「ワクチンで自閉症になる」
「肉好きの人間は自己中」
どちらもソースの論文書いた人は、データ捏造で医師免許や博士号剥奪になってるって知ってました?
前者は社会的インパクトが大きすぎて、データ捏造で論文撤回になって著者が医師免許剥奪になって5年が経つというのに、ワクチンに対する不信感は消える気配もありません(風聞拡散の時系列まとめ)。
後者はオランダの著名な社会心理学者ディーデリック・スターペル元教授が書いた論文です。この肉食自己中の論文を書いて数日後、博士課程の学生2人から常習的な捏造の告発が行なわれ、1週間後に大学が不正を正式発表。10年間にデマ論文を少なくとも55本量産していたことがわかり、学会を揺るがす一大スキャンダルとなりました。
ワクチンほど複雑な利権が絡んでないせいか、博士号剥奪になってからはサバサバしたもので、論文捏造に溺れていく心理を赤裸々に綴った手記「ONTSPORING(オランダ語で”脱線”の意)」を出版し、転んでもただでは起きない人生を歩んでます(一部翻訳はこちら)。
日本でもSTAP細胞事件がありましたけど、本当に最近多いですよね、論文撤回。実際のところどのぐらい増えているのかといいますと…世界の医療論文データベースPubMedに「撤回論文」と登録されたバイオ医学・ライフサイエンス関連の研究論文は、2012年5月段階で計2,047件もあります。全部詳しく審査した結果が米国科学アカデミー紀要(PNAS)に載ってるんですが、Error(凡ミス)による撤回はたったの21.3%で、圧倒的に多かったのが不正行為による撤回(67.4%)でした。
内訳は…
・Fraud/Suspected Fraud: 捏造/捏造疑惑(43.4%)
・Duplicate Publication: 多重出版(14.2%)
・Plagiarism: 盗作(9.8%)
上のグラフはそこにあったもの。ご覧のように、不正による論文撤回の件数は1975年から10倍近くも増え、2000年代だけで3倍増加。2013年12月には「捏造と論文撤回のまん延」と題して神経放射線学会の学会誌(AJNR)が緊急特集を組んでます。
ただ、「論文撤回が増えたのはいいことだ」という別の角度からの研究も同月発表になってます。要は、不正は昔から一定数あった、単に検出能力が上がっただけだというんですね。その証拠に、撤回を発表する学会誌ごとの数字を見てみると、増えていないんです。発表する学会誌が増えただけだってこと。
一度出した論文を取り下げるには、不正の定義・検出・処分のガイドラインが必要で、それで後回しになってるところも多かったんですね。今はテクノロジーの進化のおかげで、盗作もだいぶ検出が安価・簡単になりました。不正が発覚した場合の対処を明確に定めてない国や学会誌は相変わらず多いんですが、それでも「最近は研究不正撲滅のシステムが増えている」と、こっちの論文では前向きに評価してますよ。
ちなみに不正撲滅のシステムといえばアメリカでは米国研究公正局ですが、ここに舞い込む調査依頼や告発は1994年から2011年の間に倍近くに増えてます。しかしまあ、調べて不正が実際に認められたケースは増加していないそうなので、告発が増えたのは、みんなの意識の高まり、通報がネットで楽にできるようになったことが、その原因と考えられます。
今は論文撤回が昔より迅速になってるって話もあるので、悪いことばかりじゃないですね。10年間ノーチェックでデマ論文55本とか、10年以上もダラダラやって子どもがすっかり大きくなってから「あれは自分の商売にワクチン邪魔なんで書いたデタラメですテヘペロ」なーんてのも過去の話になりそうです。
source: priceonomics
(satomi)