7月29日に通算10枚目のフルアルバムとなる「Bitter,Sweet & Beautiful」をリリースする、“King of Stage”こと「RHYMESTER」(ライムスター)。日本のヒップホップシーンの先頭に立ち、常に新しい道を切り開いてきた一方で、アナログレコードを使ったDJプレイにこだわりを見せるなど、他のヒップホップグループとは一線を画したスタイルを貫いています。
いわば、RHYMESTERは日本にヒップホップという文化を広めた“イノベーター”なのです。
そこで、日本のヒップホップ黎明期から活動を続け、シーン拡大の旗手として突き進んできたRHYMESTERが、どんな道を歩んできたのか、そしてどのようにヒップホップにイノベーションを起こしてきのか。ギズモードの角度からインタビューを敢行しました。
なお、今回のインタビューは前後半の2部構成。しかも、ほぼノーカットでお届けします。最初から最後まで内容が濃すぎて、削るのがもったいない! ということで、ものすごく長くなっております。ご了承ください。
それから、時折、専門性の高い言葉も出てきます。そのような言葉は注釈を見てみてください。
それでは、RHYMESTERとギズモードの「言葉のセッション」をお楽しみください!
ギズモード編集部(以下ギズ):今日はよろしくお願いいたします。さっそく本題です。日本でもヒップホップが一般的に認知されるようになったと思いますが、その歴史の中でブレイクスルーになった出来事といえば何でしょうか?
宇多丸さん:「今夜はブギー・バック」(※1) のヒットも大きなポイントだし、「8 mile」(※2)のヒットというのも関係あると思いますが、「さんピンCAMP」(※3)がビデオになったことじゃないですか。
当時のアンダーグラウンドの動きって記録されていても活字でこういうことやりましたというだけだったりして、起こったこと、起こっていることを動画で記録して、来れなかった地方の人とか下の世代の人も、繰り返し見られて、こういう歴史があったんだって実感できるようになったのは大きかったと思います。僕自身、そこから得たメリットが大きくて。
Mummy-Dさん:イベント自体は3,000人しか見ていないですからね。
ギズ:その場にいた人たちは共有できた空間、時間だったわけですが、それがビデオ化されたことによっていろんな人が共有できるようになったということですからね。
宇多丸さん:時代も超えて。
Mummy-Dさん:SNSもなかったからね。
宇多丸さん(Rap)
宇多丸さん:そうだね。今だったらDEV LARGE追悼イベント(※4)とかも、リアルタイムで動画をアップしちゃっていいのかって話もありますけれど(笑)まさにあれなんかは、入りきれなかった人がたくさんいるイベントだし、来れなかった人もいると思うから、そういう人が同時に体感できたというのは、わかりやすいと思うけど。
それまでっていうのは、クラブとかで一晩一晩やっていましたけれど、それこそクラブなんてのは10人単位しかいないわけで。さんピンCAMPの3,000人というのは、当時としては考えられない規模だったけれど、それでも3,000人とそれのレポート記事だけだったのが、ビデオ化された。それでRHYMESTERを初めて見た人が多くて。例えばクラブで呼ばれる機会もすごい増えたし、すごくメリットを得たんですよね。
ギズ:RHYMESTERにとっても、さんピンCAMPのビデオ化はターニングポイントだったと。
宇多丸さん:イベントそのものは反省の多いものでしたけどね。
Mummy-Dさん:その当時、僕らはPVも作ってなかったから。なので、動いているRHYMESTERが見れるみたいな(笑)
ギズ:まだ見ぬ強豪的な(笑)
Mummy-Dさん:だって「耳ヲ貸スベキ」(※5)が最初のPVでしょ。
宇多丸さん:そうだね。
Mummy-Dさん:「耳ヲ貸スベキ」をあの時初めてやってるから。PVもなかったんだよ。ひどいね(笑)
ギズ:それは意図があってなんですか?
宇多丸さん:その規模だったということなんです。ビデオ作るような規模ではやってなかったという。
ギズ:そういうさんピンCAMPのビデオ化から、RHYMESTERがシーンに出てきて知られるようになって、それと共にヒップホップというものが一般的にも浸透していったと思うんですけれど、お三方がヒップホップを一般の社会に拡大していくために、意識していることはありますか? 通常のCDをリリースしたりはもちろんその一環だと思うんですけれど。
Mummy-Dさん:今はもう広がっちゃってるから、どうなのかなー。
ギズ:以前は意識していたことがあるんですか?
