稲葉敦志氏が贈った“インディーズ系プロデューサー”へのアドバイス。BitSummit来場者へ「責任」の形を伝える | ニコニコニュース

稲葉敦志氏が贈った“インディーズ系プロデューサー”へのアドバイス。BitSummit来場者へ「責任」の形を伝える
4Gamer

 京都・みやこめっせにて,2015年7月11,12日にインディーズゲームのイベント「BitSummit 2015」が開催された。この記事では,2日目に行われたプラチナゲームズの稲葉敦志氏による講演の模様を紹介する。

 プラチナゲームズは大手パブリッシャからの受託開発を事業の中心としており,「インディーズ」としてのイメージが薄いので,今回の登壇は少し疑問が生じるところ。稲葉氏はそれに触れ,プラチナゲームズは設立当時からどこの資本金も受けていない独立したスタジオであり,その意味ではインディペンデントな組織であると語った。

 稲葉氏が今回登壇した理由は,プロデューサーという立場で多くの仕事を一手に引き受けてきた責任として,ノウハウを誰かに伝えていかなければならないと考えており,1人が多くの業務を担わなければならないインディーズデベロッパをその対象に選んだためとのこと。また,そうすることが回りまわってゲーム業界全体の利益になるとも考えているという。

 このような発言を聞くと「引退するのではないか?」との不安もよぎるが,稲葉氏は数が限られたプロデューサーの“座”を誰かに譲るつもりはないと断った。そのうえでインディーズデベロッパにプロデューサーとしてのアドバイスを送るのは,彼らがその“座”を自ら作り出せる世界にいるためとのことだ。

 壇上には,稲葉氏に加えDigital Development Managementのベン・ジャッド氏が登壇。講演はジャッド氏からの質問に稲葉氏が応えるという形で進められた。

 まず,ジャッド氏が質問したのはパブリッシャの内部スタジオと独立系スタジオの違いについて。稲葉氏は大手パブリッシャの内部スタジオについて,大きな思想が存在しない形になりやすく,一方で政治力が重要になってくるとコメント。独立系スタジオについては,思想がその時のパブリッシャとマッチすればよし,マッチしなければそこで終わりという関係で,もちろんミスマッチが多ければ利益を失うというリスクは背負っているものの,政治力の重要性が低いドライな空気が特徴的だとコメントした。リスクはあるが,純粋に開発へ挑めるのが独立系スタジオの強みだと言えるだろう。

 次の質疑は,国内のインディーズデベロッパがなかなか増加しないことについて。稲葉氏は「海外がどういう状態かは完全に理解していませんが」と断りつつ,原因は“日本の教育”にあると説いた。いわく,日本では「出る杭は打たれる」という諺に代表されるような,独立などリスクのあることをすると疎まれるという土壌が存在し,これが独立への歩みを留める障害になっている。しかし近年は社会風潮も変化しているので,日本のインディーズシーンは元気を増していくだろうという展望も述べられた。

 続く話題は独立系ならではの苦労について。稲葉氏は,プラチナゲームズのように規模が大きくなってくると,社員に支払う給与が膨らんでくることは大きな苦労になると語った。とくに同社は受託開発が事業の中心となっているため,会社独自のIP(知的財産権)を持てることが稀であり,“保証のなさ”はつねに存在する。

 そういった困難を抱えながらも,プラチナゲームズという一流の開発スタジオを牽引している稲葉氏。そんな同氏がBitSummit 2015の中で気になったタイトルは,1つがAction Button Entertainmentの「VIDEOBALL」,もう1つがキュー・ゲームスの「Nom Nom Galaxy」だという。「VIDEOBALL」は,まず遊んでいる人が楽しそうだったうえに,デザインや演出が洗練されており,「アイディアを提案されている」というインディーズらしさに好感を覚えたという。「Nom Nom Galaxy」は実際にはプレイしていないながら,プレイ風景を見ていて疑問や発見を感じられたとのこと。次期開発タイトルを協議する際のプレゼンにおいて,“ひっかかるところ”がなければ企画は製品化に向かえないため,そういった部分は重要とのことだ。

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 インディーズは小規模開発になる場合が多いが,稲葉氏が関わった中で最小編成だったのは6人程度だった初代「逆転裁判」,それに続くのが12,3人だった「ビューティフルジョー」だったという。いずれも小規模開発ながら,AAAタイトルに負けないほどの根強いファンを持つ人気タイトル。少人数開発でも,このようなポジションは十分に狙っていける。

 最後に聞かれたのは,スタジオ内での人間関係について。例え優秀な人物でも環境が整っていなければ才能を発揮できず,プロデューサーとしていい作品を作ろうと思ったならば,そういった人々に全力を出してもらえる関係の構築が不可欠だ。

 稲葉氏いわく「優秀なディレクターは人間的に大きな問題があることが多い」とのことで,プロデューサーとなる人間は,付き合いが難しい“優秀なディレクター”と,尊敬しあいながらも真剣にケンカできる必要があると述べた。また,稲葉氏は“優秀なディレクター”の一例として,Twitterで稲葉氏の死亡説を流布させようとしているという神谷英樹氏の名前を上げ,「神谷はXXXXです!」と伏せ字にする必要がある表現で絶賛していた。

リンク:プラチナゲームズ公式サイト

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