの開発を行う「ウミーベ」代表取締役CEOのカズワタベさん。カズさんが見る東京の福岡の働き方の違いとはどのようなものでしょうか。
カズさん:給与相場は福岡では東京の8割程度ではないでしょうか。平均でいうと地方都市の中では良い方だと思います。また支店経済と言われ、本社採用を経て福岡に勤務している方が多いです。そうすると給与手当は東京水準なのでかなり良い生活ができると思います。平均的な労働時間は東京より少し短めだと思いますが、それ以上にコンパクトな街なので移動時間が短縮されてストレスが減りますね。
カズさんは移住する前、福岡はもちろん西日本に住むのも初めてでした。そんな中でまず行ったのは数人いた知り合いの伝を頼りに最初の3カ月「週に10回」くらい飲むこと。街がすごくコンパクトであるため、突然呼ばれても来られない人がほとんどおらず、「土地柄なのか、福岡は美味しいお店と面白い人はやたら紹介したがってくれる」こともあり、飲みの場でどんどん現地の人脈が広がったという体験談を語ってくれました。今では他の土地に住めなくなりそうと思うほど福岡を気に入っているそうです。
東京に本社があり、沖縄にも事務所を構え、アジアへの拠点展開も広げているクリエイティブカンパニー「ラソナ」の代表取締役 村元啓介さん。多様な人材を採用し多様な生き方を実践することを目指し、その中で沖縄をアジアと日本の架け橋としての拠点として位置づけています。
村元さん:沖縄も給与水準は札幌や石巻と同様、東京よりは下がります。ただオフィスを出たらすぐに南国。オンとオフの切り替えも出来、幸せに働けるのではないでしょうか。沖縄は弊社以外にもアジア、特にベトナムにも拠点を置いているというIT企業が多いです。
東京、沖縄、アジアと様々なエリアに拠点を構えている「ラソナ」は「世界同一幸せ度」として、どの拠点も同じ額の給与とするのではなく、その土地の生活水準を踏まえ同一の満足度を感じられるという点で給与を決めているという、木暮さんによる「自己内利益」にも通ずるお話もありました。沖縄に拠点を置くIT企業同士は横のつながりが強く、集まる機会も多く「興味があれば、紹介することも可能です」と村元さん。南国への旅行も兼ね、企業訪問をしてみるのはいかがでしょうかとの提案がありました。
このようにクリエイターの皆さんから、その土地の特徴や、移住先で仕事を作っていく経験談が紹介されました。さらにクロストークの後は、各地域のクリエイターと参加者がお酒を交えながら直接交流するなど盛り上がりを見せました。
特別ゲストとして登場した経済ジャーナリスト木暮太一さんも、クリエイターへ疑問をぶつける。Photo by五味茂雄(STRO!ROBO)
そして「ぼくらの福岡クリエイティブキャンプ」Facebookページによると「具体的なプロジェクトの内容は、夏ごろ発表できる予定」と、いよいよ2015年度の実施に向けて動き出したようです。
「地方創生」が叫ばれる中、これからも「移住」というトピックは話題になることは多いと思います。今回のイベント内でも語られた通り、移住するというハードルを越えれば、様々な方がサポートしてくれるものです。福岡でも、このトークセッションに福岡代表として登壇したカズワタベさんが代表を務める「ウミーベ」も入居するコワーキングスペース「SALT」が4月に立ち上がるなど、民間での動きも引き続き活発に行われています。ここは福岡市西区・今宿というエリアにあり、海が目の前に見え、かつ市街中心部から30分程度という"福岡だからこそ可能な"素晴らしい環境なのです。この「SALT」オープニングパーティーでも福岡以外のエリアから来場したという方も、やはり見受けられました。
「SALT」オープニングパーティーの模様
それぞれの魅力を持つ様々な土地に、交流や仕事が生まれる場所が生まれている中、どんなところに住み、どんな仕事をしていくか、考えていくことが豊かな生活に繋がるのではないでしょうか。福岡と各都市の動きにこれからも注目し、ご紹介できればと思っています。
(文/市來孝人 写真/五味茂雄(STRO!ROBO))