変わるもの、変えるもの、変わらないiPad

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変化も永遠?

2010年の登場以来、iPadは処理速度が速くなったりディスプレイがきれいになったり、Touch ID搭載になったりしましたが、その本質は発売から5年が過ぎた今でもあまり変わりません。米GizmodoのBrianは永遠だとも言っています。しかし一方で、使う人にはさまざまな変化を起こしています。ソファーやベッドで気軽にネットを見たり、YouTubeで公開する動画を編集したり、音楽を作ったり、あ、Siriに一言おねがいするだけでApple Musicでテイラー・スイフトの新曲を聴いたりもできますね。いろんな使い方ができるので、たぶん挙げればきりがありません。

その変化のなかでも大きいのが情報インプットの仕方が変わったこと。本を読む、映画を見る、Webを見る。僕らのようなデジタルに囲まれた暮らしをしている人にとっては、ライフスタイルを変えたとも言えるかもしれません。もちろんそれを成り立たせるためのインフラやサービスが成長したことも要因のひとつですが、iPadの登場(もちろんiPhoneも)は、情報取得の方法に大きな変化を起こしたのです(サービスもiPadの登場によって成長した、という見方もありますね)。

そしてiPadは、ただ使う人の見方を変えただけでなく、見るもののかたちを変えることで、目の不自由な方の情報インプットの方法をも変えました。それも「あなたが宇宙旅行に行ける、F1カーを乗りこなせるくらいの感動」レベルで。

iPadによって、目の不自由な方のライフスタイルが変わっていっています。

自分と世界をiPadで繋ぐ


先月、アップルストア表参道でトークイベントが開かれました。話をしたのは、目の不自由な患者さんにiPhoneやiPadの使い方を教え、日々の生活に役立ててもらっている東京大学先端科学技術研究センター客員研究員の三宅琢先生と、視覚障害を持ちながらも柔道でパラリンピックに出場した初瀬勇輔さん。上で書いた宇宙旅行とF1の言葉は初瀬さんのもの。

「視覚障害の人は目が見えないことで困ってるんじゃない。情報にアクセスできないことに困っているんです。バリアフリーと言われるが、視力障害を持つ方は、自分の目が悪いことがバリアーだとは思っていない。周りの情報が視力障害者向けに最適化されていないことがバリアーだと感じている」

お二人が口を揃えて話すこの問題を解決しているのがiPadです。目の不自由な方が、自分と世界との間にiPadを1枚挟むことで、iPadが情報を変化させ、自分に最適化して届けてくれるんです。


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イベント中、初瀬さんがわかりやすいエピソードを話してくれました。中心の視力が落ちていると話す初瀬さんは、iPadを買ってはじめに役に立ったのはカメラだと言います。デフォルトで入っているカメラアプリです。例えば、はじめての人に会うとします。名刺交換をするときに初瀬さんはそのままでは名刺が見えません。ですが、名刺をiPadのカメラで撮影し、拡大すればiPadの大きな画面で相手の名前を知ることができるのです。

これはいつでも持ち運べること、大きな画面があること、カメラが使えること、そしてその写真を簡単に拡大して見られること。この4つの条件を満たしたデバイスでないと実現できないことです。「なんだ、そんなことか」と思うかもしれませんが、これはiPadが登場する2010年以前にはルーペをがんばって覗き込んでやっとできていたこと。iPadが当たり前にある世の中になった今からは想像しにくいことですが(たった5年前のことなのに!)、視覚障害の方が受け取りやすい状態に情報を変化させる「情報のケア」をiPadがサポートしている変化の一例です。


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そのほかにも変化があります。これまでは専用の機械でオーディオ化されている少量の数しか読めなかった本も、電子書籍とiPadを使えば、文字の大きさや色を調整してたくさん読めるようになりました。iPadやiPhoneで聞けるオーディオブックも数が増えてきています。三宅先生が東大での研究で立ちあげた「Access Reading」という読むことに障害のある方のために、教科書や教材の電子データ化や書籍データの提供を行っている取り組みも、iPadで利用できます。iPadを通して目の不自由な方が情報にアクセスするための環境も、徐々に変わり、整ってきています。

変わらないことによって変わること


三宅先生は「iPadは変わらないことがいい」とも話しました。iOSデバイスは画面とホームボタン。必ず画面の下、真ん中にホームボタンがあります。これが初代iPhoneの登場から変わらないスタイルです。視覚障害の方にとって、新しいものの使い方を覚えるのはとても大変なこと。ですがiPadが操作方法が変わらないことによって、一度iPadの操作を覚えた視覚障害の方は、複数のiPadやiPhoneを使うことになっても、iPadを買い替えたとしても、ずっと継続的に、簡単に操作することができるんです。

さらに、この変わらないということは、同じ操作体系のものを使う人がだんだん増えるということ。これは使い方を多くの人に聞けることや、視覚障害だからといって専用の道具を使う必要がなくなるため、街で人の目が気にならなくなるという副次的なメリットも生み出しています。

冒頭でも言いましたが、iPadは米GizmodoのBrianが言うようにいい意味で変わっていません。薄くなったり軽くなったりはしましたが、もともととても薄いですし軽いです。iOSのバージョンが上がるたびにどんどん便利になりますが、初代から5年経った今も本質は変わりません。iPadはiPadです。その変わらないiPadによって、世界のさまざまなものが変わっていきます。


(鈴木康太)

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