2015年3月リリースの「
GeForce GTX TITAN X」(以下,GTX TITAN X)に続き,6月1日には「
GeForce GTX 980 Ti」(以下,GTX 980 Ti)も発表されたことで,第2世代Maxwellにおける「フラグシップGPU」は,2製品が並び立つことになってしまった。NVIDIAは,前者を,4Kビデオ編集やディープラーニングなどもターゲットになる,純粋なゲーム用途とは少し異なるGPUであると位置づけ(
関連記事),一方の後者を「一般ユーザー向けのフラグシップ」としていたりするのだが,実のところ,3Dゲームを前にしたときの性能は,それほど大きくない。ざっくり数%といったところだ。
しかも,GTX TITAN XだとNVIDIAのリファレンスデザイン版しか流通しないのに対し,GTX 980 Tiではグラフィックスカードベンダーが独自にデザインした製品も登場する。より冷却能力の高いクーラーを組み合わせ,より高いクロックで動作するように設定したカードが登場するわけで,「GTX TITAN Xを超える3D性能のGTX 980 Tiカード」が登場しうる。市場はかなり分かりにくい状況になりつつあるのだ。
今回4Gamerでは,GIGA-BYTE TECHNOLOGY(以下,GIGABYTE)から,オリジナルクーラー「WINDFORCE 3X 600W」を搭載し,新しい動作クロック設定機能も採用されたGTX 980 Tiカード「GV-N98TG1 GAMING-6GD」を入手できたので,本製品が期待どおりの実力を発揮してくれるのかどうかをチェックしてみたい。
標準でリファレンス比15%以上高いクロック設定
OC Guru IIから3つの動作モードを選択可能
GTX 980 TiがどういうGPUなのかという話は
レビュー記事を参照してもらうとして,さっそく,GV-N98TG1 GAMING-6GDを概観していこう。
そのカード長は実測で約290mm(※突起部除く)。GTX 980 Tiリファレンスカードが同268mmだったので,20mmほど長い計算になる。ただし,GV-N98TG1 GAMING-6GDの基板長自体は約268mmであり,リファレンスカードと変わらない。長くなっているのは,600WものTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)にまで対応するというGIGABYTE自慢のクーラー,WINDFORCE 3X 600Wが,カードの後方にはみ出ているからだ。
ちなみにこのWINDFORCE 3X 600Wは,GIGABYTE製の「
GeForce GTX TITAN Black」搭載グラフィックスカード「GV-NTITANBLKGHZ-6GD-B」で“交換用”として採用されていたものと,基本的には同じ。もう少し具体的に言うと,
- GPUダイの上にくるヒートシンク部の一部を山のように盛り上げることにより,乱気流などが発生しないようにエアフローを整え,冷却能力を引き上げるとされる「Triangle Cool」
- 8mm径5本,6mm径1本のヒートパイプで,2つの冷却ブロックを接続する2ピース構造
- 一段飛ばしで段差を設けることによってエアフローを改善した放熱フィン
- 5本線状の突起を設けることでエアフローを改善した3連ファン
を採用するという点では完全に同じだ。
フィンのクローズアップ。段差があると分かる |
ファンの羽には突起が設けられている |
ただし,「基本的には」と断ったことからも想像できると思うが,それ以外のところにはアップデートが入っている。最大のポイントは,GPU温度が50℃を下回る環境ではファン回転が停止する,いわゆる
準ファンレス仕様を採用していることだろう。WINDFORCE 3X 600W側面部にはインジケータLEDが用意されており,ファンが止まると,「SILENT」「STOP」と書かれた部分が光るようになっている。
もう1つは,いま紹介した2か所のLEDに挟まれた「WINDFORCE」ロゴの色を,GIGABYTE製のグラフィックスカードユーティリティソフトウェアである「OC Guru II」(Version 1.87)から変更できるようになったことだ。こちらは単なる気分転換くらいの役にしか立たないが,「GeForce Experience」を使わずとも,OC Guru II側からLEDイルミネーションを調整できるのは,メリットといえるかもしれない。
OC Guru IIの話が出たので続けると,OC Guru IIにも,重要な更新が入っている。
まず,基本的な事項を押さえておくと,GV-N98TG1 GAMING-6GDの動作クロックはベース1152MHz,ブースト1241MHzで,GTX 980 Tiリファレンスクロックである同1000MHz,
1075MHzと比べていずれも15%強引き上げられており,後述するテスト環境でブーストの最大クロックを追ったところ,リファレンスカードは1202MHzなのに対し,GV-N98TG1 GAMING-6GDでは1366MHzまで上昇した。
それを踏まえてOC Guru IIだが,新版のOC Guru IIでは,メーカー保証の範囲内でさらに動作クロックを引き上げる「OC」モードと,クロックアップの度合いをおとなしくして消費電力を抑える「ECO」モードが,工場出荷状態の「DEFAULT」モードとは別に用意されている。
OCモードではベース1190MHz,ブースト1279MHz,ブースト最大が1392MHzとなり,一方のECOモードではベース1062MHz,ブースト1190MHz,ブースト最大1264MHzとなっている。ECOモードであってもGTX 980 Tiのリファレンスクロックより高いのは,後段の性能検証において重要な要素となるだろう。
なお,メモリクロックはいずれのモードを選択してもリファレンスクロックと同じ7010MHz相当(実クロック約1752MHz)のままだった。
GPUクーラーの取り外しはメーカー保証外の行為であり,クーラーを取り外した時点で,メーカー保証は失効する。本稿の記載内容を試した結果,何があったとしても,メーカーや販売代理店,ショップ,4Gamerは責任を取らない。その点をお断りしたうえで続けると,基板上の電源部は8+2フェーズのようだ。GTX 980 Tiのリファレンスデザインだと6+2フェーズだったので,電源周りは強化されているわけである。
紹介が遅れたが,GV-N98TG1 GAMING-6GDでPCI Express補助電源コネクタは8ピン×2という仕様。さらに,GIGABYTE側でオーバークロック耐性の高いGPUを選別した「GPU Gauntlet Sorting」モデルとされているので,自己責任でオーバークロックしたい人が“遊びやすい”仕様になっているとはいえる。
なお,グラフィックスメモリチップはSK Hynix製GDDR5 SDRAM「H5GQ4H24MFR-R2C」(7Gbps品)。これはGTX 980 Tiリファレンスカードに搭載されたいたものと同じである。
GTX TITAN Xを超えられるか?
