「GeForce GTX 980 Ti」レビュー。649ドルで登場した「一般ユーザー向けフラグシップ」は,GTX TITAN Xキラーか

 2015年6月1日午前7:00,NVIDIAはウルトラハイエンド市場向けGPUの新製品「

GeForce GTX 980 Ti

」(以下,

GTX 980 Ti)を発表した。

 GTX 980 Tiはその名のとおり,「

GeForce GTX 980

」(以下,GTX 980)の上に置かれるGPUで,一般ゲーマー向けとなるGeForce GTX 900シリーズのフラグシップにして,「

GeForce GTX TITAN X

」(以下,GTX TITAN X)の下位モデルとなる。

 GTX 980で採用されるGPUコアが「GM204」のフルスペックであることからして,その上位モデルであるGTX 980 TiのGPUコアが「GM200」の一部削減版であることは容易に想像できるという読者も少なくないだろうが,では,その実力はどれほどか。入手したGTX 980 Tiリファレンスカードのテストを通して明らかにしてみたい。

GTX TITAN X比でSMMが2基少なく,メモリ容量が半減した「だけ」のGTX 980 Ti

 前段でネタばらししてしまったが,GTX 980 Tiが搭載するGPUコアは,GTX TITAN Xと同じGM200だ。つまりは第2世代Maxwellアーキテクチャに基づくGPUということになる。つまり,シェーダプロセッサ「CUDA Core」が32基で,スケジューラやロード/ストアユニット,超越関数ユニットとともに1つのパーティションを構成する点や,そのパーティション4基とジオメトリエンジンたる「PolyMoprh Engine」,それにL1キャッシュや8基のテクスチャユニット,容量96KBの共有メモリで演算ユニット「Maxwell Streaming Multiprocessor」(以下,SMM)を構成する点,4基のSMMがラスタライザ「Raster Engine」と組み合わされてミニGPU的な存在の「Graphics Processor Cluster」(以下,GPC)を構成する点においては,GTX TITAN Xと完全に同じである。

 では何が違うのかというと,GTX 980 TiではGM200のフルスペック比でSMMが2基減っている。1基のGPC内で2基のSMMが無効化されているのか,2基のGPCで1基ずつ無効化されているのかは明らかになってはおらず,過去の実績からして,おそらくどちらもあり得ると思われるが,いずれにせよ,GTX TITAN Xの場合,CUDA Coreの総数は 32(パーティション)×4(SMM)×4(GPC)×6 で3072基となっていたが,GTX 980 Tiでは,これが2816基と,約92%の規模となったわけだ。

 ちなみに,GTX 980の2048基と比べた場合の規模感は約138%なので,GPUコアだけでなく,総CUDA Core数という点でも,GTX 980よりGTX TITAN Xに近いということになるだろう。

 もう1つの違いはグラフィックスメモリ容量で,GTX 980 Tiでは,GTX TITAN Xの12GBから半減となる6GBに変更されているのがポイントだ。

 一方,上のブロック図から想像できるとおり,ROP数が96基,メモリインタフェースが384bitというメモリ周りの仕様は,GTX TITAN Xと完全に同じ。念のため,CUDAの開発キットに付属する,CUDAデバイスの能力を調べるためのツール「DeviceQueryDrv.exe」を実行してみたが,L2キャッシュ容量にも違いはなかった。

 となると気になるのは動作クロックだと思うが,実のところ,これもGTX TITAN Xと同じだ。GPUコアクロックが1000MHz,ブーストクロックが1075MHz,メモリクロックが7010MHz相当(実クロック約1753MHz)で,まったく変わっていない。

 ただし,MSI製のオーバークロックツール「Afterbuner」(Version 4.1.1)を用い,後述するテスト環境で確認したところ,GTX TITAN Xの最大ブーストクロックが1177MHzなのに対し,GTX 980 Tiでは1202MHzまで達することを確認できた。NVIDIAによると,GTX TITAN XとGTX 980 Tiでリファレンスクーラーの仕様は変わらないとのことなので,SMMが減った分だけTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)の余裕が増し,それがクロックの向上につながったのではないかと考えられよう。

