愛国論調で知られる中国メディア「環球網」が7月29日、「日本人はなぜ切腹自尽を好むのかを明らかにする。実際には起源は中国にあった」と題する文章を発表した。同文章は清末から民国初期に政治家や思想家として活躍した梁啓超(1873-1929年)の著書「中国の武士道」を引用したが、「愛国心にもとづく痛切な反省」の面で、大きく「劣化」していると言わざるをえない。
環球網の文章は冒頭で、日本人の切腹について「武士道精神と関係がある」、「日本で創造されたものでない。舶来品」などと紹介。日本人の切腹は中国から伝わったと主張した。
同文章には大きな欠点が2つある。
まず、中国に「腹切り」の古い記録を紹介したが「日本に伝わった」経緯の記述がない。つまり「論拠の科学性」に欠ける。
さらに問題なのは、「古いものはとにかく自国起源」との、東アジアの他の国でもしばしばみられる「自国の優位性」を印象づける論調になっていることだ。
文章は次に、梁啓超が1904年に著した「中国の武士道」から、「切腹は日本独自のものではない」などの記述を引用した。
しかし、「中国の武士道」は、「自国の優越さ」を説いた書ではない。むしろ逆だ。梁啓超は当時の腐敗した中国人の精神や清朝上層部の頑迷さを強く嘆いた。逆に日本については亡命した際に「役人から職人まで希望を持って活躍し、勤勉先取の気風に満ちた全てが、昔から無名の小国を新世紀の文明の舞台に立ちのぼらせた」などと記述した。
梁啓超の理解した「武士道」とは、「国の名誉も、自らの名誉も重視し、軽蔑は絶対に許さない」、「恩義を受けたからには、命を投げ出してでも報いる」、「自分の罪を許すことはせず、身をもって償う」などで、「日本に伝わる武士道精神を、古い中国人は持っていた」と指摘し、「中華の民」に改めて奮起を求めた。
梁啓超は明治期の日本の成功の理由を探り、「中華文明」の再興の道を模索した人物だ。近代以降の中国は、西洋文明を導入するために考案された「和製漢語」を多く用いるようになったが、梁啓超はその嚆矢の1人でもある。
環球網の文章は、梁啓超の「愛国心の故に、自らのの側の欠陥を直視し打開策を考え抜く」境地に、はるかに及ばない。文章の続く部分では、切腹の作法や「扇子腹」、「三島由紀夫の切腹。なかなか首を切り落とせなかった」など、「猟奇趣味」の記述がほとんどだ。(編集担当:如月隼人)(イメージ写真提供:123RF)