ついにアマゾンが書籍の「安売り」を始めた! | ニコニコニュース

東京・目黒のアマゾン ジャパン本社
東洋経済オンライン

アマゾンが、ついに書籍の値引き販売に乗り出した。ダイヤモンド社、インプレス社、廣済堂、主婦の友社、サンクチュアリ出版、翔泳社の6社から約110タイトルを「定価の2割引き」で販売するのだ。キャンペーンは6月26日から7月31日まで行う。

今回、値引きする書籍は、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」「クラウド化する世界」などのベストセラーを含む。ただし、いずれも発刊から一定期間が経過している旧刊書。「ざわちんメイクまとめ。特装版」などのムックもラインナップされている。

アマゾンが突然、出版界に弓を引いたように見えるかもしれないが、出版社と話し合いをして、周到に準備を進めてきたものだ。

ややこしい話だが、公正取引委員会は、出版社が書籍・雑誌などの再販売価格を拘束することを認めている。そのため、まずは出版社が対象の書籍を自由価格で販売できる書籍に指定。これによって、アマゾンが自由に値引きできるようになる、という立て付けだ。アマゾンは取次である日販にもこの取り組みを説明し、通常の商流を維持する。つまり、出版社とアマゾンが「直取引」を行うわけではない。この値引きの原資(コスト負担)は、出版社とアマゾンの両方が負担する。

追記(6月26日13時40分):初出時に「取次である日販も協力」とありましたが上記に訂正しました。

アマゾンジャパンで書籍事業本部担当バイスプレジデントを務める村井良二氏は「今は本当に本が売れなくなっている。アマゾンは出版業界に携わっているリテーラーの1社としてマーケットセグメントを刺激していきたい。出版社もアマゾンも著者も読者も、みなベネフィットを得る取り組みだ」と説明する。

■今年は価格とポイントで還元する元年

今年1月、アマゾンジャパンは出版社を集めた事業説明会で、「価格とポイントを還元できる元年にする」という説明をしている。それ以降、水面下で出版社と交渉を進めた。拒否をする出版社も多く、必ずしも当初に想定した通りの書籍をそろえることができたわけではないようだ。

アマゾンジャパンは、これまで紙の書籍においては値引き販売をしたことがない。そのため、「値引きによってどのように売れ行きが変わるか、データを分析したい。ポイント還元と比べて売り上げにどのような差が出るのか、という点も分析したい」(種茂正彦書籍事業本部長)。

キャンペーンの先にあるもの

アマゾンが当該書籍の20%の値引き販売を行えば、当然、オンライン書店や町の本屋も影響を受ける。再販指定を解除した書籍はアマゾンだけでなく、どの小売店でも値引き販売をできる。そのため、アマゾン以外にも値引きをする書店が表れる可能性が高い。

なお今回の値引きは期間限定のキャンペーン。そのため、キャンペーン終了後は価格を元に戻す予定だ。ただし、アマゾンはこうしたキャンペーンを1回だけで終わらせるわけではない。他の出版社にも継続的に声を掛けながら、「値引き販売」を仕掛けていく意向だ。

しかし、アマゾンの狙いは、期間限定キャンペーンをやることではなく、恒常的に自由な価格で販売できるようにすることだ。「価格の柔軟性があれば返本率を減らすこともできる。なるべく早く、"自由な価格で売れること"を普通のことにしたい」(種茂本部長)。

■新刊本を自由価格にするのが究極の狙い

ただし時限再販化した書籍、つまり発刊から一定の期間が経過した書籍しか値引きできなければ、大きな課題が残る。そもそもアマゾンでは第三者が販売する「マーケットプレイス」の仕組みを活用し、多くの事業者が中古の書籍を販売している。マーケットプレイスには、「1円」で売られている書籍もザラにある。いくら20%引きにしたところで、マーケットプレイスで販売されている価格より高ければ、多くの読者の触手は動かない。

村井バイスプレジデントは「中古本は一切買わず、新品しか買わないお客さんもいる。そうした人たちには20%引きは響くはずだ」と説明するが、これだけでは大して売れるわけではないだろう。

当然、アマゾンが目指しているのは新刊を含む、完全な自由価格だ。米国やイギリスでは、小売り事業者は新刊の段階で自由な値付けで販売できる。出版社が決めることができるのは「卸値」だけであり、販売価格(再販価格)を決めるのは小売り業者なのだ。

まず一部の出版社との取り組みで前例をつくりあげ、そこに顧客の支持があることを示すことで、大きく業界の構造を変えていくのが、アマゾンの作戦だ。公正取引委員会が例外的に認めてきた、「再販価格の拘束」は、風前の灯なのかもしれない。