 というわけで表1は,GTX 980 Tiの主なスペックを,今回はGTX TITAN XおよびGTX 980,デュアルGPUカード「GeForce GTX TITAN Z」(以下,GTX TITAN Z),GeForce GTX 700世代の一般ゲーマー向け最上位モデル「GeForce GTX 780 Ti」(以下,GTX 780 Ti)とともにまとめたものである。

 ここまで紹介したとおり,GTX 980 TiのスペックはGTX TITAN Xと非常によく似ている。GTX 980 Tiは,GTX TITAN XからSMMを2基削減し,グラフィックスメモリ容量を半分にしただけのモデルとさえ言えるかもしれない。

GTX TITAN Xと同じ基板に,GTX 980のクーラーを搭載? カード背面の補強板は省略

 ここで,入手したGTX 980 Tiリファレンスカードを概観しておこう。

 カード長は実測で約268mm(※突起部除く)で,これは,GTX TITAN XやGTX 980リファレンスカードとほぼ同じ。GPUクーラーが2スロット占有タイプなのも変わらず,銀色をしたその外観は,GTX 980リファレンスカードと瓜二つだ。GPUクーラー上の「GTX 980 Ti」という刻印がなければ見間違うレベルである。

 GPUクーラー自体は,色を除くとGTX TITAN Xに搭載されていたものから変わっていないとのことなので,GTX 980のそれとも大差はないはずだ。

 ただ,上の表1で示したとおり,補助電源コネクタの構成は,GTX 980の6ピン×2から,GTX 980 Tiで6ピン+8ピンに変わっている。また。GTX TITAN Xの発表時に,NVIDIAはGTX TITAN Xのカード背面側に補強板がない理由として「SLI構成時のエアフローを考えると,そのほうが効率的だから」としていたが,その仕様がGTX 980 Tiでも踏襲されていることは押さえておくべきだろう。

 さて,GPUクーラーを取り外すと基板を確認できるわけだが,その見た目は,使われている部品から配置に至るまで,GTX TITAN Xとまったく同じ。電源部が6+2フェーズ構成である点や,搭載されるグラフィックスメモリチップがSK Hynix製GDDR5 SDRAM「H5GQ4H24MFR-R2C」(7Gbps品)である点も,GTX TITAN Xから変わっていない。

 なお,記憶力のいい読者は,GTX TITAN Xで,NVIDIAは「鳴き」対策を行ったとアピールしていたが,筆者がレビューに使った個体では鳴いてしまったという話を覚えているかもしれない(

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)。それもあって確認してみたのだが,今回入手したGTX 980 Tiカードで,鳴きはまったく確認されなかった。ちなみに,今回別途入手したGTX TITAN Xカードでも鳴きは確認されていない。

 先のGTX TITAN Xレビュー時に筆者の入手したカードだけが運悪く鳴く個体だったということなのだろう。

グラフィックスドライバは352.90を利用

EVOLVEとFFXIV蒼天のイシュガルド ベンチを実施

 今回のテストにあたっては,

表1

でその名の挙がったGPUを用意した。GTX TITAN XおよびGTX 980だけでなく,前世代のフラグシップ製品とも比較し,GTX 980 Tiの立ち位置をより明確にしようというわけである。

 用いたグラフィックスドライバは,NVIDIAから全世界のレビュワーに配布された「GeForce 352.90 Driver」。そのほか,テスト環境は

表2

のとおりとなる。

 テスト方法は基本的に4Gamerの

ベンチマークレギュレーション16.0

に準拠。NVIDIAは,GTX 980 Tiのターゲットとして4Kを想定しているため,今回は3840×2160ドットと2560×1600ドットの2パターンをテスト解像度として採用することにした。

 それもあって,3840×2160ドットがテスト解像度として用意されていない「BioShock Infinite」を省略。今回はその代わりに4対1の非対称対戦アクションである「EVOLVE」を追加した。EVOLVEでどのようにテストするかはGeForce GTX TITAN Xのレビュー記事を参照してほしいが,簡単にいうとチュートリアルを「GOLIATH」でプレイし,プレイ開始後1分間のフレームレートを「Fraps」(Version 3.5.99)で取得するというものだ。グラフィックス設定では,「標準設定」の代わりにプリセット「Middle」を,「高負荷設定」の代わりに同「Very High」を選択する。