Mummy-Dさん:たまたま間違えて来ちゃったお客さんに、どう楽しむのかっていうことから説明してたと思うんですよね。DJはどんなことやってますよとか。
宇多丸さん:今もやってるけどね。
Mummy-Dさん(Rap / Total Direction / Produce)
Mummy-Dさん:DJはこんなことやってますよとか、あと、ラッパーは韻というものを踏んでますよとか、わかりやすくバトルをやってみせたりとか。そういうことですかね。
当時は、自分たちで全部フライヤーも作んなきゃいけなかったし。ほんと、ここまで大人の力を借りないで、ポーンと爆発したムーブメントというのは珍しいと思うし。そこだけは自慢できます、いつまでたっても。
ギズ:最近のライブでは、序盤に意図的に2枚使いを見せるというシーンがあると思うんですけど、ああいうところに、初心者でもわかりやすくということの意識が現れているのかなとちょっと思ったんですけれど。
宇多丸さん:むしろ最近は、場合によってはもっとちゃんと説明しようということもあります。あるとき風とロック(※6)に呼ばれたときに。
Mummy-Dさん:福島、福島。
宇多丸さん:福島か。もう、お客さんというか会場の雰囲気とかも含めて、老若男女だし、現実におじいちゃんが孫連れて来てるみたいな。客層見て、これまずいよねってなって。
Mummy-Dさん:子どもがタタタタッて走ってて(笑)
宇多丸さん:それは極端でわかりやすい例ですけど、さっき言った、僕らを意図せずに見ちゃってる人の視線を意識すると、やっぱりヒップホップ怖くないですよ、敬語使えますよ、と。バカじゃないですとか。そういうところから始めて、後ろでコキュコキュやっている人はこういうことやっていますと。
比較的それをわかりやすく、超絶テクニックというよりは、わかりやすく見せるとですね、おじいちゃんおばあちゃんみたいなのも、はーって感心するのもあるけれど。あんたらわかってるでしょって思ってた若い層に話しかけられると、「今日の説明よかったですよ、俺わかってなかったですよ」って(笑)「あ、そう」みたいな。「これ毎回やったほうがいいかな」「やったほうがいいっす」みたいな。ロックフェスとか程度のアウェイというか距離感でも、やっぱりそのくらいは入れるようにしていたりとか。
ギズ:あれをやることによって、客席との距離が縮まる感じがするんですかね。
宇多丸さん:知らない人ほど、要はこうやってやってます、こういうつもりでやってますとか言ったほうが絶対縮まります。それこそ後ろにいるあの人は何なんだろうかとか(笑)DJみたいな人がいて。実際、歌番組だと何もやってなかったりするんですけど。
だからなんのためにあの人がいるのかというと、みたいなことを序盤に見せておくという。こうやって説明することで、コミュニケートしようとしている人なんだと思うから。
Mummy-Dさん:ヒップホップって、「Yo〜」っていって、閉じてると思われる感じだから。
宇多丸さん:話しかけてる! わかってもらおうとしている!(笑)というだけで全然違うんだと思うんですよね。
ギズ:ライブ序盤にそういうことをやると、客席の反応は全然違ったりするんですか。
宇多丸さん:場合によってはそうですね。ステージで最初に話しているときに、今日は客が硬いなと思っていても、単にヒップホップの乗り方みたいなのに戸惑っているだけで。じゃあこうやって声出してくださいとか、こういうもんですよみたいなことやると、だんだん言うことを聞いてくれるじゃないですけど。こっちも門戸を開いてあげると向こうも開くというか。
ギズ:そういう親切丁寧なやり方をされているほかのヒップホップの方たちっているんですかね。
宇多丸さん:アウェイ戦をちょいちょいやってる人はやってるんじゃないですかね。外部を意識せざるを得ないというところで活動している人は、やっぱり。もうちょっと違うやり方かもしれないですけれど。
DJ JINさん(DJ / Produce)
ギズ:RHYMESTERさんは、他のアーティストとのコラボも多いので、外に出て行くとうことを意識しているのかなと思っているんですけれど。
DJ JINさん:それも広まる要因っていうかね。ヒップホップというコアなところにも訴えながら。最初はクラブシーンの中でいろんなジャンルの人とつながっていったりとか。そこからまたミュージシャンとかバンドの人たちとかつながるようになって、そこからまた少しずつ仲間が増えて。そうするとまた新しい世界が見えてくるっていうか。そういう感じですね。
宇多丸さん:今となっては、いろんな人とやるのは普通になってきましたね。もともとヒップホップって、音源はいろんなところからもってくるわけだし、ラップは何にでも乗せられるから。なので、共通の言語があるんだというのもわかったし。もはや、いろいろやりすぎちゃって。違うジャンルだからっていう気負いはなくて。
