シングルマザー、占い師、女装家……テレ東『家、ついて行ってイイですか?』で描かれる人生劇場 | ニコニコニュース

『家、ついて行ってイイですか?』|テレビ東京
日刊サイゾー

「イエーーイ!」
「キャハハハ!」

 終電が過ぎた深夜の街には、ハイテンションな酔っ払いたちがうごめいている。そんな人たちに「タクシー代をお支払いするんで、家について行ってイイですか?」と声をかけるのが、その名の通り『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系)だ。同局の『YOUは何しに日本へ?』の成功以降、急増した番組タイトルまんまの素人密着番組のひとつだが、その中にあっても、ひときわ完成度が高く、毎回興味深いのがこの番組だ。ちなみに演出を務めるのは、『空から日本を見てみよう』や『ジョージ・ポットマンの平成史』『吉木りさに怒られたい』など、次々に異色の番組を手がけている高橋弘樹である。

 番組は2014年1月に1カ月の短期間レギュラーとして始まり、その後、不定期にゴールデンタイムや深夜と時間を変えながら特番が放送されている。密着したVTRを見守るのは、モニタリング力に定評があるビビる大木とおぎやはぎ・矢作兼。スタジオで、ではない。番組タイトルにちなんで、毎回街で声をかけて了承してもらった素人のお宅をスタジオに変えて収録しているのだ。徹底している。だから、毎回モニタリングのプロである芸人たちに混じって、家主であるただのおばあちゃんや女子大生などが、ワイプから感想を言い合っている。その光景は新鮮でシュールだ。

 6月19日には、19時台の1時間特番として放送。六本木では、大きな帽子をかぶったエレガントな女性に遭遇。彼女について行ったら突然、般若心経を唱え始めるという展開。実は、彼女は占い師。しかも、彼女は世界中の男性たちと恋愛をしているというのだ。また、鶯谷から密着した男性の一人暮らしの自宅に行ってみると、なぜか女性物の下着が。なんと彼は、女装が趣味だったのだ。

 面白おかしく紹介しようとすればいくらでも演出できそう“素材”を、ありのまま寄り添うように映していくのがこの番組の特徴だ。

 今回の放送で特に印象的だったのは、田舎の漁村に暮らす77歳のおばあちゃんだ。今回から始まった新企画「移動スーパーで買ったものの代金をお支払いするので、家について行ってイイですか?」で出会った人だ。カメラで向けられると、彼女はとにかく明るい。自分が買ったものを説明しながら「アハハハ!」と豪快に笑う。周りの人からも「(静岡県)賀茂村のスターだよ」などと言われる、村の人気者のようだ。最初は「ヤダよ!」なんて断っていたが、すぐに「あんまり長いとダメよ」などと言いつつ、密着を承諾した。

 聞けば、十数年前に夫をがんで亡くし、娘も嫁いだため一人暮らしだという。音楽好きの夫が生前に買ったピアノを練習するのが、今の生きがいだと笑う。カレンダーに書かれた「カメ」の文字は、スーパーの特売日という意味だとか、20年以上使っている扇風機だとか、もう使っていないマッサージチェアーだとか、“生活感”がにじみ出ているものをカメラは画面に収めていく。そのたびに、快活にそれらを説明していくおばあちゃん。その解説の至るとこに、亡き夫への愛情がにじみ出ている。

 その夫の遺影の隣には、幼い子どもの遺影が並べられている。

「亡くなったんですよ、小学校1年生のときに。2階から落ちて。私の不注意で」

 自宅の2階で遊んでいる最中、ほんの少し目を離した隙に、誤って窓から転落してしまったのだという。その時から、彼女は重い十字架を背負ってしまったのだ。

「あんないい子だったのにねぇって……。生きた心地しなかったです、私。お父さんにも申し訳なくてね。そういう思い出があって……」

 普段の明るい振る舞いからは、とても想像のつかない人間ドラマ。その人生をのぞくようなVTRに、心の奥底をかきむしられる。

 たとえば、6歳の子どもを亡くしたエピソードだけでは、こんなに心を揺さぶられないだろう。普段の明るく楽しい姿を最初に見ているから、その人の思わぬ人生にハッとする。

 別の回では、シングルマザーのキャバクラ嬢にも密着していた。21歳で夜の仕事で家計をやりくりしつつ、子育てや家事に奮闘していた。スタッフが「周りで遊んでいる21歳の子たちがうらやましくならないですか?」と尋ねると、彼女は即答した。

「自慢したいくらい」

 思えば、この番組はたいていの場合、酔っ払った姿からスタートする。いわば、その人が最もチャラい部分だ。「なんだ、こいつ。だらしない奴だな」と眉をひそめるような感覚から見始めるのだ。しかし、家について行ってみると、その人の悩みだとか、葛藤だとか、夢など真面目な核の部分が垣間見える。その振れ幅に、心が揺さぶられるのだ。そこにあるのは「共感」とはまた少し違う、言ってみれば「他者」の“発見”だ。いま目の前で「気に食わない奴」とか「ダメな奴」なんて思っている人にも、思いもよならない人生があったりする。そんな当たり前のことを、リアルに想像させてくれる番組なのだ。

 ちなみに7月3日(金)にも、「美女たちの家SP」と題された特番がゴールデンで放送されるとのこと。ぜひご覧頂きたい。
(文=てれびのスキマ)