3つの動作モードでテストを実施
では,テスト環境の構築に話を移そう。今回,比較対象としては,ベースモデルとしてのGTX 980 Tiと,上位モデルとしてのGTX TITAN Xを用意した。主役となるGV-N98TG1 GAMING-6GDは前述のとおり,OC Guru IIから設定できる動作モードを3つ持つため,3モードでテストを行うことにする。
グラフィックスドライバは,テスト開始時の公式最新版となる「GeForce 353.30 Driver」を利用。そのほかのテスト環境は表のとおりだ。
テスト方法は4Gamerの
ベンチマークレギュレーション17.0準拠。ただし,スケジュールの都合から「Crysis 3」「Dragon Age: Inquisition」「GRID Autorport」の3つは省略した。また,解像度は
GTX 980 Tiのレビュー記事と揃え,2560
×
1600ドットと3840
×
2160ドットの2パターンとした。
なお,ここまで説明したテスト環境と方法は,
6月30日に掲載した「Radeon R9 Fury X」レビュー記事とまったく同じだ。そのため,GTX 980 Tiのスコアは流用しているので,この点はあらかじめお断りしておきたい。
もう1つ,これは“いつものこと”ではあるが,テストに用いたCPUの自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」は,テスト状況によってその効果に違いが生じる可能性を排除する目的で,マザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化しているので,こちらもご了承を。
堂々のGTX TITAN X超え。「速い」の一言だが,OC&ECOモードの効果はあまりない印象
以下,グラフ中に限り,GV-N98TG1 GAMING-6GDに用意された3つの動作モードを「GBT 980 Ti OC」「GBT 980 Ti DEFAULT」「GBT 980 Ti ECO」と表記すると宣言しつつ,テスト結果を順に見ていこう。
グラフ1は「3DMark」(Version 1.5.915)の結果となる。
GV-N98TG1 GAMING-6GDのDEFAULTモードは,GTX TITAN X比で109〜115%程度,対GTX 980 Tiに対しては111〜116%程度となった。堂々のGTX TITAN X超えだ。OCモードになると「Fire Strike Ultra」においても対GTX TITAN Xで1割以上高いスコアを示していたり,ECOモードのスコアがDEFALTモードとあまり変わらなかったりするのも見どころといえるだろう。
続いて
グラフ2,3は「Far Cry 4」の結果だ。Far Cry 4では,GPUコアクロックが引き上げられたGV-N98TG1 GAMING-6GDの景気がすこぶるよく,
DEFAULTモードでGTX 980 Tiに対して最大約26%のスコア差を付けている。メモリクロックの条件が揃い,グラフィックスメモリ容量も6GB以上と余裕のある状態で揃っている今回のテストにおいて,解像度3840
×
2160ドットでギャップが広がる傾向にあることからは,GPUコアクロックの引き上げがFar Cry 4の高解像度条件で有効というのも確認できよう。
対GTX TITAN XでもDEFAULTモードは3840
×
2160ドットで14〜18%程度高いスコアを示している。
ただ,その割にOCモードのスコアが伸びていないことも指摘しておく必要がある。DEFALTモードと比べて平均フレームレートは最大でも2.4fpsしか伸びていない。このレベルだと,グラフィックスメモリの帯域幅がボトルネックになって,少々の動作クロック差ではスコアを大きく左右しなくなる,ということではなかろうか。
ECOモードのスコアがDEFAULTモードとあまり変わらないのは3DMarkと同じだ。
グラフ4,5
に結果をまとめた「EVOLVE」でも,GV-N98TG1 GAMING-6GDのスコアはGTX 980 TiやGTX TITAN Xに大差を付けた。DEFAULTモードで,対GTX 980 Tiは21〜26%程度,対GTX TITAN Xは16〜18%程度高いスコアだ。
OCモードとECOモードのスコアがDEFAULTモードといまひとつ変わらないのはFar Cry 4と似た傾向である。
「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド」公式ベンチマーク(以下,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチ)のスコアをまとめた
グラフ6,7でも,GV-N98TG1 GAMING-6GDの結果は良好。とくに目を引くのは,「最高品質」の解像度2560
×
1600ドットにおいて,ハイエンドGPUの合格ラインであるスコア1万を超えてきていること。この解像度でも,真の意味で快適にプレイできるレベルにあるというのはかなり衝撃的だ。
ただ,ここでもOCモードとECOモードのスコアはDEFAULTモードのそれと大して変わらない。
クロックアップによって高くなる消費電力
WINDFORCE 3X 600の冷却性能は優秀
あっさりとGTX TITAN Xをパスしてしまうほどの動作クロック設定がなされているGV-N98TG1 GAMING-6GDだけに,消費電力が気になる人も多いことだろう。ここでは,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を利用して,システム全体での消費電力から,GV-N98TG1 GAMING-6GDがどれくらいの電力喰いなのかを推測してみたい。
テストにあたっては,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値が記録された時点を,タイトルごとの実行時とした。
その結果がグラフ8だ。アイドル時の消費電力はGTX 980 Tiのリファレンスカードから数W高いだけであり,カード設計が異なることを考えれば無視できるレベルだといえるが,アプリケーション実行時はそうではない。GV-N98TG1 GAMING-6GDは,DEFAULTモードでGTX 980 Tiより45〜57W,GTX TITAN Xより38〜52W高い。クロックアップの代償はかなり大きくついており,GPU Gauntlet Sortingで選別されたGPUに対して高い電圧設定がなされていることを容易に想像できる。
また,OCモードがDEFAULTモードからさらに消費電力が4〜11W程度上がっていることと,ECOモードの「エコ効果」はほとんど無視できるレベルでしかないことも確認できよう。
最後に,GPUの温度も確認しておこう。ここでは,温度24℃の室内において,テストシステムをPCケースに組み込まず,いわゆるバラックに置いた状態から,3DMarkの30分間連続実行時を「3DMark時」として,アイドル時ともども,「GPU-Z」(Version 0.8.4)から温度を取得することにした。
その結果が
グラフ9となる。GPUクーラーが異なる製品同士での比較であり,横並び比較にあまり意味はない。あくまでも,GV-N98TG1 GAMING-6GDに搭載されるWINDFORCE 3X 600Wクーラーの冷却能力を推し量る程度に留めてもらいたいが,アイドル時におけるGV-N98TG1 GAMING-6GDのGPU温度は,ファン回転が停止するラインである50℃を下回ったところで見事に安定している。ファンが停止した状態で47℃なら全然問題ないレベルだ。
3DMark時の温度が80℃を下回っている点にも注目したい。消費電力の高さからして,GTX 980 TiやGTX TITAN XのリファレンスカードよりもGV-N98TG1 GAMING-6GDに搭載されるGPUの発熱は大きいはずだが,WINDFORCE 3X 600Wはそれをしっかり冷却できているわけである。
なお,肝心のWINDFORCE 3X 600の動作音は,実際に聞いてみてほしい。
今回は,カードに正対する形で30cm離した地点にマイクを置き,アイドル状態で1分間放置したあと,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチを4分間実行したときの様子を録音している。最初の1分間に聞こえるファンの音はCPUクーラーと電源ユニットによるものとなっており,ベンチマークの起動後,10秒後くらいからファンが回り始める。ベンチマーク開始後2分,つまりファイルの冒頭から3分経過くらいでピークに達し,そのときの動作音はGTX 980 Tiリファレンスカードよりも間違いなく大きくなる。
ただし,「うるさくて堪えられない」ほどではなく,このクラスの製品としては,許容できるレベルにあると思う。
SOUND PLAYER:このブラウザは未対応です。PCをご利用ください。
GTX TITAN Xよりざっくり3〜4万円は安価
「シングルGPU最速」を狙いたい人に
2015年7月4日現在の実勢価格でいうと,リファレンスデザインを採用したGTX 980 Tiカードは10万円前後で,対するGTX TITAN Xカードは14〜15万円。それに対してGV-N98TG1 GAMING-6GDは11万〜11万5000円程度だ。得られる性能からすると,かなり魅力的と述べていいのではなかろうか。リファレンス仕様のGTX 980 Tiカードと比べると確実に高価で,確実に消費電力は増大するが,その3D性能は素晴らしいの一言であり,GTX TITAN Xを検討しているような人には,GTX TITAN Xよりも優れた選択肢として,間違いなくお勧めできる。
そんななか,1つだけ残念なのは,せっかくの新機能であるOCモードとECOモードに,積極的に選ぶだけのメリットがほとんどないことだ。とくにECOモードは名称から期待される効果がまるでない印象である。リファレンスクロック相当や,リファレンスカード並みの消費電力で動作するようになっていれば,また違った使い方もできたと思われるだけに,ここは惜しいポイントとして指摘しておきたい。