オンリー・イン・アメリカな事件簿。
それは昨年11月のある昼下がり。Eric Joeさんは自作のヘキサコプター(写真)をカリフォルニア州モデストの実家の庭で飛ばしていました。低空・低速で飛ぶこと3分半、いきなりズドーン!と隣のくるみの木の影から発砲音が1発轟いたかと思うと、ドローンははらはらと地面に墜ちてしまいました。
12ゲージのショットガン(散弾銃)だ――そう咄嗟に判断したJoeさんが外に拾いにいくと、隣家からBrett McBayさん(市教育委員会委員)がショットガンを持ったまま出てきました。
「『撃ったんですか?』ときいたら、『ああ。どうだ、当たってるか?』と言ってました」(Joeさん)
McBayさんは「CIAの監視装置だと思ったのさ」と言います。ここで散弾銃もってる人と口論しても始まらないなと思い、Joeさんは日が暮れるのを待ってメールで弁償をお願いしてみることにしました。
今日は息子さんと一緒に会えてうれしかったです。こんな残念な状況になってしまいましたが、McBayさんの射撃の腕には頭が下がります。ただ、せっかく組み立てたヘキサコプターが撃ち落とされて、だいぶ落ち込んでいるのも事実です。あと、うちの方角に弾を撃たれたのも気になります。ともあれ事故機を見てみたら、幸い高価なコンポーネント(フレームの中)は無傷でした。破損は主にフレームの外側に集中してます。(以下、破損パーツの目録を併記。被害総額は700ドル也)
すると、McBayさんからはこんな答えが返ってきました。
700ドル(約8万6000円)なんて法外。サンフランシスコじゃ家でドローン飛ばすのは普通かもしれないけど。うちはプライバシーが欲しいからこんな田舎に引っ込んで暮らしてるんだから。割り勘だったら喜んで払う。次回うちの領地で監視機器テストするときには予めひとこと言ってくれ。小切手は午後持ってくよ。
Joeさんも応酬。
申し訳ないんですが、やっぱり全額弁償してもらいたいです。撃ち落とされたのは、うちの敷地の上を飛んでるときでした。機上のGPSデータに現場がうちの庭だった証拠もはっきり残ってます。落下地点もうちのドライブウェイ(車庫前のスペース)の隣で、家の境目の砂利道から61m(Google Mapsで調べました)こっち側でした。それに「監視機器をテスト」っていう表現は当たりません。カメラは搭載してないし。カメラ積んでたら弁償はこれより300ドル高くなっていたはずです。飛ばす前にひとこと言ってくれっていうなら、こちらもうちの方角に撃つ前にひとこと言ってくれって言いたいです。うちに発砲したのこれで3回目じゃないですか。最初は車庫のドアに弾で穴があきました。2回目は去年の感謝祭のときで、スキート射撃のバードショットがうちの裏庭に雨あられのように飛んできました。3回目は今のこれ。
穏便に済ませたいと思っての提案です。新品買ってたら1,500ドルもする品物です。壊れたところだけ弁償してほしいって言ってるんです。お返事お待ちしてます。
3分後、McBayさんからは「事実誤認。これ以上、話し合うことはない」と返事がきて交渉はあえなく決裂に。結局Joeさんは少額訴訟を起こし、裁判所はJoeさん側の言い分を全面的に認め、先月800ドルの賠償請求を認める判決を下しました。判決理由は「自分の敷地で飛んでるかどうかも顧みず、息子にドローンを撃ち落とさせたのは不当」というもの。
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以上が、Ars Technicaが報じたことのあらましです。これについて米Gizmodoはいろいろ解釈が難しいよね、という話を補足していますよ。
まあ、今回はたまたまカメラが搭載されてなかっただけで、そんなの遠くから見てもよくわかりませんからね。誰だって家の中を覗かれたり撮影されたりするのは嫌なものですが、仮に家の中や庭をドローンで覗かれた場合、合法的にどこまでがINでどこからがOUTか、不法侵入の対処は州によってまちまちなのが現状です。そもそもドローンを飛ばすことが不法侵入に当たるかどうかも、裁判所の解釈は統一されてないんですね。
カリフォルニア州では2月、私有地上空を飛ぶドローンも不法侵入の定義に含めることが法律に盛り込まれました。が、他の州ではまだまだで、米連邦航空局(FAA)ですらドローン飛行規制の方策についてはまだ話し合ってる段階です。
遅々として捗らないのは、地主が所有権を主張できる空域がどこからどこまでなのか、この線引きが曖昧なことにも原因の一端があります。昔から地主の所有範囲は地面と垂直に線を1本引けば、地下から地上までそれで定義は終わりでした。そこに飛行機が登場して定義は一部見直しを余儀なくされ、さらにドローンの登場によって、法律とFAAも私有範囲と航空可能領域のラインを決めなきゃならない必要性に迫られているんです。このラインについては、「アマゾンのドローン宅配を住居不法侵入で阻止できるのか?」という命題にからめて、ウィスコンシンの弁護士が優れた考察(英語)をまとめています。
アメリカの多くの法域で今話し合われているラインは上空500フィート(152m)というものです。が、あんまり深く考えて決めたラインじゃないので、これで解決できない問題もありそう。実際、性能のいいカメラだと、600フィート(183m)先からでも他人の家の中は丸見えでプライバシー侵害は可能ですからね。FAAが定める模型飛行機(ドローン含む)の安全上のガイドラインでは、ドローンの飛行範囲は高度400フィート(122m)以下に制限しなくてはならないことになってます。つまり、不法侵入を避けたかったら、本当は私有地上空は地主の許可なしにドローンは飛ばしちゃいけないんですね。これだと覗き見される心配はないので、そういう意味ではいいルール。
今回のJoeさんの場合、隣の敷地には飛ばしてはいないわけですが、間の公道を一瞬飛んでたようなので、そのときMcBayさんの目には侵入されたように見えたのかも。
支払いはまだということなので、くるみの木を挟んでまたひと悶着ありそうですね。
Top image: Eric Joe via Ars Technica
source: Ars Technica
Kiona Smith-Strickland - Gizmodo US[原文]
(satomi)