視聴率が伸びず10%前後を推移しているNHKの大河ドラマ『花燃ゆ』(毎週日曜 後8:00 総合ほか)だが、起死回生のチャンスがやってきた。きょう5日放送の第27回「妻のたたかい」は、世に言う「禁門の変」を描くターニングポイント回となっている。「歴史の動きの描き方が物足りない」「主人公の文(ふみ)に強烈なイメージが湧いてこない」「歴史と文がうまく絡み合っていない」といった厳しい意見にやっと物語が追いついてきた。
【場面写真】夫の無念を晴らすため、ある決意を胸にする文(井上真央)
第27回では、失地回復を目指して、京に上った長州軍の目前に、10倍以上の兵力を持つ幕府軍が立ちはだかる。形勢不利の状況の中、進退を決する軍議が開かれ、久坂玄瑞(東出昌大)は戦いを回避し、話し合いでの解決を呼びかけるが、来島又兵衛(山下真司)ら戦闘を主張する勢力に押され、御所に進撃することが決定する。そして長州軍は進軍を開始。蛤御門付近で会津藩・薩摩藩などと交戦する。久坂は孝明天皇への嘆願を成し遂げるため、鷹司邸を目指すが…。
禁門の変で命を落とす久坂や寺島忠三郎(鈴木伸之)、入江九一(要潤)の最期がどのように描かれるか。東出をはじめとする俳優たちの熱演も見どころだが、久坂の戦死の知らせ受けてからある決意をするまでの文を演じる井上真央がすごい。それは“紅をさす”という行為に象徴されていく。
夫の死にぼう然とし、その悲しみに暮れる間もなく、藩から下された久坂家断絶、久米次郎との養子縁組も取り消しという沙汰にとまどう文。沙汰を取り消してもらえるよう、重役への取り次ぎを椋梨藤太(内藤剛志)の妻・美鶴(若村麻由美)に頼みに行くが、まったく取り合ってもらえないばかりか、藤太から亡夫への侮辱を受ける。悔しさで泣き叫びながら文が決意したこととは…。
それは自らの手で、夫の無念を晴らし、誇りを取り戻すため毛利家の奥御殿に女中として入ることだった。長州藩のトップ・毛利敬親(北大路欣也)の権威を背景に、文自身が“力(権力)”を持つには、奥御殿に潜り込み、正室・都美姫(松坂慶子)や養女・銀姫(田中麗奈)に近づいて取り入るのが最善策で唯一の策と考えたのだろう。さすが、吉田寅次郎の妹、聡(さと)い。
第28回以降は「大奥」編として、奥御殿を舞台に物語が展開。城の外で起きる問題(例えば幕府による長州征討など)と、奥御殿の中で起きる問題(例えばお世継ぎ問題)が明確になり、歴史と主人公がうまく絡み合っていないといった違和感が解消されるのではないかと、期待される。
また、奥御殿の中で、最初は長州を窮地に立たせた元凶である久坂の妻として、女中仲間からも白い目で見られる文(「美和」と改名する)が、毛利家の跡取り・元徳(三浦貴大)と銀姫の間に生まれた第一子の長男・元昭の養育係を命じられるまでにのし上がっていく過程で、主人公のイメージも鮮明になっていくに違いない。
大奥編の撮影が本格化した6月以降、メディアの前で(お奥勤めの女性ばかりの現場に)「まるで違う作品を作っているみたい」と話していた井上。前半は「久坂や高杉、松下村塾の塾生ら男の人たちが『国を変える』という大義を掲げ、過激になっていく中、おにぎりを差し入れるくらいのことしかできなかったことが歯がゆかった」というが、「なぜ吉田松陰や高杉晋作ではなく、女性の文(美和)を主人公にしたのか、その意味がここから出てくるのかな」と手応えを感じている。
歴史の動きとしては、朝敵になってしまった長州藩に、幕府は長州征討の進軍を開始。長州藩内部では、改革派を抑えられなかったとして周布政之助(石丸幹二)が切腹し、保守派の椋梨藤太が政権に復活。しかし、高杉晋作(高良健吾)、桂小五郎(東山紀之)、伊藤博文(劇団ひとり)らが立ち上がると、形勢逆転し、革新派が実権を握る時が来る。長州は坂本龍馬らの仲介で、禁門の変で敵対した薩摩と薩長同盟を結ぶこととなり、倒幕運動へ加速していく。