ばなーなー専用色。
色見本で知られるパントン社から登場した新色、その名もパントン・ミニオン・イエロー。これは映画「ミニオンズ」シリーズ最新作を宣伝するために発表された色です。ハッピーな気分になるための色と謳われていますが、米GizmodoのAlissa Walker記者はそうは思っていないようで…。既存のキャラクターをモデルにした色の登場について、こんな私見を述べていますよ。
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パントン社のカラーシステムは、デザイナーや生産業者たちが、生産地や手法に左右されることなく製品の最終的な色合いについて共通認識を持てるようになる、品質管理の役割を果たしてくれる素晴らしいツールなんです。同社が提供するサービスはそれだけに留まらず、コンサル業にライセンシング、トレンドの色の予想もしています。それが今や夏のヒット作の宣伝まで行うなんて…。
おそらくほとんどの人は、パントンが「色」にまつわる企業だとを知っているでしょう。毎年行っているその年の色の発表もすっかりおなじみになりましたよね。
毎年12月に行われているこの発表については、ギズでも一昨年、昨年、今年も取り上げてきました。楽しいですし、「色」といえばパントンを印象付ける、うまいやり方ですよね。
しかし「色」がすべてともいえる企業がアニメのキャラクターにちなんだ新色を作り出すということは、とてつもなく恐ろしいことなんです。パントン・カラー・インスティテュートのエグセクティブ・ディレクターはパントン・ミニオン・イエローについて、このように表現していました。太陽光のように私たちを元気付ける、希望、喜びと楽観の色だとね。
それに対する反応として、多くの人にRTされたツイートがこちらです。
where is your god now, designers pic.twitter.com/QZMnxk5ygM
— Logan Helpful (@bobby) 2015, 7月 14
上記のツイートは、問題点を面白おかしく指摘しています。というのもデザイナーはパントンなしでは生きていけないからです。生きていくことはできますが、パントンなしで何かを生産するのは大変なことになるでしょう。何故なら、製品の色を指定する際に明記しなくてはならない、パントンの色番号というものがあるからです。
色番号とは、1963年に発明されたパントン・マッチング・システムにある膨大な数の色に紐づくコードのこと。生産業者はこの番号をもとに、指定された色を作るには14種の異なるピグメントをどのくらい合わせるのかを知るのです。地球上にある消費者製品に使われている色のほとんどは、このパントン色番号で記すことができるとかできないとか(例外もあり、例えばアメリカ政府は独自のカラーシステムを使っています)。
デザイナーたちは50年以上に渡り、媒体間での色合いを一定に保つためにパントンを用いてきました。例えば大規模なブランディングのプロジェクトがあったとして、パッケージ、看板そしてユニフォームにおけるロゴの色は統一されます。しかし、これにはデザイナー側の負担も必要になります。色をきちんと比較、選択、吟味できるようにするため、パントンの色見本帳を購入しなくてはならないからです。しかし見本帳も色褪せてしまうので、同社は毎年の買い替えを提案しています(もちろん、デザイナーたちは買い換えますよ)。つまりデザイナーたちは、彼らの運命を左右するこの企業に、来る年も来る年も155ドル(約2万円)支払っているというわけです(見本帳はいらない? なら、色をスキャンしてパントンの正式な色番号を指定する680ドル〔約8万5000円〕の端末も買えますよ。でもおそらく見本帳も必要になるでしょうね。新色も見られるようにしたいなら49ドル〔約6,000円〕のソフトもありますよ。でもおそらく見本帳も…以下、略)。
色だけで言えば競合他社はいますが、大部分においてデザイナーたちはすべてコントロールするこの一社に翻弄されているのです。
T-MobileはAT&T傘下のAio Wirelessに対し、ロゴの色を別の種類のマゼンタにすることを求める訴訟を起こしました。
物事が厄介になるのはここからです。パントンが持つ色のなかには、商業的な重要性が主張された色もあるのです。例えば、コカ・コーラのトレードマークともいえる赤(484)は商標登録され、T-Mobileも独自のマゼンタ色(676C)を所有しています。これらの企業は競合他社にそれらの色を使われたら、訴えることができます。実際、そういった例もあります。それに法廷では、色を「主張」するためにパントンのマッチング・システムが引証されることもあるのです。
これでどんな事態が起こり得るか、もう分かりますね。
もしあなたがデザイナーだとして、何か気持ちが高揚するようなものをデザインしたいとします。希望と喜びと楽観に満ち溢れたキャラクターだとしましょう。そのキャラの色に、太陽光にインスパイアされたイエローを選びます。ミニオン・イエローによく似た色です。かっこよくて、心が高揚するようなキャラクターの製品を作りだし、それが大きな成功を収めるのです。
そしてユニバーサル・ピクチャーズとイルミネーション・エンターテインメントに訴えられるわけです。
パントンの色番号が割り振られたおかげで、そういった事態を招きやすくなったということです。
パントンの狙いは、日常生活でミニオン・イエローを使ってもらうこと。でも、この新色の登場でデザイン業界は黄色の製品を作りにくくなったのです。しかもこれだけに終わらないでしょう。
そのうちアベンジャーズのフランチャイズとパートナーシップを組んだり、ディズニーが色を所有するまで待ってみてください。ハルク・グリーン、アイアンマン・グレーに、ブラック・ウィドウ色。どうなるかは見当がつきますよね。
パントン社によれば、映画を宣伝するために色を作ったのは初の試みとのこと。願わくはこれっきりであってほしいものです。恐ろしい先例を作ることになってしまいますからね。
このコラボのアイディアを出したファレルも、こんな見解は予想してなかったでしょうね。
Alissa Walker - Gizmodo US[原文]
(たもり)