ギズ:異種格闘技みたいな感覚はない。
宇多丸さん:異種格闘技なんですけど、それがデフォルトっていうか。多分、ほかの音楽ジャンルもそういうスタンスが普通になってきてるというか。ロックもジャズも。だから、普通じゃない? おもしろそうだからやろうという。
ギズ:最近はコラボというか、ひとつのバンドでいろんなジャンルの音楽をやったりしますからね。ジャンルが混ざったような感じの。
宇多丸さん:ラップしてたりするのも普通だし、そのテクニックとかもレベルが高いというのもあるし。
ギズ:今はアイドルの曲にも入ってきたりしますからね。
宇多丸さん:それがみんなうまかったりしますし。
ギズ:やっぱりうまいと思われますか?
宇多丸さん:世代の進化を感じますね。
ギズ:もうネイティブにそういうことができる世代なんだと。
宇多丸さん:もしくは作り手側がわかっていて、そのわかってる度合いが進化しているのかなと。最近、曲によってフローを変えてきたりするし。これ普通にプロパーのヒップホップと同じだよねって思ったりしますよね。
ギズ:それをヒップホップのジャンルでやっているわけではなくて、違うジャンルでやっていると。
宇多丸さん:アイドルというジャンルなんだけど、もうここまでくると差ってないかもって。言っていることが攻撃的であったり。
ギズ:最近のRHYMESTERは、アルバムごとにコンセプトを持っているという感じがします。活動休止の後に作られた「マニフェスト」(※7)はヒップホップにRHYMESTERが戻ってきたという意味もあったかなと思うんですけれど、その次の「POP LIFE」(※8)というアルバムでは、どちらかというと世間とのつながりというか、一般とのつながりが非常に強いアルバムだなと思っていて。特に「Hands」(※9)という曲は、「今までのRHYMESTERなら絶対やらないよね」ってみなさんがおっしゃっていたりとか。そのあたりの作り手側の考えの変化みたいなのはあったのでしょうか。
Mummy-Dさん:最近すごく考えるんだけど。当時は確かに、「マニフェスト」を出したときは、トピックの幅を広げなきゃいけないなとか、一般のリスナーが聞いて自分の歌だなと思ってもらえないとだめだなと思っていたんだけど、まだまだちょっとRHYMESTERのMummy-D、宇多丸として唄ってるところがあった。だけど「POP LIFE」はもう、一般人でラップができる坂間大介さんが歌っているみたいな気分で書いてたので、そこは結構変わったのかな。
アルバム「POP LIFE」収録曲「Hands」Music Video
かっこいいヒップホップって何なんだろうって考えて。やっぱり、単純にボースティングっていう、自分のスキルがどれくらいあるかとか、そういうことを攻撃的にラップしていくのが一番かっこいいはかっこいいんだけど、それだけだと人にどうって聞いたときに、反応としてはかっこよかったかかっこよくなかったしかない。
でも、例えばこれはこんなテーマを歌っているよとか、そういう届け方をすると、俺はそれに対してこう思ったとか、反応しやすいというか。感想が言いやすいというか、自分たちが出したものに対していろいろ考えてもらったりできるでしょ。そういうことをやっていかないと、と思う。いい歳こいた自分たちが、今後次の世代のために若干文句を言われつつもやっていかなければならないことなのかなと。
これからのヒップホップはただかっこいいだけだと限界があるし、ただかっこいいだけっていうのは、若い子に絶対勝てないから。フレッシュなものが一番強いわけだから。自分たちとしてはこれから日本のヒップホップに自分たちが貢献できるとしたら、トピックの幅を広げて、ヒップホップというのは意外といろんなことを言っているらしいよっていうのを、一般の層にも認識してほしいというか。
じゃないと、もっとバカやっていると思っている人いるから。そういう不良っぽいイメージは大事なところではあるんだけど。オールドファンたち、コアなヒップホップヘッズたちには「なんだだせえよ」とか言われつつも、やっていかなけきゃいけないのかなという、ちょっと覚悟みたいなものがあったかな。
ギズ:自分たちの下の世代の、先のヒップホップも見据えた活動だったり、考え方だったりするのかなと思ったんですが。
Mummy-Dさん:すごく頭がよくないとできない音楽だし。学力っていう意味じゃなくてね。やっぱ結構頭の戦いでもあると思うんだよね。言葉の戦いであり。
ギズ:「マニフェスト」の製作中に「ONCE AGAIN」(※10)という曲を作るにあたって、ヒップホップワードを禁止にしようという話であるとか、宇多丸さんのラップに対してもMummy-Dさんが「もっと一般的な言葉を使おうよ」とディレクションしたとお聞きしました。そこが活動休止と前と後での大きな違いだったんですか?
