マンション隣戸で中国人が毎夜宴会…爆発的普及、Airbnbの功罪 不動産市場を激変? | ニコニコニュース

「Airbnb」より
Business Journal

 とうとう起こってしまった――。

「Airbnb(エアービーアンドビー)」を利用した住宅での死亡事故である。7月22日夜、東京・渋谷区にあるマンション12階ベランダから4歳の女児が落ちて死亡した。その部屋は、どうやらAirbnbで中国人の母娘が借りていたらしい。

 Airbnbとは、2008年に米サンフランシスコで創立された企業が運営する、自宅をホテル代わりに旅行客へ貸すサービス。インターネットを使って利用客とホストを結び付け、双方から一定の手数料を徴収する。今や世界190カ国で計4000万人が利用している。日本でも急速に浸透しており、特に渋谷や新宿あたりにはたくさんあるようだ。今回の事件も、そういったマンションのひとつで起こったと思われる。

 日本には旅館業法という法律がある。旅行客を反復継続して宿泊させるためには、この法律の定める規制に従って許可を受けなければいけない。違反すると「六月以下の懲役又は三万円以下の罰金」に処せされ、微罪ではあるが違法なことには変わりない。

 海外旅行に行く間だけ自宅を他人に提供するというのなら問題ないだろうが、自分の住んでいないマンションやアパート、戸建て住宅を反復継続的にAirbnbとして旅行客に一日単位で宿泊させていると、かなり違法性が高い。現に昨年5月には逮捕された者もいる。

●Airbnbとマンション市場の密接な関係

 このAirbnbとマンション市場との間には、微妙ながら密接な関係がある。今や東京都心の新築マンション市場は、「実際に住む」ために買われているケースが少ない。物件にもよるが、半分以上は相続税対策や外国人による投資目的の購入だ。そういった住戸は、完成して引き渡されると、ほとんどが賃貸に出される。

 ところが今、日本国中で住宅が余っており、特にその傾向は賃貸住宅で顕著だ。オーナーは仲介業者に多額の広告費を出した上に、一定期間家賃が無料になるフリーレントまで付けなければ借り手と契約できないのが現実。しかも、やっと借り手がついても表面利回りは4%からせいぜい5%。借り手がつかなければ、管理費や固定資産税が持ち出しとなって賃貸経営は赤字となる。

 そういった賃貸の「空室」を救っているのがAirbnbである。例えば、月額25万円で貸せるくらいの2LDKなら、ベッドを4台置くことで1日2万円の料金を設定することも可能だ。利用者からすると一人5000円+清掃費+手数料。今やビジネスホテルでも一人1万円といわれる東京のホテル事情から考えると、かなりリーズナブル。一人当たりの面積は広いし、キッチンや食器も使えるので自炊やパーティも可能だ。

 一方、貸し手からすれば1カ月のうち20日間稼働させると40万円(マイナス手数料3%)という収入で、25万円の家賃で賃貸するよりもかなり収益が上がる。利用者との鍵の受け渡しや清掃の手配などは、専門の代行業者がいる。彼らに任せておけば手間いらず。実質的に賃貸経営と変わらない。

 Airbnbは一日単位で収益が上がるので、「募集に3カ月かかった」「フリーレントで最初の2カ月は収入なし」というようなことにもならない。管理費や固定資産税分によって運用成績が赤字になる確率も小さくなる。

 一方、今や日本はインバウンド(外国人訪日客)がブームで、今年は1800万人に達するという予想もある。ホテル不足は全国的な現象で、建設計画もあるが、増大する需要に追いついていないのが実態だろう。

 そういった状況の中で、国内不動産業界にとってAirbnbの普及は一見、需要と供給がマッチした「Win-Winの関係」に見える。増える一方のインバウンドをAirbnbによる民泊で吸収すれば、「爆買い」をさらに呼び込めるのである。

●新たな問題も

 しかし、これには問題もある。

「日経ビジネス」(日経BP社/7月27日号)の記事『中国人マンション“爆買い”の弊害』によると、湾岸エリアのタワーマンションを購入した35歳の男性が、毎夜のごとく隣戸で行われる中国人たちの宴会に業を煮やして調べてみると、Airbnbで貸し出されていた、というエピソードが紹介されている。管理人に訴えてもらちが明かず「売却も考えている」という。

 タワーマンションにおける外国人の「マナー違反」は、最近随分と話題になっている。エントランスロビーで宴会をやってみたり、パーティルームで期間限定のバーを営業してみたり。あるいは本来は遠方から来た家族や親戚を泊めるためのマンションのゲストルームについて、堂々とAirbnbで利用者募集が行われているケースもある。もちろん、そのマンションの管理組合は関与していない。

 では、今回の女児転落事故は、今後のAirbnbの普及にどう影響するだろう。

 自宅でない場所で反復継続して旅行客を宿泊させれば、旅館業法違反だろう。しかし、現実には厳しく取り締まられている形跡はない。自民党の一部議員はAirbnbを合法化するべきだと考えている。現に、国家戦略特区では民泊に関する規制を緩める動きがある。しかし、まだ決まったわけではない。

 所管は国土交通省と厚生労働省。うがった見方をすれば、インバウンドを増やしたい国交省は規制を緩めたいと考えるはずだが、民泊を広げても権益を増やせなさそうな厚労省は消極的ではないか。

 そしてこの規制緩和に関する陰の所管官庁は、警察庁かもしれない。彼らはインバウンドの動向を把握できないことを嫌う。なぜなら、そこには犯罪者が紛れ込んでいるかもしれないからだ。Airbnbで宿泊する者は、旅館業法で定める宿帳などに自分の名前や住所を書く必要がない。サイトを見ているだけでは、オーナーが誰かもわからない。画像データによる本人確認システムは偽造へのガードが弱いので、犯罪の温床になりやすい。警察庁の心理としては、犯罪者が利用しやすいシステムを嫌うだろう。

 今回の渋谷の件は、今のところ事故である。しかし、もしこれが殺人事件だったらどうなるだろう。警察庁はこれを奇貨として、Airbnbの規制に乗り出してくることも考えられる。

●Airbnb規制で不動産市場が冷え込む懸念も

 一方、日本でAirbnbが規制されると、外国人たちは日本国内の美味しい投資先をひとつ失うことになりそうだ。今なら東京都心のタワーマンションは表面利回りが4%程度でも、Airbnbで回せば10%前後の高利回りが期待できるので、彼らの購入意欲を刺激するかもしれない。しかし、そのAirbnbが規制されれば、一気に投資意欲が冷める可能性も十分ある。

 さらに、マンションデベロッパーや管理会社、管理組合にも動きがある。自分たちのマンションを外国人がホテル代わりに使用することを、喜ぶ人は多くない。これから引き渡される新築マンションのほとんどには「Airbnb禁止条項」が盛り込まれるだろう。管理会社はAirbnbに対して敏感になり、その対応ノウハウを研究して経験を積む。既存の管理組合はAirbnb禁止に向けて、困難な規約改正に努力するようになる。

 しかし、たとえ管理規約で禁止されていたところで、マナー感覚の異なる外国人が遵守するとも思えない。

 今のところ、中国人の「爆買い」は都心のマンション市場を支えている。彼らは、現在の不動産バブルの立役者である一方、将来に向けて悩ましい不安定要素でもある。Airbnbには、都心のマンションの風景を変える可能性さえ潜んでいる。
(文=榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト)