日本文化を海外へ発信する「クールジャパン」の中核として期待されるアニメーション。だが、その制作現場では、若手の人材が厳しい労働環境にさらされている。アニメ業界は全体的にフリーランス主体の構造になっており、そのしわ寄せが若手に及んでいるのだ。
駆け出しのアニメーターが担っている「動画」と呼ばれる職種は平均年収が約110万円。月収10万円未満という過酷な状況について、業界団体「日本アニメーター・演出協会」(JAniCA)の監事をつとめる桶田大介弁護士は「最終的に、日本のアニメの作り手がいなくなるおそれがある」と警鐘を鳴らす。
・このままではアニメ業界は自滅する? アニメ制作の「実態調査」が暗示する未来(上)http://www.bengo4.com/other/1146/1307/n_3340/
日本のアニメの将来を担う若手制作者たちの環境を改善していくためには、どのようなことが求められているのだろうか。桶田弁護士に聞いた。
●マネジメントが必要になっている――調査結果をみると、全体で1カ月あたりの作業時間は「平均262.7時間」というデータもありました。かなり長い印象です。
その要因の一つとしては、スケジュール管理の問題があります。アニメーターの大半はフリーランスであるため、複数の仕事を掛け持ちしています。単価の低い現状では、スケジュールを仕事できっちり埋めないといけない。そのため、一つどこかの工程が遅れると、その悪影響は複数の作品に波及し、玉突き事故的に崩れてしまうのです。
――どうすれば改善できるのですか?
たとえば、業界の一部の制作会社では、内製率を高めています。
マネジメントされた1つのチームであれば、全体としてコスト管理やプロジェクト管理も容易になります。スケジュールやクオリティが保たれ、結果的に働いている人の環境もまともになります。そのあたりは、制作会社側に努力してもらいたいところです。
――直接雇用にすべきということですか?
基本的にはそのとおりです。大多数がフリーランスである結果、マネジメントできないし、スケジュールが守れず、予算額が上がるという問題が生じています。
本質的には、マネジメントをきっちりやっていけば、スケジュールは守れるし、質も上がるし、コスト管理ができるようになります。「適正な経営」が求められているのです。
●制作会社もアニメーターも同じ船に乗っている――制作会社が不当に儲けているということはないのですか?
少なくとも、私たちが見聞きした限りでは、そのような事例は一般的ではありません。制作会社もアニメーターも、ビジネス全体で見たら、同じ船に乗っている感覚です。一方で、プロジェクトマネジメントができるのは、制作会社です。アニメーター個人の努力だけで、どうにかできる問題ではありません。
もちろん、制作会社ばかりに無理な負担や責任を押し付けるつもりはありません。だからこそ、公的な調査をおこなって、制作会社に発注するテレビ局や出版社、アニメ産業を支えているファン、国などに客観的な情報を提供したいと思っています。また、アニメーターをはじめとした、アニメーション現場で働く人々の技能向上に向けた取り組みも必要です。
――大局的には、どのような改善策がありますか?
たとえば、国に対しては、カナダを始めたとした諸外国ですでに導入されているタックス・クレジットなど「税制上の枠組み」で応援いただきたいと考えています。助成金や補助金では財源上の限界がありますし、業界全体が淀んでしまいます。ビジネスにおける健全な競争環境を守りつつ、制作現場の環境向上にインセンティブを持たせるような税制が有効であることは、すでに証明されています。
アニメ制作自体の産業規模は、1000~2000億円程度と産業としてはごく限られており、優遇措置による経済的影響は極めて限定的です。アニメの持つ間接経済効果を考えれば、このような税制は、優遇による経済負担を大きく超える効果を社会全体にもたらすと思います。
昨年11月、超党派の国会議員らによるマンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟が設立されました。同議連では、アニメーションの制作現場の環境改善を、目的の一つに掲げていただいています。まだ紆余曲折があるとは思いますが、多くの皆さんの応援をいただきつつ、一歩ずつ、私たちにできることを積み上げていきたいと考えています。
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(弁護士ドットコムニュース)