「明治日本の産業革命遺産」の国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界文化遺産登録をめぐる日韓両国の調整は曲折の末に辛うじて決着し、日本政府内には5日、安堵(あんど)が広がった。ただ、一度は外相会談で協力を約束したはずの韓国がぎりぎりまで強硬姿勢を崩さず、歴史問題をめぐる相互理解の難しさを裏付けた。
安倍晋三首相は同日、「心からうれしく思う。素晴らしい遺産の保全と次世代への継承に向け、決意を新たにしたい」との談話を発表。岸田文雄外相も外務省で記者団に「誠に喜ばしいことで歓迎し、祝意を示したい」と述べた。
日韓の調整で最後までもめたのは、施設の一部で戦時中に朝鮮半島出身者の「強制労働」が行われたことを韓国が明確にしようとした点だ。5日の登録決定を受けた演説で、日本の佐藤地ユネスコ代表部大使は「日本が徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる」と述べ、韓国側の主張に一定の配慮を示した。
ただ、岸田外相は、佐藤氏の発言について「従来の日本政府の認識を述べたもので、財産・請求権の問題は完全かつ最終的に解決済みとの立場だ」との談話を発表。元徴用工の請求権の問題を韓国が蒸し返さないようくぎを刺すことを忘れなかった。
登録決定について外務省幹部は「決まらなかったら日韓関係に影響したが、結果オーライだ」と胸をなで下ろしている。これを受けて日本政府は、首相と朴槿恵大統領の首脳会談を秋にも実現させるための調整を本格化させる意向。ただ、歴史認識をめぐる対立から日韓が「円満な協力」を印象付けられなかったのも事実で、今後の関係改善が順調に進むかは不透明な要素が残る。