2015年6月16日~18日(現地時間)、アメリカ・ロサンゼルスで開催されている世界最大のゲーム見本市“E3(エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ)2015”。SCEAブースの“Project Morpheus(プロジェクト モーフィアス)”体験コーナーでは、『KITCHEN』というタイトルがサプライズ出展されていた。本稿では、その内容に迫る。ちなみに、撮影が禁止されており、画面写真などの素材もないため、テキストだけで構成されている点はご容赦いただきたい。
SCEAブース“Project Morpheus(プロジェクト モーフィアス)”体験コーナー。複数のタイトルが出展されており、試遊場所の外にいる人にも内容がわかるように、テレビモニターに映像が流されているのだが、その中にひとつだけ異質なものがあった。
“KITCHEN”。
体験コーナーのいちばん奥。そこにあるモニターには、黒地に白い文字でそう書かれているだけだった。「なんだこれ?」。E3初日、最速でProject Morpheus体験コーナーに並んだものの、体験できる技術デモはランダムだったため、お目当ての技術デモが体験できずに落ち込んでいた筆者の目に入ってきた“KITCHEN”という文字。「あれ?」。モニターをよく見ると“KITCHEN”と書かれている文字の下に、小さい字で何かが書かれている。目を凝らして見てみると、そこに書かれていた文字は“Tech Demo For Morpheus”。うん、ふつうだ……と思いながらライセンス表記部分を何気なく見たときに一瞬、体の動きが止まった。“(C)CAPCOM”。…………カプコンの権利表記じゃん! E3初日はほかの取材があったため諦めたものの、2日目に何度もProject Morpheus体験コーナーに並び、夕方にやっとその時が訪れた。
前述したとおり、ほかの技術デモは別回線でプレイしている人以外にもデモ映像が見られるようにモニターに出力されているのに対し、『KITCHEN』は映像出力されておらず、体験した人しかその内容をうかがい知ることはできない。
料理を作るゲーム?
などと考えながら並んでいると、目の前で体験している人が叫び声をあげ始めた。まず、ここでイヤな汗が流れる。「カプコンの技術デモということはもしかして……」。不安を感じながらスタッフに呼ばれるがままに席につく。「コントローラを持っていただきますが、ボタンは使いません。状況に応じてコントローラを持った手を伸ばしたり、振ってください。あと、気分が悪くなったら手をあげてくださいね」。説明するスタッフの笑顔を見て直感した。「あ、怖いやつだ、これ」。筆者がそうつぶやくと同時に、ヘッドマウントディスプレイとヘッドフォンを装着されて、目の前に恐ろしい空間が現れた。
薄暗い部屋。目の前にはビデオカメラがこちらを撮影しているように三脚に乗っている。右を向く。左を向く。上を向く。後ろを向く。……うん、部屋だ。狭い。そして朽ち果てている。でも、おかしなところがふたつわかった。
部屋の古びたキッチンは血にまみれている。そして、左側にはスーツ姿の男性が倒れている。
自身を見ると、椅子に座らされており、両手をロープで縛られているのがわかる。静寂が続く中、手をそっと前に伸ばすと、ビデオカメラが音を立てて倒れた。その瞬間、突如、男性が起き上がる。男性はこちらと同じく、両手を縛られていることが立ち上がったときにわかる。「あれ? この人なぜか目が見えてない?」。そう思ったのは、男性が手探りで床に落ちているナイフを拾ったときだった。密室。ふたりきり。こっちは動けない。相手はナイフを持っている。
「ヤバイヤバイヤバイヤバイ!」。
ロサンゼルスコンベンションセンターに、筆者の叫びがこだまする。その後、さらなる絶叫が体験コーナーに響き渡る。
「危ないから!!」。
迫りくる男性。筆者の自由を奪っているロープを切ろうとしてくれるのだが、男性は目が見えないので、ナイフが筆者に突き刺さりそうになるのだ。ナイフがとてつもなく近い。奥から手前にロープを切ろうとするもんだから、ロープを切ったときの勢いで筆者に刺さるのではないかと、怖くてしょうがない。「だからナイフ危ないって!」。願いが通じたのか、やっと男性が少し離れてくれた。「なるほど、シチュエーションスリラー的な体験が楽しめる技術デモか」と推理小説の犯人を当てたときのようにしたり顔を浮かべた瞬間、予想していなかったことが起こる。「え?」。思わず声が出る。そりゃ誰だって声が出るだろう。だって、
男性の後ろに、白い衣装に包まれた黒髪の女性が立っているんだから。
「コワイコワイコワイコワイ!」。
ひと目みてわかりました。この女性がふつうじゃないと。だって、笑っているんだもん……。と思った刹那、女がいきなり男性をナイフで刺す。動けないため、それを眺めるだけの自分。見たくないけど、見るしかない。怖いけど目を背けられない。見ることしかできないし、見なければ女性の姿を見失ってしまうからだ。女性は奇声を発しながら男性を蹂躙、陵辱。……「ああ、もうダメだ」とつぶやいたときに、女性がこちらへ突進してきて、ナイフで筆者の太ももを刺した!