 また,レギュレーション16では「ファイナルファンタジーXIV」のテストとして,DirectX 9対応の「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編」を指定してあるのだが,これも,4月27日に公開された「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド ベンチマーク」(以下,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチ)に変更した。

 FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチの利用にあたっては,グラフィックスAPIにDirectX 11を選択のうえ,「標準設定」の代わりに「標準品質(デスクトップPC)」(以下,標準品質)を,「高負荷設定」の代わりに「最高品質」をそれぞれ利用。テストは1回だけ実行し,そのとき得られたスコアをそのまま採用する。詳細は

5月9日に掲載した検証記事

を参照してほしい。

 なお,テストにあたって,CPUの自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」は,マザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化している。これは,テスト状況によってその効果に違いが生じる可能性を排除するためだ。

スコアはGTX TITAN Xに肉迫する場面も

GTX 980比では約3割増しの性能か

 テスト結果を見ていきたい。


グラフ1

は,「3DMark」(Version 1.5.893)の総合スコアをまとめたものだ。GTX 980 Tiのスコアは,GTX TITAN Xの97%といったところ。対GTX 980で25〜28%程度高いスコアを示してGTX TITAN Zに並んでいる点や,GTX 780 Tiに対して「Fire Strike Ultra」で約59%高い数字を叩き出している点も見逃せない。

 続いて「Battlefield 4」(以下,BF4)の結果が

グラフ2,3

だ。BF4では,「デュアルGPU構成ながら,メモリ周りに大きな足枷がかかっている」という特殊な仕様のGTX TITAN Zがスコアを大きく乱高下させているため,シングルGPU構成の安定感が相対的に印象深い。

 GTX 980 Tiのスコアは,GTX TITAN Xにあと一歩というところ。GTX 980に対しては25〜32%程度,GTX 780 Tiに対しては43〜57%程度高いスコアを示している。


グラフ4,5

は「Crysis」の結果となる。ここではデュアルGPUソリューションであるGTX TITAN Zがトップに立ったが,GTX 980 Tiは,GTX TITAN Xのすぐ後ろといったところで,かなりいい立ち位置にいる。対GTX 980でのスコアは126〜131%となっており,3DMark,そしてBF4の結果をほぼそのまま踏襲した。

 ここまでのテスト結果とは若干異なる傾向が出たのが

グラフ6,7

のEVOLVEだ。EVOLVEでは,Mediumの解像度2560

×

1600ドットでこそ,GTX 980 TiはGTX TITAN Xに迫るスコアを示すのだが,それ以外では81〜86%程度と,スペックの違いを大きく超えたスコア差を付けられてしまうのだ。

 これは端的に述べて異常というほかないが,理由はよく分からない。グラフィックスドライバがGM200-310コアに対して最適化されていないということかもしれない。


グラフ8,9

は「Dragon Age: Inquisition」(以下, Inquisition)の結果だが,ここではGTX 980 Tiのスコアが再び安定し,対GTX TITAN Xで95〜98%のスコアを示している。GTX 980にはギャップを若干詰められているが,それでもスコア差は26〜28%程度だ。

 FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチだと,標準品質の2560

×

1600ドットで相対的なCPUボトルネックによってスコアの頭打ちが見られるが,それを抜きにしても,GTX 980 TiとGTX TITAN Xのスコア差は,体感できるレベルでは存在しないと言い切ってしまって差し支えない(

グラフ10,11

)。最高品質の2560

×

1600ドットで,スクウェア・エニックスの示す最高指標「非常に快適」のラインを大幅に上回っている点にも注目しておきたい。


グラフ12,13

の「GRID Autosport」でも,標準設定の2560

×

1600ドットなど,描画負荷が低い局面で,EVOLVE同様,ドライバの最適化不足と思われる結果が生じている。ただ,高負荷設定の3840

×

2160では,3DMarkやBF4などとほぼ同じ傾向を示しており,GTX 980 TiはGTX TITAN X比で約99%,GTX 980比で129%,GTX 780 Ti比で149%というスコアになった。

