2012年にカード型サイズの教育向けの小型PCとして登場し、はや3年が経つRaspberry Piですが、今はどのようなことになっているのでしょうか?Raspberry Pi財団の公式フォーラムのモデレータの一人であり日本のRaspberry PiのコミュニティであるJapanese Raspberry Pi Users Groupの代表の立場からお話したいと思います。
1.3年目にして突如とRaspberry Pi 2リリース、ただしあくまでも正常進化
あまりに寝耳に水な話なくらい突然、クアッドコアのCortex-A7ベースのRaspberry Pi 2がリリースされるとのお知らせが財団よりありました。Raspberry Piは従来ARM11のシングルコアのもので、創業者であり開発者でもあったEben Uptonはそのサポートされるソフトやハードの充実や本体の安定性を重視し、AがA+にBがB+に俗にいうマイナーチェンジを重ねてきて、ある意味CPUのスピードが遅いという反面、安定性は安心の一つでした。 しかし、今回のCPUをA7ベースに変える『大幅変更』は財団として認めていない『Raspberry Pi互換機』とベースが同じになり、製品の明確な差別化がまず疑問としてありましたが、最初の説明が、従来のRaspberry Piとの下位互換性をとる具体的方法であったため、あくまで『正常進化』を主張するものとなりました。 実際この『正常進化』はAdafruitなど多くの周辺機器ベンダーには一助となって多くのものが難なくRaspberry Pi 2への対応を容易なものとしました。いまではかなり早いペースにて各周辺機器ベンダーには対応いただいたこともあり、いままでのRaspberry Pi 1とほぼ同様に、GPIOポートなどに挿し再起動するだけで認識するものがほとんどとなっております。 またこれに合わせて、ケースや無線ドングルといった純正の周辺機器がリリースされました(*注1)。これらはあくまで使用する上でスターターキットのような一例としてのものとして使われることを想定においてます。
2.教育での利用がだいぶ浸透し、多様なニーズに対応
Raspberry Piなどこの手の小型サイズPCといえば日本では電子工作への応用がもっとも多い用途と思われますが、本国イギリスや海外ではもっとも多いのが教育現場でのプログラミングを主とした利用です。 昨年筆者は10月にケンブリッジにあるRaspberry Pi財団を訪問してきました。いろいろな財団のメンバーの方とお話する機会をいただいたのですが、Eben Uptonが所属するBroadcom社のメンバーもさることながら、イギリスの学校関係者・教育関係者が多くメンバーとして在籍しています。彼らはほぼ毎日、Raspberry Piを利用した教育用のもろもろを朝から夕方まで討議しているとの話があり、財団があくまでRaspberry Piは教育向けのPCであるという位置付けが強いということが実感できました。また彼らのオフィスにある会議室の一部には、写真にあるような子供たちからのRaspberry Piを使ったアイデアを書いた手紙がびっちりと貼り付けてある会議室もあり、Ebenも自慢げに説明してくれたのが今だ印象に残っています。
Ebenと会議室 with RAPIRO
3.Raspberry Piを用いたさまざまな事例
今年になっての動きとしては、宇宙でRaspberry Piを使うAstroPi(*注2)や天気を調べるWeather Station(*注3)など財団が中心となって進めてきたプロジェクトが具体的に動き出してきたのと、多くの子供たちからのRaspberry Piを使ったプロジェクトが広がってきたことで、多分今後もさらに多くの事例が増えていくと思われます。また、いままで善意の方々の協力で行われていたRaspberry Piのオンライン雑誌であるMagPiを財団内部に取り込み、ここでも多くの子供たちへのRaspberry Piを使ったアイデアが示されていることからも、今後より多くの力を教育での事例の創出に力をいれるのではと思っております。 またRaspberry Piの教育認定プログラムのPiAcademy(*注4)もイギリス本国だけでなく今年よりアメリカでも開始されました。昨年財団に訪問にいったときに財団メンバーでかつ中学校で情報の教員をやっているCarrie Anne Philbinさんとお話をしたのですが、情報教育における手法についてはいろいろ工夫が必要だとのことで、こういう認定プログラムなど教育を行う側へのコンテンツも充実が図られるのではと思っております。 