私自身の、思春期の体験談です。
小学5年生のころのことです。
当時、私は自分の外見のことで悩んでいました。頭がとても大きいのです。サイズの合う紅白帽どのお店を探してもなかったくらいです。道ですれ違う人から「アタマ、大きいー!」と言われたこともあります。
5年生になるとそのことでいじめられるようになりました。
ある日のことです。私が学校に着くと、伝令係のような子が「高濱が来たぞ!」とクラス中に伝える。そして、教室に入ってきた私に向かって全員で「でこっぱち! でこっぱち!」と合唱です。なんと初恋の女の子まで……。
生まれて初めて、自殺しようと思いました。
その日、「もう死のう。」とトボトボと家に帰ると、私の様子がおかしいことに母親はすぐに気づきました。けれども、そのとき母親が私にしてくれたことは、ただひとつ。
「ちょっとおいで」と私を呼び、「言っとくけどね、お母さんは、あんたが元気ならよかとばい」と言って、ギューッと抱きしめてくれたのです。
この後すぐに、いじめがなくなったわけではありません。でも、私には安らぐ家がありました。その中で私は少しずつ強くなっていきました。
相変わらずつづく「でこっぱち」コールの中でも、「あいつ、今日は立ち上がるのが遅いな」なんて冷静にチェックを入れていたくらいです。
そんなあるとき、私は児童会の副会長に立候補します。
その選挙演説でのこと。全校児童約1500人を前にして、ピンとあることがひらめきました。そこで私は開口一番、こう言ったのです。
「おはようございます! 頭のでっかい高濱正伸と申します! みなさんの2倍、3倍は脳みそがあります!」
みんなから「おおー!」という反応。さらに、お辞儀をしたら頭がマイクにゴン! これがバカ受けで全校児童が大爆笑です。
すると、なんと次の日からいじめはピタッとやみました。笑いに持っていかれると、いじめる側としてはいじめ甲斐がなくなってしまうのですね。
つらかった時期を支えてくれたのは間違いなく、母のいる家でした。
一度ギューッと抱きしめてくれてからは、何も特別扱いせず、「いつも通りの家」でありつづけてくれたのです。だからこそ、私は家に帰れば安らげたのだと思います。
これとは逆に、毎日のように「今日は大丈夫だった?」などと一緒に心配されたりしたら、あるいいは、いじめの首謀者の子の家に乗り込んで事件沙汰にされてしまっていたら、家は私にとって安らぐ場所ではなくなっていたでしょう。
悩み苦しんでいるときは、もちろんつらいものです。でも、その苦しみから抜けだしてみると、「お母さんやお父さんがいつも通りでいてくれて、よかったな」と子どもは思うものなのです。
思春期になると、子どもは親になかなか本心を見せたがりません。それと同時に、なかなかすぐには変われず、親からすればグズグズと停滞しているように見え、つい口出ししたり、手っ取り早いアドバイスをしたくなったりすることも多いと思います。
けれども、最後に結局心のよりどころにしているのは、家族です。そうであればこそ、親は思いを馳せ、「ほっと安らげるいつも通りの家」を貫いてほしいと思います。
※本連載は書籍『へこたれない子になる育て方』からの抜粋です。