私たち人間にとっては見ることと聴くことは全く別の感覚ですが、イルカは超音波を使って物の位置や形を知ることができます。この仕組みはエコーロケーションとか反響定位と呼ばれるのですが、音で見るっていうことがどういうことなのか想像できないですよね。
でも今回、イルカの脳のスキャンによってその仕組みが少し分かったんです。
英国王立協会紀要に掲載された論文によると、エモリー大学の神経科学者たちがイルカ2匹の脳の知覚システムと運動システムのマッピングに初めて成功したそうです。鯨類の神経科学者であり、この研究の共著者であるロリ・マリーノさんは次のように言っています。
何十年にもわたってイルカの脳には聴覚を司る大きい一つの部位があるのだと考えられていました。この研究によって彼らの脳は私たちが分かっていた以上にもっと複雑ということが分かりました。
高周波の音を出して自分の進路を決めたり、エサを見つけたりできるエコーロケーションを持つ動物は非常に珍しいですが、鯨やコウモリなどがその能力を持っています。人間にもエコーロケーションの一種を習得した人たちはいるとのこと。
ただイルカの持つこの能力は飛び抜けて高く、砂の中に隠れている魚も感知することができるぐらいなんです。
「イルカは動物が持つソナー能力の中で一番洗練された能力を持っています。かれらは素早く視覚と聴覚を切り替えることができます」とマリーノさんは言います。
しかしこの精巧なソナー能力がどうやって存在してるのはずっと謎のままでした。というのもイルカの脳を調べるのって結構な手間だからですね。幸運にも、エモリー大学には座礁して死んでしまった鯨類の脳がたくさん寄付されていました。
拡散テンソル画像(DTI)を使って撮影されたイルカの脳の神経経路。
この新しい研究では、科学者たちはDTI(拡散テンソル画像)と呼ばれる技術をつかって2種類のイルカの脳のスキャンを撮影しました。どちらも10年以上前に座礁して死んだものだったそうです。
脳内の血流をとらえるMRIとは違って、DTIは脳内のつながりをマッピングしてくれます。そのため脳に入ってくる情報がどのように処理されているか、詳しく知ることができるんですね。脳のスキャンにはなんとそれぞれ12時間もかかったそうです!
その結果分かったのは、聴覚と視覚を担当している部位がはっきりと聴神経でつながっていたということです。
このようなスキャンは史上初だったので、その結果さらにたくさんの疑問が科学者の間で生まれています。 研究のリーダーであるグレゴリー・バーンズさんはメールでこう答えました。
今回研究したのはイルカの脳で、イルカはエコーロケーションを使う、歯を持つ鯨類なわけだが、他の鯨類、シロナガスクジラを含む特にヒゲクジラの仲間はエコーロケーションの能力を持っていない。もしもこの種族の脳のサンプルを使うことができれば、脳のうちどの部分が通常の聴覚に使われていて、どの部分がエコーロケーションに使われているのかきっちりと知ることができます。
今回の研究で、脳をスキャンして研究するという手法が有効であることが証明されました。それを受けて、博物館に入っている動物の脳のサンプル全てをDTIスキャンにかけることにバーンズさんは期待をしています。それによって動物がどうやって思考しているのかより理解できるということです。もしかして、将来的には脳のサンプルから絶滅した動物の思考パターンを再構築できるようになるかもしれないですね。
image by Gregory Burns / Emory University
source: Emory News
Maddie Stone - Gizmodo US[原文]
(塚本 紺)