アルバム「マニフェスト」収録曲「ONCE AGAIN」Music Video
Mummy-Dさん:そうなんじゃないですかね。僕は活動休止している間、マボロシっていう別ユニットをはじめて、そのときはギタリストの竹内朋康くん(※11)と、ギターとラップの変わったユニットみたいなのをやっていて。
そのときは、いわゆるヒップホップシーンみたいなものにまったく守られてない状態でやってたつもりだったんだけど。それがあって、そこで外に向かって外に向かって、ちょっとでも可能性を広げようとしていた後だったから、そういう意識が働いていたんだと思うんですよね。
ギズ:武道館公演(※12)をやられたというのも大きな転機だったのでしょうか。
Mummy-Dさん:転機は絶対転機だよね。チャートにも入らないようなヒップホップで、ここまでもってきたぜっていう。スタイル曲げないでやってきて、ここまでできたっていうことは、RHYMESTERの歴史の中で、一番でかい転機だったと思うけどね。
ギズ:DJ JINさんは、現在ではあまりいない、アナログレコード2枚使いにこだわっていらっしゃいます。アナログレコードのスタイルを守っていくというのはどういう意図があってのことなんでしょうか。
DJ JINさん:理由はいろいろあるんですけれど。昔からずっと使い続けているアイテムいうのもあるし。今PCがあれば、DJってすぐできるし、手持ちのPCに入っている曲があればすぐにDJができる。手軽で便利じゃないですか。そのこと自体はすごくいいと思います。誰でもできるっていう敷居の低さというものは、裾野を広げることだからいいと思うんですけれど。
自分なんかは、レコードをずっと使い続けてDJをやっていて、ある程度コレクションとか、レコードもたくさんあって。逆に今数少ないレコードでDJやってる人たちになっていた。そうこうしているうちに、それが逆にオリジナリティになって、こっちは別に昔から変わらないことをやってるつもりなんだけれども、それが逆に今の時代で新鮮に映ったりしている。
あと、不便なんですよねレコードって。重いし、エディットとかもできないし。逆にそこをプラスに転嫁していくというか、不便なところを工夫して、それこそほんとにアナログな手段だけれども、曲の途中から音を出したいとき、針をトレースするために、レコードの溝に直接シールを貼るみたいな。そういうものすごいちまちました作業を含めて、そこが味になったりとか。
レコード使っている人が少ないから、逆にそれがプロの道具というか。若干敷居が高いけれども、だからこそプロのツールになってるっていうところもありますよね。
さっきちょっと話が出ましたが、アナログレコードで2枚使いすると、ライブをやっているときに“ゆらぎ”っていうグルーブの醍醐味が生まれるんです。昔のブレイクビーツのファンクの曲とか2枚使いして、その演奏自体が生演奏のものだからビートが揺れてるのに、それをさらに同じところを繰り返すことで、またちょっと違うノリっていうか間が出てきて。それで二人と絡んでいくことで、ものすごい演奏をしている感じっていうか、ダイナミズムが生まれる。
そこにやっぱり、お客さんがなんかよくわかんないけれど引き寄せられるみたいなところもあるかなと思って。そういうレコード使ったルーティンは、大切にしていきたいかなと感じていますね。
ギズ:むしろ逆に今は、武器みたいな。
DJ JINさん:そうですね。これ珍しいよーっていう(笑)、そういうのはありますね。なかなか見れないよっていう。
ギズ:多分、僕らが見ても全然わからないような高度な技もされていると思うんですけど、そこよりは、初歩のところの説明をしたりして、知らないお客さんにも届けるといったことは今後も続けていきたいと。
