「無邪気に顔晒して反政府運動してる子達がこれから体験すること。それは公務員はじめとする政府系機関やまともに身辺調査する企業へ絶対入社できない」。学生時代の政治活動が就職に与える影響について指摘するツイートが話題になった。
最近では、ネット上で政治的な意見を述べたり、SNSで仲間を募って政権に抗議するデモを行ったりする学生も目立っている。
投稿者は、実在の団体名を挙げながら、政治活動に加わると、反政府主義者・危険分子としてブラックリストに入ってしまうことを指摘。周囲にそうした団体に入ろうとしている人がいた場合、「悪いことは言いません。止めてあげてください」と述べていた。
企業が学生を採用する際、学生時代の「政治活動」を理由に採用を拒否してもいいのだろうか。村上英樹弁護士に聞いた。
●思想・信条による差別は、違法となる可能性「ある人が特定の思想・信条を持つことを理由として、企業がその人を採用しないことについて、最高裁で争われた例があります。それは、昭和48年12月12日の三菱樹脂事件判決です。
これは、学生時代に学生運動をしていたことを隠していたという理由で、試用期間が終わる直前に本採用を拒否された人が、労働契約関係の存在確認を求めて争った裁判でした。
裁判では、憲法は、思想・良心の自由を保障している(19条)し、信条等によって差別されない(14条)としているから、思想・信条を理由とした不採用は憲法に違反するとして争われました。
最高裁判決では、原則として企業には採用の自由があり、思想・信条を理由に採用をしなかったとしても当然に違法とすることはできないと判断されました。また、採用決定のために、思想・信条の調査をしても違法ではないとされました」
では、就活生の思想・信条を理由に採用を拒否することは、まったく問題ないということだろうか。
「そうではありません。
厚生労働省は、採用にあたって、応募者の適性や能力に関係ない要素によって採否を決定しないようにすべきとする指針を公表しています。
思想・信条といった本来自由であるべき事項については、調査しないようにすることが公正な採用選考のために重要であるとしています。
したがって、企業の採用活動について、思想・信条による差別が顕著である場合、違法になる可能性は否定できません」
採用後に発覚したケースではどうだろうか。
「企業が採用を決定した後に、政治活動を行っていたという事実だけで採用を取り消すことは、思想・信条等による差別の禁止を定めた労働基準法3条に違反し許されないと考えられます」
●企業は、公正な採用選考を行うべき実際には、政治活動の事実や思想・信条を理由とするのではなく、別の理由をつけて「不採用」としてしまえば、違法性を争うことは難しいのではないか。
「それは否定できません。
しかし、企業が、思想・信条による差別を行ったり、政治活動を行ったことのある者を排除するならば、民主主義は機能せず、社会を発展させることはできなくなります。
そして、企業が、思想・信条など応募者の適性や能力に関係ない要素で差別することなく、公正な採用選考をすることは、企業自身のためにも有益なはずです。
したがって、社会的存在であるという意識の強い企業ほど、思想・信条や政治活動の有無などの要素に関わりなく、公正な採用選考を行う傾向は強いはずです」
村上弁護士は「学生など若者が政治に参加する上で、就職のことを考えて過度に萎縮することがないことが望ましいと思います。そのために、各企業は、公正な採用選考を行う態度を取るべきだと思います」と述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
村上 英樹(むらかみ・ひでき)弁護士
主に民事事件、家事事件(相続、離婚など)、倒産事件を取り扱い、最近では、交通事故、労働災害、投資被害、医療過誤事件を取り扱うことが多い。法律問題そのものだけでなく、世の中で起こることそのほかの思いをブログで発信している。
事務所名:神戸シーサイド法律事務所
事務所URL:http://www.kobeseaside-lawoffice.com