消費電力もGTX TITAN Xとほぼ同程度

GTX 780 Tiよりは確実に低い

 GTX 980 TiのTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)は250W。GTX TITAN Xとまったく同じで,GTX 980比では85Wも高いが,実際の消費電力はどの程度だろうか。ログの取得が可能な「Watts up? PRO」を用いてシステム全体の消費電力を測定,比較してみたい。

 テストにあたっては,ゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイの電源がオフにならないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。

 結果はグラフ14のとおり。まず,アイドル時だが,これはデュアルGPUカードであるGTX TITAN Z以外横並びという理解でいいだろう。

 一方のアプリケーション実行時だと,GTX 980 TiはGTX TITAN Xより2〜9W,GTX 780 Tiより10〜23W低く,GTX 980よりは65〜74W高い。「消費電力は,SMMの分だけわずかにGTX TITAN Xより低いもののほぼ同等,GTX 780 Tiよりは若干ながら確実に低いが,GTX 980の優秀性には歯が立たない」という理解が正解であるように思われる。

 最後に,GPUの温度も念のため確認しておこう。ここでは3DMarkの30分間連続実行時点を「高負荷時」とし,アイドル時ともども「GPU-Z」(Version 0.8.3)からGPU温度を取得することにした。なお,テスト時の室温は24℃。システムはPCケースに組み込まず,いわゆるバラックの状態に置いてある。

 本稿の序盤でも述べたとおり,GTX 980 TiとGTX TITAN X,GTX 980の三者においてGPUクーラーはおそらく同じもので,GTX 980 TiとGTX TITAN Xでは温度センサーの位置も同じ可能性が高い。ただ,ファン回転数の制御方法は異なる可能性があるため,横並びの比較に,やはり意味はない。その点はくれぐれも注意してもらいたいが,グラフ15は,最近のGeForce上位モデルと同様に,高負荷時のGPU温度が80℃強になるよう制御されているとはいえるだろう。

 なお,気になるGPUクーラーの動作音も,筆者の主観であることを断ったうえで述べると,GTX TITAN XやGTX 980とあまり変わらないように思えた。ウルトラハイエンド向けとしてはかなり静かだ。

GTX TITAN Xより350ドル安い649ドルで登場

50ドル値下げされるGTX 980も要チェックか

 NVIDIAによると,北米市場におけるGTX 980 Tiのメーカー想定売価は

649ドル(税別)

。同999ドルのGTX TITAN Xと比べて350ドルも安価になる。EVOLVEなど一部で見られた不可解な結果を除けば,ベンチマークテスト結果に350ドルもの違いがあるとは到底言えないことからして,これはかなり魅力的な設定と述べていいのではなかろうか。

 NVIDIAの担当者は,GTX 980 Tiを説明する話のなかで,「GTX TITAN Xはスーパーカーで,一部の熱狂的なユーザー向けの製品」と述べていたが,たしかにGTX 980 Tiは,ほとんどのゲーマーにとって,GTX TITAN Xを選ぶ必要性を薄れさせる性能を持った“一般ユーザー向けのフラグシップ”といえそうだ。

 GTX 980 Tiの税別649ドルというのをドル円相場ベースで単純計算して1.08を掛けると約9万円(※2015年6月1日現在)。ただ,GTX TITAN Xの税込実勢価格は13〜15万円程度なので,そこから350ドル(約4万3400円)安価と計算すると,8万円台後半から10万円程度といったあたりが,GTX 980 Tiの適正価格ということになるだろうか。残念ながら,発売当初はそれを大きく超える価格で出てきそうだが,Windows 10がリリースされる頃に,各社のオリジナルデザイン採用モデルが出揃い,また価格がこなれてくるようだと,DirectX 12世代に向けて面白い存在になるのではないかと思う。

 また,GTX 980 Tiの発売に合わせて,NVIDIAがGTX 980の価格改定を行っており,リファレンスデザイン採用モデルの北米市場における税別想定売価レベルが従来の549ドルから499ドルに引き下げられた点も見逃せない。別記事でお伝えしているとおり,GTX 980 TiとGTX 980でサポートされるDirect3Dの機能レベルは同じなので,日本市場の店頭価格にもこの50ドルがきっちり反映されるなら,こちらも再度,要注目の存在になってきそうだ。

NVIDIAのGeForce製品情報ページ