DJ JINさん:そうですね。何らかのアナログレコードを使ったものは入れられたらと考えていますね。
宇多丸さん:あと、素朴というか、基礎的な技にしかない、「送りスクラッチ」っていうのを作ったんですけど。
DJ JINさん:そんなめちゃくちゃ速く手を動かさなくちゃいけないとか、そういんじゃなくて。グルーブさえ、ドラムのリズムの感覚さえ合えば誰にでもできるみたいな。
宇多丸さん:だけど目の前でそれをやられると、おお、おお、おおおお、かっこいいって(笑)。多分最初に、レコードをこすったら違うグルーブが生まれる、スクラッチという技を考えた人が、ワーッてなったのと同じものが目の前で起こるっていうか。超絶進化したものが忘れがちな、最初に何をおもしろいと思ったのかっていうのを思い出してくると思うんです。
今見ても、わかっちゃいるのに、おお、おお、おおおお(笑)ってなる。それは、さっきJINが言ったように、正確にエディットして何かを繰り返すものとは絶対に違う、失敗するかもしれないし、針も飛ぶかもしれないし。だからリスクとスリル込みの何かというか。それが、おおうまく言ったーとなる(笑)
シングル「人間交差点 / Still Changing」同梱の「King Of Stage Vol.11 The R Release Tour 2014」ダイジェスト。送りスクラッチバージョンで披露される「サバイバー」
Mummy-Dさん:今そこでやってる感がないと、俺らのライブは下手するとカラオケライブになっちゃうから。今そこで、DJがやってるんだ、針が飛ぶかもしれないぞっていうね。ヒヤヒヤヒヤヒヤしながら。俺らなんか針飛んだらやったー! きたー!(笑)はいはいはいはい、アカペラでつなぐから大丈夫大丈夫いつでも戻ってきてって。戻ってきたりすると、おーーーー!って。
宇多丸さん:JINがどこで戻してくれるのかみたいなので、きたー! みたいなのはありますね。むしろカタルシスを生んだりもするし。
Mummy-Dさん:お客さんとしたらね。ああ、今そこで起こってるんだっていうのがわからないと。その辺にRHYMESTERはバンドなんだなっていうのを感じてくれていると思うんですよね。リスナーの人も。
宇多丸さん:目の前で何かが立ち上がる感じみたいなのが、舞台芸術全般のアドバンテージだと思っています。演劇もそうだと思う。目の前でただしゃべっているだけなのに、普通じゃない空間が今目の前であるなみたいな感じとか。
普通にしゃべってたおじさんが、レコードかけてただけなのに、違うもんが生まれたみたいな。目の前で今何かが生まれたみたいな。でそれを見せるっていうことですよね。見てて見てて、今出るからねって(笑)
ギズ:針が飛ぶことってあるんですね。音が止まっちゃうってことですか。
DJ JINさん:針が飛んだら止めちゃいますね。
Mummy-Dさん:リズムも狂っちゃうし。
ギズ:針が飛んだら、全然違うリズムが始まっちゃうこともあるわけですもんね。
DJ JINさん:そうですね。止めて、リカバリーをします。元のところに戻していく作業を。
宇多丸さん:僕らがやっている間に、どこで戻るかな、だいたいサビで戻るだろうとして、サビの部分にセットして。
ギズ:それまではラップでつないだりとかして。
宇多丸さん:そこで進行を止めちゃうのはね。そのままやってどうやって着地するかがプロですよ。
ギズ:そこも含めてテクニックの一貫なわけですね。
宇多丸さん:よく見ているお客さんなんかは、「今日はラッキー」と思いますよ。
DJ JINさん:そうですね。
ギズ:アクシデント的なものが見られるというか、予定調和じゃないものが出てくる喜びですね。それが起こったときは、お三方が予測できないわけじゃないですか。
宇多丸さん:予測できないですね。
