TPP・環太平洋パートナーシップ交渉、要するに市民生活ではなく、企業優先の国際社会を推進するもの、それも国民に知らされないままの秘密交渉で。
ヨーロッパでは同じような交渉が各国市民の強い反対にあっている。
そのTPPに関し“米議会、政府に強力な交渉権限を付与する法案可決“。
これに安倍総理、甘利経済再生担当大臣は「TPP交渉が加速する」、などとそろって歓迎する報道が走った。
はて自民党は2012年暮れの総選挙で“TPP、交渉参加にも反対”を唱えていた筈だが。 あの公約は一体何処に行ってしまったのだろうか!?
僅か3年の経緯だが、振り返ってみると自民党のカメレオンぶりに驚かされる。
*)2012年暮れの選挙で自民党は公約の中でTPPに関し6項目、“農産物の関税”、“医療”、“自動車”、“食の安全”などが守られなければ参加しない、“主権を脅かすISDには絶対反対”などと記していた。
そして圧倒的多数の自民党候補者は「TPP絶対反対」でポスターを作ってまで有権者に訴えた。“TPP交渉への参加そのものに反対”。選挙後は250人以上の自民党議員が「TPP参加の即時撤退を求める会」まで結成し、“TPP交渉参加そのものに反対“の筈だったが!?
*)処がそれから3カ月も経たない3月に安倍総理がTPP交渉への参加を表明。(平然と有権者を裏切った一回目)
(選挙で勝利した途端安倍総理は、“「聖域なき関税撤廃(を前提にした交渉参加に反対)」の項目以外は公約では無い!?”と意味不明の見解を示していた)
するとこれら議員達も簡単に方針を変え、「TPP交渉における国益を守り抜く」会と名も変える。
*)7月の参議院議員選挙で自民党は(TPP交渉に参加しても)「守るべきものは守る」と公約、“政策集”で“農林水産分野の重要5項目や国民皆保険制度などの聖域(死活的利益)を最優先、
それが出来ない場合はTPP交渉から脱退も辞さない”などと言い、有権者の疑心を逸らすのに成功。
(参議院選挙の公約では、“交渉力?を駆使し守るべきものは守り、攻めるべきものは攻めることにより、国益にかなう最善の道を、”などとも言っていた)
*)参議院議員選挙に勝利した後は、甘利経済担当相の数多い記者会見が物語るようにTPP交渉にのめり込む。
この過程で自民党の巧妙な工作の一端が露呈する事件が発生。
10月6日時の西川公也・TPP対策委員長がインドネシア訪問中に“(重要5項目を関税撤廃の例外から)抜けるか抜けないか、検討はさせてもらわなければならない”とか“どんな小さな状況(の変化)も勘案しない姿勢を取り続けられるかという問題がある”などと記者団に発言。
菅義偉官房長官は西川氏の発言を当然視、麻生太郎副総理は“最悪の事を考えておくのは当然“などと関税撤廃の検討をするのは当然、と公言し始める。
*2014年暮れの(大義なき)総選挙で自民党は前の参議院議員選挙時の公約を繰り返すだけ。
野党第一党の民主党は“農林水産物の重要5品目の除外、食の安全の確保、国民皆保険の堅持などに脱退も辞さない厳しい姿勢で臨む”、などと中途半端な公約。
(明確にTPP反対を主張した政党はジェネリック薬品など知的財産の問題まで指摘した共産党、それに生活の党と社民党の3つでしかなかった)
*)さて今年4月は安倍氏が訪米、議会演説は“カネ・税金で実現させた”と海外メディアで批判される事態になった。
その安倍訪米までに“日米間でTPP交渉の妥結”を、と3月末アメリカのバイデン副大統領が自民党の高村副総裁に電話で要請していた。
当のアメリカ国内でTPP反対の世論が今年に入って急激に強まり、オバマ政権に焦りがあった。欧米版TPPであるTTIPに独仏などヨーロッパの世論が強い反対運動を始めたからだった。
*)この後、TPP交渉で安倍総理や甘利経済担当相らの発言はアメリカ議会がTPP交渉促進に速く動くよう、オバマ政権の応援団になったような感さえした。
記憶している読者も多いと思うが、2014年3月24日、
アメリカ議会で超党派の議員連盟「Japan Caucus日本議連」
発足。以来アメリカ議会で、“日本・アメリカ両国のためになる”、とTPP交渉の推進を主張してきた。
(アメリカの議会関係者の間では、この議員連盟結成に日本政府から多額の資金が提供された、と指摘されているのだ)
そして6月25日アメリカ上下両院がTPP交渉の合意に不可欠な、大統領貿易促進権限(TPA)法案の関連法案を賛成多数で可決、TPP関連二つの法案が上下両院で可決された。これで大統領に通商交渉で強い権限を与えられることになった。法律はオバマ大統領が署名して成立する。
*)安倍氏、甘利氏の歓迎ぶりは3年前の暮れと比べると、同じ党の幹部であるとは信じられないだろう。
安倍・自民党が選挙の時如何に嘘をついて有権者の支持を得、選挙の後如何に巧妙に有権者を裏切って行くか、一つの見本として記憶しておきたい。
〈文:大貫康雄(公益社団法人自由報道協会代表)、写真:自民党ポスター〉