編集部記:Sam Maddenは、Crunch Networkのコントリビューターである。彼は、PocketSuiteの共同ファウンダーである。
Homejoyの失敗を見て「オンデマンドマーケットプレイス」の根本的なモデルを投資家、メディア、更にはコンシューマーが疑問視するようになった。この疑問は、VCの資金がオンデマンドサービスプラットフォームにここ数年で大量に投入されているのも関係しているのだろう。(2014年には40億ドル超だった。)
投資家の視点では、このモデルは理にかなうものだ。プロダクトはスケールすることができ、ローンチ初日から利益を生み出し、強力なバイラル効果が得られる。Homejoyもこれに当てはまっていた。
Homejoyのミッションは明確で好ましいものだった。家の持ち主が、品質の高いホームクリーニング(後に他のホームサービスにも拡張した)を便利に利用できるのと同時に、プロのサービス提供者が起業家となる助けを提供する。
素晴らしいビジネスモデルに素晴らしいミッションを掲げていた。Homejoyは4000万ドルを調達するのに値する企業だった。
しかしHomejoyは失敗した。最も注目される失敗理由は、ワーカーとの雇用関係の区分における訴訟だ。Homejoyはプロを「契約者」として扱ったが、多くのプロは彼らは「従業員」であると訴え、従業員の規定に則った同水準の給与、福利厚生などを受ける権利を求めた。
彼らの主張通りに労働関係を変更した場合、Homejoyの経費は大幅に圧迫され、利益を得る手段を完全に変えることになっただろう。
「オンデマンドマーケットプレイス」の根本的なモデルを投資家、メディア、更にはコンシューマーが疑問視するようになった。
他の失敗理由として、企業の成長スピードが速すぎたことが挙げられている。カナダやヨーロッパへの進出が早過ぎた。どこの地域に進出するにも、マーケティングへの先行コストが膨大にかかる。急速な事業拡大は資金を急激に溶かす。しかし、最終的に投資対効果が見合う明確な筋道を示せるのなら、投資家は事業拡大計画に納得するだろう。結果的にキャッシュフローが上向くことが期待できれば良いのだ。
だが現実には、Homejoyの掲げた利益を得る方法は実現可能なものではなかった。プロとの雇用関係が契約だったとしても、中核市場の都市でさえ利益を得ることは可能ではなかった。その理由は突き詰めると、この企業が対象とした市場の性質によるものだと言える。
ホームサービス市場は巨大だ。4000億ドルから8000億ドル市場だと予測され、多くの起業家や投資家が注目している広大な市場だ。しかし、この市場の性質は他のサービス市場とは異なり、特殊な力学が働いている。(他のサービス市場とは、交通、配送、フリーランスによる執筆などだ。)
自宅は自分が占有しているものだ。安全を確保できる場所だ。就寝したり、食事をしたりする場所で、愛する人が住んでいる。自宅の中、あるいは周辺でさえ、誰かを招くには相当な信頼関係が必要だ。
ホームサービスを誰かに依頼するには、保証と品質を重点的に精査する必要がある。無骨な配管工を家に入れるのにも、安心感がなければできない。毎月同じクリーナーに掃除を依頼するにも、一定の品質が保証されている必要がある。自宅を鍵を預けることになるペットシッターを信頼する必要があるのだ。
そして、信頼できて品質の高い仕事をするプロと巡り合ったのなら、彼らを手離したくなくなる。このクライアントとプロの関係は何十年に渡って続くこともある。このようなサービスは何回も利用されるものであるため、クライアントとプロの双方は透明性を求める。クライアントは「このプロは思っていた通りの仕事をし、毎回同じように家を整えることができるか?」を見定めたいと思い、プロは「今月いくら売上が見込めるだろうか?」という予測を立てたいと考えている。
Homejoyは、家の持ち主が家に招くプロを探して依頼することを驚くほど簡単にした。また、未経験者でも働く意欲があり、時間の空いたプロがすぐに仕事に取り掛かれるようにした。Homejoyを利用することで、双方の抱える問題が解決したのだ。
しかし品質とコストの釣り合いが破綻していた。オンデマンドマーケットプレイスがホームサービスの分野で成功するには、プラットフォームは運営費を賄うために、最高品質のサービスを提供するか、あるいは素早く簡単なサービスを低価格で提供するかのいずれかに専念しなければならない。
Homejoyは、ユーザーが契約者を見つけて依頼するビジネスモデルを構築したため、プロへの研修の提供や仕事の品質保証には限度があった。このモデルは、クライアントに競争的な価格を提示することができ、家の持ち主にとってそれは一見魅力的なものだった。
しかしHomejoyのプラットフォームは「仲介者」の位置にあるため、取引決済の25%を得ていた。よってプロの報酬としては破綻した価格となる。そのため、彼らのプラットフォームには若く、未経験で品質の低い仕事をするプロの労働者(時にホームレスの人も含まれていた)を引きつけることになり、結果的に一定水準に満たない低品質の仕事が多くなった。これは、自宅に一点の曇りも残さないような品質の仕事を望む一般的なユーザーの意向と合致するものではなく、プラットフォームからの離脱を招いた。