ギズ:お二人は前で音消えたなと思ったら、そこからは打ち合わせもしないから、三人の感覚というか。
Mummy-Dさん:だいたい、宇多さんがラップしているときに何か起こっちゃったときは、俺がJINのところに行ってOK、OKって言って。用意できたってなったら、宇多さんの横に行って、合図出して(笑)
宇多丸さん:そのままアカペラ続けて、サビ一回ししてそれでもリカバーしないときは、多分ただ針が飛んだだけじゃないんだなみたいなこともあり得るから、そこは一旦なんとかサビをかっこよく締めて。なんとかだぜ~みたいなこと言ってこっちの様子見ながら、メロが鳴って。
Mummy-Dさん:鹿児島? 鹿児島だっけ。
宇多丸さん:で、もう1回ドーンと行くとか。
Mummy-Dさん:あれは楽しすぎるよね。
宇多丸さん:ちょうどビデオでガッチリ押さえてたから、おいしい! っていう。
ギズ:ダーティーサイエンスのDVD(※13)ですね。
宇多丸さん:ファイナルでよりによって。
DJ JINさん:針飛びしちゃって、曲の頭をジャストで出さなきゃいけないときに、完全な無音の部分ができちゃって。メドレー形式のときに、無音の空間がパってきて。ラップここから行くときに音が出ない! そこで二人が。
Mummy-Dさん:マトリックスみたいな(笑)動きで場を持たしていた(笑)
DJ JINさん:その間に俺が一生懸命戻して。それは間が持っているのかっていう(笑)
Mummy-Dさん:あれだよ、時間が今ゆっくり進んでいる(笑)
ギズ:アドリブでそれが急に出てくるのがすごいですよね。
Mummy-Dさん:いや、出てくるとかじゃない。もう、ぎりぎりでやってる(笑)時間感覚を表現するしかない(笑)
ギズ:お客さん的にはそれが見られたらラッキーですよね。
宇多丸さん:そうですよね。あとからお客さんにあのリアクション聞いてみると、「あれはああいう展開じゃないですか?」 っていう。そういう演出だと。
Mummy-Dさん:そんな危ないことやるかよ(笑)
ギズ:それもアナログレコードならではですね。でも昔は、アナログレコードでDJをやっていた人たちが多かったわけで、そういうことが起こっていたということなんですかね?
宇多丸さん:そうですね。PCのDJソフトでも飛ぶは飛ぶでしょ?
DJ JINさん:どうなんだろうね。止まっちゃったりしたとか聞くことはあるけどね。
宇多丸さん:アナログレコードのインターフェイスだけを使って、根本的な音はPCから出しているというのも結構主流で。あれも、インターフェイスのところまでPC化しちゃうと、相当ヒップホップっぽくない見た目になってくるよね。
Mummy-Dさん:動きがどんどん小さくなっちゃうからね。どんどんブラックボックス化してっちゃって、DJが何やってるんだかどんどんわからなくなってっちゃう。
宇多丸さん:売れっ子DJはみんなパフォーマンス化している。
Mummy-Dさん:ブースにはほとんどいない(笑)ケーキ投げるみたいな。
宇多丸さん:ほんとその傾向強いと思うんだ。
ギズ:そういう方向性も、テクノロジーの進化により生まれてきている。
宇多丸さん:ある意味、そういうことをする余裕が出てきたと言えるし。
ギズ:それはそれでよい傾向ですよね。
宇多丸さん:ヒップホップって、一方では出てきたテクノロジーに軽薄に飛びつくっていうところがあって。使えるものは何でも使うっていうそっちの美学もあるんですよ。だから、PCでいいでしょ、というのもヒップホップぽいなっていう。
ギズ:今のヒップホップをやっている人たちは、アナログを通ってない人もいっぱいいるわけですよね。
Mummy-Dさん:そうですね。それはいっぱいいますよ。
ギズ:CDで音楽を初めて聞いて、すぐにデータで購入する時代がやってきて。
Mummy-Dさん:CD買う意味は?
