モデルで女優のトリンドル玲奈さん、篠田麻里子さん、真野恵里菜さんがトリプル主演した映画「リアル鬼ごっこ」(園子温監督)が全国で公開中だ。原作となる山田悠介さんの同名小説にインスパイアされた園監督が、追い掛けられるターゲットを“全国の佐藤さん”から“全国のJK(女子高生)”に変更するなどオリジナル脚本を執筆。自らもメガホンをとって誰も見たことがない新たな「リアル鬼ごっこ」を作り上げた。ヒロインの女子高生・ミツコを演じるトリンドルさんに、体当たりの演技や園監督の印象などを聞いた。
◇台本からも実感した“園ワールド”
今作は園監督自らが書き上げたオリジナル脚本で、映像化した既存の同シリーズとはまったく異なる一面を見せている。トリンドルさんは台本を読んだときの印象を「何が起きているんだろうと、頭の中で想像ができなかった」と戸惑うも、「園監督ということもあって、どういう映画になるんだろうと思いました」と期待感もあったという。
不思議な世界観が描かれている台本からは「役をどうつかめばいいのかも分からなかったけれど、ミツコもきっと(台本を読んだときの)私と同じように、訳が分からないまま進んでいくんだろうな」と感じたことを明かす。続けて「起きていくことを自分の目で見て耳で聞いて……というところには唯一共感できたというか、ただ進んでいけばいいのではと思いました」と振り返る。
初顔合わせとなった園監督について、「演技指導の面などでも厳しい監督で割と無口な方」だと思っていたトリンドルさん。実際に対面すると「すごく緊張していたのもあって、あまりお話できなかった」というが、そのためか「撮影4日目ぐらいに(園監督から)『無口だね』と言われました(笑い)」と打ち明け、「そこからなんとなく会話が生まれていきました」と笑顔を見せる。
トリンドルさん自身、イメージするのに試行錯誤をしたというミツコ役だが、園監督からは「撮影に入る前も役についての説明や、こういうふうに演じてほしいというのはあまりなかった」といい、「(撮影に入る)直前にひと言二言あっただけですが、すごく分かりやすく言ってくださいました」と感謝する。
◇走る演技のためモデル業とは違う体作り
物語が進行していく中で、ミツコが走るシーンは数多く登場する。「体力面は周りの方にも心配されました」と話すトリンドルさんは、「もともと運動は得意ではないので、撮影の1カ月ほど前からアクション監督の方と走ったり体幹トレーニングをしました」と説明。さらに食事面でも肉を多くするなど考慮したといい、「あそこまで自分の体と向き合ったのは初めてだったかもしれない」と感慨深げに語る。
モデルでもあるトリンドルさんだが、体作りという面では「(モデルとは)違います」と言い、「朝昼晩の3食をあんなにがっつり食べることはあまりなかった」と自身のことながら驚く。そして、「現場がものすごく寒かったから体力を消耗するみたいで、ものすごくおなかがすいてしまい、お弁当も毎回残さず食べちゃいました」と言って笑う。
何かに追われて走るだけでなく、恐怖にゆがむ表情も印象的だが、「最初は全然、画(え)がが浮かばなかった」と明かすも、実際に撮影に入ると「現場が栃木や静岡の山の中という大自然の中だったので、まずそこで現実とはかけ離れた感じがしたし、衣装とかも血だらけだったから自然と映画の世界に入っていけた」とトリンドルさんは話す。続けて、「撮影中はカメラが回り出すと一気にミツコになって、終わるとまた自分に戻るという感じ」と表現し、「自分でも不思議な感覚でしたが、これが現場の力」と力を込め、「そういう雰囲気を監督やスタッフさんが作ってくれたんだなと実感しました」としみじみ語る。
真剣な表情からは役への思い入れの強さが伝わってくるが、役に入り込みすぎて普段も追い掛けられている感覚が残ったりすることは?と聞くと、「なかったです(笑い)。とにかく現場自体が非日常的すぎたので、離れると逆に残らなかった。それぐらい見たことのない風景だった」と充実した表情で語る。
◇自分以外の誰かになれるのが楽しい
