ディズニーのテーマパークといえば、徹底した顧客サービスで知られている。来場客に感動体験を味わってもらうために、経営サイドから末端のキャストまでが誠心誠意に尽くす。企業一丸となったこの姿勢で、東京ディズニーランドについて言えばリピート率は95%と驚異的。公益財団法人日本生産性本部が行う日本版顧客満足度指数に関する調査において、2013年は384企業中第1位に輝いている。
そんなディズニーのホスピタリティへの飽くなき魂を表した(と言っていいのかもしれない)、挑戦的な新商品が先々週末、フロリダのディズニーワールドで発売された。それは動物のうんこをテーマにしたスイーツだ。
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■動物園で動物のフンを味わう、めくるめく非日常の世界
フロリダのウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートにあるディズニー・アニマルキングダムは「野生動物の保護」をテーマにしたテーマパークだ。野生動物が実際に飼育されているサファリパークとさまざまなアトラクションが混在している。この園内に新しくオープンしたZuri's Sweet Shopのショウケースに、6月17日、動物のフンに似せたケーキが並んだ。選ばれたのはキリン、ゾウ、ワタボウシタマリン(サルの一種)、カバの4種類だ。
うんこに似たスイーツを発売した意図は、そのネーミングに表れている。
"Match the Species"
どの動物のうんちか当ててみよう
この、うんこ型スイーツは、"Wilderness Explorer" という、子ども向けイベントに使うアイテムとして作られた。園内を回っておのおののフンを排泄した動物を見つけるというインタラクティブなゲームの一貫である。うんこを食べながら、その産み主を見つけるだって!? 挑戦的でありながらも教育的。企画力に脱帽である。
■肝心のお味のほうは.........
それぞれのスイーツの中身は以下のような構成になっている。
・キリンのフン=生キャラメルとチョコレートファッジブラウニー
・ゾウのフン=押しオート麦とイエローココナツフレークをまぶしたチョコとピーナツバターのファッジ
・ワタボウシタマリン(サルの一種)のフン=オート麦をまぶしたチョコレートピーナツバターのファッジで大麦のプレッツェルを包んだもの
・カバのフン=チョコレートファッジキャラメルブラウニーとピーナツバターと押しオート麦
どれもがフンに似せて作っているだけに、チョコレートにピーナツバターと、茶色の食材を主に使っている。肝心のお味のほうはどんなものなのだろうか? 実際に試食した来場客の女性が、自身のブログに感想をアップしていた。彼女によれば、
・ゾウのフン......ココナツ風味に加えてピーナツバターの味が全面に出ている。濃厚で粉っぽい感じ。飲み込むのがちょっと大変。
・カバのフン......重量感がある。ゾウのフンからココナツを抜いたような味わい。こちらも濃厚な感じで粉っぽい。
・ワタボウシタマリンのフン......ゾウとカバのものと同じような味だが、プレッツェルが入っていることもあってか噛んで飲み下すのが少々大変。
・キリンのフン......柔らかいブラウニー。チョコレートの風味がしっかりしている。柔らかくてリッチな感じ。
「4種類中3種類の味がほとんど同じだったのが残念。でも、話のネタとしては面白い。大人も子供も楽しめるはず」
と、ブロガーはレビューを〆ている。見た目や材料が似ているぶん、キリンのフン以外、味も同じようなものらしい。いかにもアメリカンスイーツと言ったような大味のものを想像してしまうが、味についてはこれといって特筆するべきことはなさそうだ。
Zuri's Sweet Shopでは、これらのほかにミッキーマウスを型取ったチョコレートやサルをモチーフにしたリンゴのお菓子ほか、普通に美味しそうな商品も扱っている。味を楽しむためだけなら、あえてうんこ型スイーツを試す必要はない。来場客はスイーツそのものよりも、「野生動物のいる環境でそのフン(に似たお菓子)を食べる」という非日常体験に財布を開くのだろう。
■ウォルト・ディズニーの心意気に矛盾のないスイーツ
改めて言うが、ディズニーはユーザーの満足度を上げるためにアイデアを練り上げ、サービスに実現してきた企業である。それは、これまでの実績が物語っている。
しかし、それにしても、飲食サービスの現場では忌避されるべき排泄物とスイーツの掛け合わせは行き過ぎじゃないだろうか? アミューズメント業界におけるエクセレントカンパニーとしての確固たる地位をすでに築いている同社ゆえ、炎上マーケティングもないだろう。リターンよりリスクのほうが大きいとも思う。
しかし、うんこ型スイーツとディズニーの企業理念に矛盾はない。
「私はディズニーランドが、幸福を感じてもらえる場所、大人も子どもも、ともに生命の驚異や冒険を体験し、楽しい思い出を作ってもらえるような場所であってほしいと願っています」
これは、東京ディズニーランドを運営するオリエンタルランドのWebサイトに「パーク運営の基本理念」として掲載されている創業者、ウォルト・ディズニーの言葉だ。
うんこ型スイーツはディズニー翁の顧客への思い、言い換えれば、ディズニー・パークの基本理念に即している。うんこ型スイーツを食べることで生命の驚異や冒険を体験できるだろうし、大人も子どもも楽しめる。一生の思い出にもなるはずだ。
いや、一生の思い出とは少々オーバーかもしれない。とはいえ、すくなくとも夏休みの絵日記の格好のネタ、新学期に学校で再開した友達に自慢できる、とっておきの話題にはなるだろう。
「オレ、ディズニー・ワールドに行ってキリンのうんこを食べたんだぜ!」
ぽかんと口を開け、羨望の眼差しで見つめる大勢の友達の前で胸を張り、鼻の腔を広げ、夏休みの冒険譚を大きな声で語る小学生の姿が眼に浮かぶ。
(文=セルジュ・サキヤマ)
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