「イタイイタイイタイイタイ!」。
正直に言おう。実際は痛くも何ともない。でも叫ばずにはいられない。なぜなら本当に自分が刺されたと感じるほどの迫力と臨場感があったからだ。刺された太ももに目をやった瞬間、女性は男性をひきずってキッチンの奥に連れて行く。生理的にイヤな音が奥から聞こえ、男性の断末魔が響き渡り、静寂が訪れる。しかしこれは一瞬の静寂。こちらに投げつけられた丸い何かがゴロンと目の前に転がって止まる。
そう、それはすでに物体となった男性の頭部だった。
筆者をあざ笑うような女性の声が部屋に響きわたる。その後、女性が動く音だけが聞こえてくる。まだ奥にいるのだ。
「どこに行った? もしかして助かった?」
あたりを必死に見回すが、女性の姿はない。「ふう」と正面を見てひと息ついた瞬間、女性はまったく予期せぬ場所から現れた。
それは手だった。
手が目の前に現れた。そう、いつの間にか背後に回り込んでいた女性が、目隠しをするように筆者の目をふさいだのだ。こちらの手は縛られている。椅子から立ち上がることもできない。何もできない筆者をもてあそぶように顔をなでまわした女性は、目の前に姿を現す。
「あ、オレ殺されるんだ」。
逃れられない状況に陥ると、人間、笑うものなんですね。女性は恐ろしい形相を浮かべたあと、ナイフを筆者の胸に深々と突き刺したーー。と、ここでデモが終了。
スタッフロールが表示されたときにプロデューサーの名前を見て、いろいろと納得する。
“Producer:MASACHIKA KAWATA”。
おわかりいただけただろうか? 『バイオハザード リベレーション』シリーズプロデューサーでおなじみ、川田将央氏の名前がそこにあった。体験を終えた筆者はその足でE3カプコンブースへ。受付で『KITCHEN』の北米向けリリースを受け取る。以下ではその内容を翻訳し、抜粋して掲載しよう。
【『KITCHEN』北米向けリリース訳(一部を抜粋)】
●いままでにないレベルの没入感を提供するとともに、ゲームプレイ体験の限界をさらに押し広げる
●不穏な雰囲気が漂う『KITCHEN』での体験は、プレイヤーをいままでにない最高峰のバーチャル世界へ引きずり込む緊張感あふれる演出により、つねに不安に駆られる体験環境を創出している
●バーチャルリアリティー(VR)に完全対応した新型エンジン(名称未定)で動作している
●『KITCHEN』は、カプコンが今後将来的に発売するタイトルのグラフィック水準も搭載している
●現在開発を進めているゲームプレイのつぎのレベルのベンチマークとも言える
●フォトリアルなグラフィックを1080p フルHD/毎秒60フレームで描写
●より自然な感覚体験を提供するための高性能技術を駆使したモーフィアスシステムによる毎秒120フレーム出力にも対応
●DTS社が開発した最新のサラウンドサウンド技術“DTS ヘッドフォン X”にも対応
●ヘッドフォンを通して、バーチャルリアリティー体験にさらに視覚面においても、ほかに類を見ない高品質なサラウンドサウンド体験を提供している
リリースの最後は、カプコンは革新的なフォトスキャンや最新のエフェクト技術などとともに、次世代の技術を用いることで、より写実的なキャラクター表現やより現実に近い環境設定を実現し、ファンたちが興奮するような新しいゲームプレイを提供していく、という文章で締められている。『KITCHEN』が日本で体験できる時が来たときは、筆者が感じた恐怖がおおげさではなかったことをぜひとも体験してもらいたい。
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