Homejoyの別の選択肢は、従業員モデルに近い形にシフトすることだった。一定の品質レベルを担保するためにプロに研修を行い、彼らに市場価格の報酬と福利厚生を保証してカスタマーにつなげる形だ。しかし、もしHomejoyが取引毎の利益を得ようと考えるなら、家の持ち主は市場価格より高い料金を支払わなければならなくなる。市場で平均的な品質のクリーニングに対し、市場の平均価格以上を料金を支払うということだ。
この構造は、私たちが「プラットフォーム漏洩」と呼ぶ確率を高める。これは、クライアントが信頼できるプロを見つけた場合、オフラインで連絡を取り、彼らの提供する品質の高いサービスをより安価な値段で、いつでも素早く簡単に依頼できるようにすることだ。ホームサービス市場は、クライアントとサービス提供者との関係性が近く、信頼に重きをおいたモデルであり、その関係性は長く続く傾向にあるため、漏洩が起こりやすい。
家の持ち主にとってHomejoyの全てが悪かったのではない。Homejoyはスキルのあるプロと家の持ち主を上手くマッチングしていたし、実際にクライアントとプロはビジネスの関係性を構築することができた。問題は、このような関係が「オフライン」へと向かったことだ。(つまり、プラットフォーム漏洩)
家の持ち主が一度信頼できる良きホームサービスのプロを見つけることができたのなら、プラットフォームに戻って新しい人を探すことにメリットはない。既に見つけた人より良い人を見つけられる保証はないのだから!良い仕事をするクリーナーに出会った家の持ち主が率先して、サービスを同価格(それ以上、時にはそれ以下にもせず)でプロにオフラインで仕事を依頼し、漏洩が起きていた。間違いなくHomejoyは便利なプラットフォームだったが、多くのクライアントにとってテクノロジーの便利さより信頼と品質が重要だったのだ。
プロにとって、オフラインで依頼を受けることは、仲介者がいなくなるために給料が即座に上がることを意味した。そして、定期的なキャッシュフローの源泉を得ること、そしてサードパーティが重要な顧客情報を保持するのではなく、自身で保有できることが確実なものとなる。
Homejoyから追放されるリスクもプロにはある。だが、プラットフォームで得ていた収入では生計を立てることは難しいため、そのリスクを取ることが正当化された。また、オフラインでの取引を望んだのはほとんどがクライアント側であったため、尻尾を掴まれるリスクは小さかった。誰が文句を言えるだろうか。
Homejoyで嫌な体験をした家の持ち主には、他の代替手段が多く用意されている。最近、信じれないほど多くのローカルマーケットプレイスが登場している。自分にぴったりのホームサービスのプロを検索して、依頼できる様々なビジネスモデルのサービスが多く存在するのだ。例えば、 Yelp、Thumbtack、Angie’s Listはその一部だ。それぞれは独自の方向性、デモグラフィック、ユーザーエクスペリエンスを提供している。
家の持ち主が新しいクリーナーを探すのに便利で簡単な方法を求める場合、それを満たす多くの魅力的な手段がある。Homejoyとは異なり、これらのビジネスモデルの多くはプロを直接クライアントに供給し、協力して仕事ができたりするようにすることで、市場に流動性を与えているためにスケールも可能だ。この分野で重要となる直接的な関係性を妨げていないのが、Thumbtackが特に大きな成功を収めている理由の一つだ。
サービスに特化したオンデマンドプラットフォームでは、コモディティに近いサービスが成功を収めている。
特にホームサービスの市場のマーケットプレイスモデルは漏洩の問題に直面しやすい。ユーザーはぴったりのクリーナー、犬の散歩代行者、庭師を見つけた途端、再度プラットフォーム内を検索するプロセスを辿らなくても、彼らといつでも連絡が取れて依頼ができるようにしたいと思うのだ。プロにとって、継続的に依頼をするクライアントがどれだけ重要な存在であるかは分かりきっている。
サービスに特化したオンデマンドプラットフォームでは、コモディティに近いサービスが成功を収めている。業界としては、交通(Uber)、食品配達(Instacart)、配送(Shyp)などだ。これらのオンデマンドプラットフォームが成功しているのは、クライアントがプロに対して深い信頼を寄せなくても良いものであるからであり、サービスの品質に大きな差が発生するものではないからだ。
もちろん、従業員対契約ワーカーとの区分についての同様の法的な争いはあるが、このような企業の多くは、この問題に対してコストとの折り合いが付く施策を実施することができ、運営を全て停止しなければならないほど追い詰められていない。彼らの根底にあるビジネスモデルは機能していて、今後どれだけの利益をあげられるかが焦点となっている。
Homejoyが何故、どのように失敗したかは明白だ。企業は、 ホームサービス分野のクライアントとプロの関係に強力なテクノロジーを大胆な方法で適応しようとした。企業の持つテクノロジーがもたらした手法と便利さは、スタート時には彼らの追い風となったが、同じテクノロジーが最終的に彼らの終焉を呼び寄せた。長期の関係性が構築される独特な市場では、オンデマンドモデルは機能しなかったのだ。
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