日本でもはじめは電子工作をやってきた主にAndroid系のハードウェア系の人やITエンジニアを中心としたバズワードのようなブームから落ち着き、CANVASなどを中心に小学校・中学校の層が、高校や高専・大学でも情報系の先生方が中心となって技術系の教材として取り入れられカリキュラムの中に取り込まれるようになってきました。35ドルという価格がPCをある意味『壊しても問題なく壊したということ自体を教育にできる』ということがある意味魅力であると述べられた先生もいらっしゃいました(*注5)。またある先生からは財団が力をいれてきた教育用アプリケーションのインクルードも魅力であるというお話もいただきました。財団は今後もこの教育用アプリなどについてもインクルード、使いやすさの強化を図ることから、今後日本でもこの教育機関でのRaspberry Piの浸透は、プログラミング教育の注目が昨今集まっていることも相まって、進んでいくことでしょう。 他方多くの企業でサンプル的な使用例や製品のソリューションとしてRaspberryPiが使われるようになりました。もともとはVolumioなどオーディオ系アプライアンスOSが動いていたこともあったり、データロガーや簡易なルータとして企業で使われる例はあったのですが、昨今ではMySQLやCassandraなどOSSのサンプル的な使用例として使われたりAdafruitが匿名通信ソフトのTorとの組み合わせでOnionPiとかIoTではPlanexのCloudPiなど製品ソリューションとしてのものもふえました。Raspberry PiベースのロボットであるRAPIROや農業作業用ロボットを使った農作業の自動化などは日本での注目すべきRaspberry Piのプロジェクトとして見られております。実際これらでは、x64PCやArduinoなどと比べるとスピードが遅かったり組み込みの扱いやすさとしてはやや劣る部分がありますが、汎用性の高さから今後も多く利用されていくものと思われます。
MySQL Cluster(OSCより)
4.さいごに
今後も引き続き『正常進化』は維持、コンテンツとソリューションの充実 Ebenからは汎用としてのRaspberry Pi 2と組み込み機器などの利用で省電力性の高いRaspberry Pi A+が主力製品になるだろうとの話を受けています。いままでもどちらかというとハード本体の強化を図るより、インクルードされるアプリや周辺機器のサポート、さらにAstroPiなどのプロジェクトやPiAcademyのようなコンテンツに力をいれてきました。今後もこのスタンスは変えないと思います(注6)。またRaspberry Pi 2はA7になったことでWindows10 IoTやUbuntu Core/MATEなどコミュニティやベンダーがサポートしてくれるようになり財団はこの動きをおおいに歓迎し、一部は協力もしております。この動きも加速することでしょう。 ユーザというサイドから見れば一つ落ち着いたRaspberry Piですが、今後の動きも目が離せないと思います。
(注1)液晶ディスプレイが発表されているがリリース日は未定。
(注2)http://astro-pi.org/ 余談だが、日本で物議を醸した『ロンギヌスの槍を月に刺すプロジェクト』(https://readyfor.jp/projects/evangelion)のことは財団内部で話題になった。このプロジェクトでもRaspberry Piが利用されている。
(注3)https://www.raspberrypi.org/school-weather-station-project/ が協力してくれている
(注4)https://www.raspberrypi.org/picademy/ 日本ではCANVASが行っているPEG(http://pegpeg.jp/)がそれに近いことを行っている。
(注5)実際Raspberry Piはこの手のカードサイズのPCボードと比べ頑丈に設計されていて、Eben Upton曰く子供が粗雑な扱いをしてもよほどでない限り壊れないとのこと。
(注6)もちろん致命的かつ利用する上で支障がでるような部分についてはリビジョンアップしていく対応は継続的に行われる。例えば、BからB+ではUSBの抜き差しによるリセットの防止のため、電源強化が図られた。同様にRaspberry Pi 2で問題になっているキセノン・デス・フラッシュ問題も対応予定になっている。