理論、技術、システムなど、新しいものが次々と生まれる現代社会においては、さまざまなシーンで「上達」を強いられるもの。そして上達のポイントは、「発想、仕掛け、やり方」。それが、『300人の達人研究からわかった 上達の原則』(北村勝朗著、CCCメディアハウス)の著者の主張です。
東北大学教授であり、「才能」について研究してきたという人物。15年以上に渡るその研究からは、次のような結論が導き出されたといいます。
(「はじめに」より)
- 上達を目指すうえで、素質やセンス以上に重要な要素がある。
- それは上達のコツを知って、それを身につけることである。
- 指導者や親、上司など周囲を巻き込むことが上達の早道である。
- 上達の方法は一つではない。多様な状況に対応して柔軟に考える。
そして、学ぶコツさえわかれば、おおよそのことはマスターできるのだとか。また、上達のキーワードは「わくわくする」こと。「やる気スイッチ」を入れて、「できる」という自信を持ち、質の高い練習ができる状況をつくり、自分を外側から見る客観性を持つことが大切だといいます。
しかし、わかってはいても、上達に至るまでの過程においてはさまざまな疑問や悩みにぶつかるものでもあります。そこできょうは、特別編「上達Q&A あなたの疑問にズバリ回答!」から、数々の疑問への回答をご紹介したいと思います。
上達や才能をテーマにした講演やセミナーの講師を何度となく努めてきたという著者は、「がんばれること自体が、普通の人が持っていない特別な才能なのではないか?」とよく質問されるのだそうです。しかし、それは迷信にすぎないと考えているのだともいいます。なぜなら「がんばれる」ことは、個人の性格的な問題というよりも、その人の心理的状況や置かれている環境がかなり影響しているものだから。
そして「がんばる」という行動は、いくつかの要素に分けられるのだと主張しています。具体的には、
- なにかに向かって打ち込むという「方向性」
- 打ち込む度合いの「強さ」
- それを「継続する力」
「方向性」は、目標とその達成手段が明確であること。「強さ」は、がんばろうとすることがらや、がんばること自体に意味や価値を見いだすこと。「継続する力」は、やれそうな見通しや達成感が得られること。それぞれの要素に、心理的な意味が存在するそうです。
アメリカの心理学者、エリクソンらによる『熟達化理論』によれば、才能の開花のためには質の高い学習を1万時間蓄積することが必要。つまり、がんばり続けることが絶対条件となるわけです。そのためには、「目標が明確であること」「練習の意味を理解していること」などの条件が欠かせないということ。
ただし、これらに加え、がんばったという達成感やほめられたときの有能感、よい仲間やライバル、保護者などの存在も大きな力になるといいます。つまり、ひとことで「がんばる」といっても、さまざまな要素が関わってくるということ。個人のパーソナリティーだけに焦点を当てて、「がんばる」「がんばらない」と考えるのは間違っていると著者は主張しています。
(177ページより)
「やる気スイッチ」が切れた際の対策としては、次のようなことが考えられるそうです。
1. 普段の練習から「ミスや失点は悪いことだ」という考えを変えるよう努める
具体的には、「あ~あ」といった表情やしぐさをせず、「OK、じゃあどうしたら成功できるだろう」と考える。ポジティブな行動や考え方をすることが、過去の失敗やミスではなく、「この先にどうするか」という問題解決に意識を向けることになるということ。これが習慣化されれば、やる気スイッチが入ったままになるそうです。
2. 自分の強みや得意技を持てるように練習する
いざというチャンスやピンチの際、頼れる武器が自分にあると自信が持てるもの。そうなると、やる気スイッチは簡単に切れなくなるといいます。また、周囲からの信頼や期待、強力なサポートといった支援的な環境も武器になるそうです。
3. 土壇場での失点やミスの場面を想定した練習をする
具体的なシチュエーションを想定して練習するということで、ビジネスでいえば、不利な状況での交渉などを具体的に想定するということ。そうすれば、「このような状況を練習してきたから大丈夫」と、実際の場面でも思えるようになり、やる気スイッチがより強く働くわけです。
(179ページより)
上達する過程では、「心理的な強さ」としてのメンタルタフネスが求められます。そしてその強化策には、次のようなものがあるといいます。
1. 不安、あがり
不安を感じる原因を特定し、それを取り除く練習をする。と同時に、「自分はできる」という自信を高める考え方や行動を繰り返す練習をする。ミスや失点を成長のチャンスだととらえ、「どうすれば成功できるか」を考えてトライするような積極的行動をとる。これをチームや仲間同士で実践する。
2. 自信
まず練習のなかで、成功体験を積み重ねる。具体的には、練習中にできたこと、前よりもよくなったことをお互いに認め合う。少しの変化でも見逃さず、その内容を口に出したり、文字や画像、映像など見えるかたちにして残す。
3.実力発揮
本番を想定した練習をする。本番と同じ状況をつくり、そのなかでも自信を持ってプレーできるように練習する。本番前のシミュレーションとしても有効だといいます。
4. 思考法
試合や練習で失敗やミスをした場合でも、状況を前向きにとらえる。その後の練習を通じ、問題解決策に取り組む。
5. チームワーク
手段やチームの結びつきを強め、共通の目標の達成に向けて力を合わせる練習をする。具体的には、「共通の目標を設定する」「目標達成に向けたルールを決める」「役割分担を明確に決める」「自由に意見がいいあえる雰囲気を作る」「ミスや失敗を学習のチャンスととらえ、受け入れる姿勢を共有する」「メンバー同士で普段から自然にあいさつをしたり、ことばをかけたりする」など。
(181ページより)
❇︎
このように、「練習」「上達」の重要性や活かし方がわかりやすく解説されています。また、著者がインタビューしてきた各界の達人たちによる「上達のヒント」も紹介されているので、参考になることが多いと思います。
(印南敦史)