アップルは認めたくないのかもしれませんけど……。
なんら事前に大がかりな告知もなく、いきなり静かにアップデートが発表された「iPod touch」の謎。
「ゴールド」の新色などを追加するくらいの小技しか繰り出せなくなったアップル。特に海外においては、これはもうアップルの勢いに陰りがみえはじめた証拠だとの厳しい指摘まで相次ぎ、デザイン面でのアップルの革新が終わった一面でしかないと酷評するメディアまで出てきましたよ。
とりわけアップルが、iPod touchにゴールドモデルを追加してきたのには、急成長する中国マーケットで勝利を収めるうえでは欠かせない戦略だったんだとか。とかくゴールドを成功と豊かさの証ともてはやす中国人の購買力は、いまやアップルにとっても無視できないものがありますでしょうからね。
それにしても、もしや消えゆく存在なのかとまで懸念されていたiPod touchは、いったいどこへ向かっているのでしょうか?ただ派手なゴールドやブルー、ピンクなどのカラーリングでアップデートをアピールするだけのモデルになってしまったの?いえいえ、実は今回の第6世代モデルのiPod touchこそ、アップルが狙う新市場への布石となる、まさに最高傑作だとする好評価まで飛び出してきているんです!
そもそもアップルにとっては、ゴールドをはじめとする目立つカラーリングなんて、それほど新しいiPod touchでは重視されていないとする説があります。むしろ、本当に大切なのは中身。これまでのA5チップに代わるA8チップや、M8モーションコプロセッサに8メガピクセルのカメラなどなど、大刷新されたスペックが意味するものとは?
そうなんです。新たに発表されたiPod touchは、iPhoneに匹敵する仕様を備えているのにお気づきでしょうか? それでいて、携帯電話キャリアとの複数年契約が本体価格の割引の前提となるSIMカードを入れるスロットは備わりません。ですから、最新のiPhone 6やiPhone 6 Plusと比較すると、格段に安い! つまり、まぎれもなくiPod touchこそが、iPhoneの低価格モデルに位置づけられる時代の到来を印象づけるモデルと評価されているんですよね。
正直に言いまして、やっぱりiPhoneは高いです。先進国のユーザーでなければ、普通は容易には手が出せません。でも、iPhoneの高性能な処理能力や美しいカメラには定評がありますから、手に届かない宝物のようなモデルですけど、iPhoneに憧れるユーザーは、いわゆる発展途上国とされる地域にもたくさん住んでいます。なんといっても、アップルのブランド力は絶大ですし、iPhoneなんて持っているだけでステータスシンボルですからね~。
そこで、ただ携帯電話としての機能のみを削った低価格iPhoneの位置づけで、Wi-Fi環境にてバリバリと最新のiPhone並みに使えるiPod touchを売り出せば? きっとアップルは、新しいiPod touchで、この需要を本気で試そうとしているんだと思いますよ。そもそも、すでにAndroidには、数々の激安モデルが登場し、とにかく低スペックでもスマートフォンを使ってみたい発展途上国市場のユーザーから大いに支持されてきました。いまや大失速が懸念されているWindows Phoneだって、意外と低価格モデルは世界で根強い支持を集めていたりもしますからね……。
先進諸国では、すでにスマートフォンやタブレットという市場が飽和状態に近づきつつあるとも指摘されてきました。そこで、新たな市場を開拓すべく、今年はアップルもApple Watchを投入してスマートウォッチに本腰を入れてはきましたよね。でも、思うような普及速度を記録するにはいたっていないとのデータまで出てきているようです。むしろ、まだインターネットもスマートフォンも自由に使えないユーザーが多数残る未開の市場を狙うのはいかが?
これこそが、いま世界のメーカーが競ってターゲットにしているフロンティアなのかもしれませんよ。例えば、グーグルは、まだインターネットが普及していない、世界の何十億人という新たな市場へ、空からでもネット接続環境を整備して届け、これまでリーチされていないユーザー層へのアプローチを明確に打ち出しています。オフラインでも使えるGoogle MapやYouTubeという取り組みは、その一環でもあるのでしょうね。Facebookだって、アフリカへの進出強化や、ドローンから無料のインターネット接続サービスを提供するプランをテストしていたりしますよね。
アップルも、かつて廉価版のiPhoneと称して「iPhone 5c」を投入する作戦へと舵を切ったのかなと期待されていたこともありました。でも、実際のところは、iPhone 5cは、正確には廉価版と呼ぶには値段が高すぎましたね。それでいて、値段のわりには非力かつ機能制限があったりと不評。なんだか中途半端な存在のまま、姿を消していく運命にあるのでしょう。
ところが、アップルは、iPod touchにて、再び格安iPhoneを求める市場へと挑戦する? このiPod touchをめぐる指摘は、かなり当たっているのではないかなとも感じます。もちろん、アップルは公には、そんな狙いを一言も口に出してはいません。むしろ、今回のiPod touchの静かなるアップデートの発表スタイルからして、あまり注目を集めたくはないという真意も見え隠れしているでしょうかね。だって、通常の高額のiPhoneが売れるほうが、アップルにとっては儲けになりますからね。
しかしながら、よく考えれば考えるほど、第6世代のiPod touchの完成度は高いですよ。最新のiOS 8.4が搭載されており、これから数世代にわたって、新iOSへのアップデートもサポートされることでしょう。当然ながら「Apple Music」だって使えます。なによりも、4インチのRetinaディスプレイは、小型のコンパクトiPhoneがほしいなと願っていたユーザーにだって受けるのでは? これでWi-Fi接続で、バリバリと音声通話ができる各種サービスを導入しておけば、iPhone並みの使用スタイルだって可能になるかも。ふたを開ければ、新iPod touchは、意外なる大ヒットモデルとして成功を収めていくのかもしれませんよ。
Kelsey Campbell - Gizmodo US[原文]
(湯木進悟)