このデジタル時代に紙の手帳…ってなぜ?
黒い表紙に、ゴムバンドが付いているあの手帳。オリジナルのモレスキンは19世紀後半にパリの製本業者から発売され、かつてヘミングウェイやゴッホ、ピカソなども愛用していたという歴史ある手帳です。そのモレスキンをイタリアのModo&Modo社(現モレスキン社)が復刻し、再販したのは1997年のこと。以来、クリエイターをはじめビジネスマンにも広く愛されています。
米ザ・ニューヨーカー誌によると、特にグーグルやマイクロソフトなどのテック系企業のエリートや若手起業家のモレスキン率がものすごいんだそう。起業家が集まるカンファレンスに参加したところ、大多数の人たちが膝の上に置いていたものは、iPhoneでもラップトップでもなくモレスキンのビジネス手帳だったんだとか。
ではなぜ、モレスキンのような紙のノートブックがそのようなテクノロジーに造詣が深い人たちに人気があるのでしょう?
この10年間、「Evernote」や、「SimpleNote」、マイクロソフトの「OneNote」やアップルの「Notes」など、紙とペンに代わるプログラムがたくさん出てきました。これらは紙の手帳に比べて大容量のストレージを確保でき、セキュリティも安心で、便利なソリューションであることは確かです。
でも、互換性のないフォーマット、不便な入力オプション、使い方を学ぶための時間、金銭的なコストなどのデメリットもたくさんあります。ノートの端っこに書いたちょっとした落書きからヒントをもらったりすることもできません。
「Getting Things Done(邦題:ストレスフリーの仕事術)」という有名なタイムマネジメント本の著者であるデビッド・アレン氏も、このように話しています。
「頭の中のアイディアを外に出す一番簡単でユビキタスな方法は紙とペンだよ。」
現在のモレスキンはミラノで1997年に発売されました。デザイナーはMaria Sebregondi。彼女は世界を旅する人々のために完璧な旅行手帳を作ることを目指しました。その際に「製品には物語があることが重要」と考え、かつてゴッホやピカソが愛したモレスキンを復刻することを思いついたのです。
しかし、発売して数年のうちに、このノートブックはまったく違う人たちに受け入れられました。マサチューセッツ工科大学の学生達や、若い起業家達にです。彼らはモレスキンのシンプルさに魅了されたのでした。
デジタルノート界の雄であるEvernote。2012年、Evernoteはモレスキンとのコラボ商品を発表しました。これは、手書きのメモを簡単にスキャンしてクラウドのサービスに統合できるというものです。
「モレスキンとパートナーを組んだ時、私たちは紙との戦いを休戦することを宣言したんだ。」
こう話すのはEvernoteの役員であるJeff Zwerner氏。Evernoteはこれまで進めてきたペーパーレスで仮想的な方向性を180度変えることを決定し、物理的な製品という新たな市場を開いたのです。
また、モレスキンとしても紙のノートブックというアナログな製品であるにもかかわらず、バーチャルとの互換性という新たな魅力を手に入れることができました。最近は他にもアドビ社のCreative Cloudとコラボしたノートも発売しています。
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2014年、モレスキンは1700万冊以上の手帳を販売し、紙の製品で9000万ユーロ(約126億円)以上を売り上げました。2010年には5000万ユーロ(約70億円)の売り上げだったので4年間で80%以上成長したことになります。
このデジタル時代に紙の製品で、しかもテック系企業の人たちに人気があるというのは面白いですね。モレスキンのシンプルな魅力に加え、最新のテクノロジーと連携可能とあれば、トレンドに敏感な人たちが反応しているのも納得です。
これがアナログの逆襲ってやつなんでしょうか。
source: THE NEW YORKER
(前田真希子)