トリンドルさんは今作も含めて、普段のイメージと異なる役柄を演じることが多いが、「割とくせのあるというか自分とは全然違うタイプを演じることが多い」と自身も感じているといい、「ただどんな役でも一つは共通点があったりする」と話す。「それは見た目なのか中身なのか、どこかのシーンのせりふなのかいろいろですが、どこかに自分と重なる部分がありますね」といい、役をイメージする際は「共通点を探すということから始めるというよりは、役の説明を受けているときや台本を読んでいるときに『これはどこかで感じたことがある』となります」とプロセスを明かし、「それを見つけるとちょっと安心するし役に入り込みやすくなる」と説明する。
個性的な役を演じることを「自分以外の誰かになれることは楽しい」と話すトリンドルさん。今後、演じてみたい役として「今までも自分の想像をはるかに超えたような役が多かったので、監督やプロデューサーさんなど周りの方々の想像にお任せしたい」といい、「もしかしたら人間じゃない役とかもいつかはあったりするのかな」と笑顔を見せた。
◇同世代に特に見てほしい
今作は出演者が女性だらけということでも話題を集めている。「寒くて体力も必要だったので、みんな撮影の合間はずっとお菓子を食べていたのが女子っぽかった」と振り返る。「ストーブを囲んでメインキャストもエキストラで来ている女の子たちも毛布にくるまって座って、衣装や体に『こんなところにも血(のり)がついているんだよ』と見せ合ったりしました」とほほ笑む。そして「いい意味で過酷な現場でしたけど、女子だらけということで女子トークも弾んで裏側はリラックスした雰囲気で楽しかった」と語る。
そんな現場で撮影された今作だが、注目ポイントとして「『リアル鬼ごっこ』はとても有名ですが、今回は女子高生がターゲットというところに面白みというか興味を持っていただけるのでは」と分析し、「園監督のオリジナル脚本でとても感慨深いせりふや考えさせられるようなせりふに注目してほしい」と話す。実際にトリンドルさんも「自分の人生に置き換えて考えているせりふもいくつかある」といい、「撮影をしているときからずっと考えているのですが、難しくてなかなか答えが出ない」と神妙な面持ちを見せる。「内容は見る方によって解釈が違うでしょうし、何回か見ると印象も変わっていくのでは」とアピールする。
何かに追われ続けている役を演じているトリンドルさんに、自分自身が追われて嫌なものを聞くと、「基本的には何でも追われたら嫌ですね」と笑い、「“追われる”という表現にドキッとしてしまいます」と実感を込める。さらに「時間や空腹に追われるのも嫌ですし、人に追われるのが一番怖いかな」と笑顔で語る。
トリンドルさんが演じるミツコの見どころについては、「周りのキャラクターがすごく個性があるのにミツコは全然なくて、真っ白なところから始まっている」と切り出し、「クライマックスに向けて変わっていくところ、成長しているような部分を見てもらえるとうれしい」とメッセージを送る。そして特に見てほしい人として「同世代の方」といい、「同世代の方の反応が気になっちゃいます」と本音をのぞかせた。映画は全国で公開中。
<プロフィル>
1992年1月23日生まれ、オーストリア出身。2009年にデビューし、12年からファッション誌「ViVi」(講談社)のモデルとして活動。同年にはドラマ「黒の女教師」(TBS系)で女優デビューを果たし、CMやドラマ、映画など幅広く活躍している。主な出演作として、ドラマは「ビブリア古書堂の事件手帖」(フジテレビ系)、「ロストデイズ」(フジテレビ系)、「不便な便利屋」(テレビ東京系)など、映画は「呪怨−終わりの始まり−」(14年)などがある。現在、ドラマ「ある日、アヒルバス」(NHKBSプレミアム)、「37.5℃の涙」(TBS系)に出演中。出演した映画「任侠野郎」の公開を今秋に控えている。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)