ギズ:好きなアーティストに関しては買う感じでしょうか。
宇多丸さん:お布施として。
ギズ:歌詞カードとか見たいんです。アートワーク含めて、盤面にどういうプリントしているのかとか、そこも含めて見たいというところもあると思います。みなさんはどうですか? 音楽買われたりCD買ったり。
宇多丸さん:多分同じですよ。CDも買うし、ポチッとすることもあるし。
DJ JINさん:俺はやっぱりアナログレコード中心。
ギズ:それは、聴きたいものがアナログレコードでリリースされるからですか?
DJ JINさん:それもあります。あとは、DJとしてプレイしたいというのもありますし。レコードにならない、いい曲もあるから、そういうのはちょっと残念なところありますよね。
宇多丸さん:どうせ買うなら、使いたいもんね。
* * *
RHYMESTERインタビュー前半戦はここまで。後半では、今話題のサブスクリプションサービスや、ニューアルバム「Bitter,Sweet & Beautiful」についてのお話をお届けします。
座して待て!
アーティスト:RHYMESTER(ライムスター)
タイトル:Bitter, Sweet & Beautiful
レーベル:starplayers Records / Victor Entertainment
リリース日:7月29日(水)
収録曲
1. Beautiful - Intro Produced by DJ JIN, SWING-O
2. フットステップス・イン・ザ・ダーク Produced by PUNPEE
3. Still Changing Produced by BACHLOGIC
4. Kids In The Park feat. PUNPEE Produced by PUNPEE
5. ペインキラー Produced by KREVA
6. Beautiful - Interlude Produced by DJ JIN, SWING-O
7. SOMINSAI feat. PUNPEE Produced by PUNPEE
8. モノンクル Produced by PUNPEE
9. ガラパゴス Produced by BACHLOGIC
10. The X-Day Produced by Mr. Drunk
11. Beautiful Produced by DJ JIN, SWING-O
12. 人間交差点 Produced by DJ JIN
13. サイレント・ナイト Produced by PUNPEE
14. マイクロフォン Produced by BACHLOGIC
正しさを見つけることすら困難な時代を駆け抜ける、さながら壮大なヒップホップ・シンフォニー
ライムスター史上最多公演全国ツアー「KING OF STAGE VOL. 12 Bitter, Sweet & Beautiful Release Tour 2015」開催決定! ただいまチケット先行発売受付中。詳しくはライムスターHPで。
※2 2002年公開の映画。エミネムの半自伝的作品で、シリアスなストーリーとエミネムの演技が高評価を得ている。上へ戻る
※3 1996年7月7日、日比谷野外音楽堂で開催された、日本初の大規模ヒップホップイベント。ビデオおよびDVDはカッティング・エッジから発売されている。上へ戻る
※4 2015年5月4日に急逝した、さんピンCAMPにも出演していたユニット「BUDDHA BRAND」の元MC、DEV LARGEの追悼イベント。6月25日に開催。RHYMESTERも出演した。上へ戻る
※5 RHYMESTERの楽曲。1996年12月に発表されたインディーズ時代の2枚目のシングル。上へ戻る
※6 「風とロック芋煮会」。クリエイティブディレクターの箭内道彦が発行するフリーペーパー「風とロック」と「福島民報社」が主催。2009年から福島にて開催。音楽ライブはもちろん、芋煮鍋、キャンプファイヤー、肝試しなどさまざまなイベントが行われる。2012年12月には福島、沖縄、札幌、長崎、東京などを巡る「風とロック LIVE福島 CARAVAN日本」を開催。上へ戻る
※7 2010年2月発売の、RHYMESTER5枚目のアルバム。上へ戻る
※8 2011年3月発売の、RHYMESTER6枚目のアルバム。上へ戻る
※9 「POP LIFE」の6曲目に収録されている曲。上へ戻る
※10 2009年10月発売の10枚目のシングル。「マニフェスト」の2曲目にも収録されている。上へ戻る
※11 SUPER BUTTER DOGの元ギタリスト。上へ戻る
※12 2007年3月31日開催されたRHYMESTER初の日本武道館公演。公演後に活動休止を宣言。上へ戻る
※13 2014年3月発売の、RHYMESTERのライブDVD/BD。正式名称は「KING OF STAGE VOL.10 ~ダーティーサイエンス RELEASE TOUR 2013~」。2013年のツアーの様子が収録されている。上へ戻る
source: RHYMESTER(ライムスター)
(三浦一紀)